31:妻にプレゼントを贈りたい※ハンスside
ハンス・ガイダーは不器用である。
それは彼自身、自覚していることだった。昔からどうにも周りから『冷たい』と評されることが多い。
本気で他人のことを好きになったことなど今までなかったから、好意的な感情を言動で示すと言う機会がなかったからだろう。
だから、家族以外の人間――まあ、一応は伴侶なのだが――のノーマに好意を抱いてしまったとわかった時、彼はどうすればいいのかと頭を抱えてしまった。
しかも最近、ノーマのことを目で追ってしまっている。
さらにはそれが彼女本人にバレて不審がられていた。最悪だ。
そのまま本音を明かせれば良かったが、そんなことができるはずもなく、誤解は解けていない。
悩んでいれば悩んでいるほど、弱っていれば弱っているほど強がり、不機嫌になる。だからそれを見抜けるのは一番親しいネリーくらいなものだった。
「お兄ちゃんもやっと恋煩いの時期に入ったか〜。妹としてどれほど心配したことか。あぁ、良かった」
「……それで、何が言いたい」
「ん? お兄ちゃんの恋煩いを祝して、アドバイスしてあげようと思ってね」
ぺろ、と可愛らしく舌を出したネリーは、それから無理矢理ハンスに恋愛相談をさせた。
そしてそれを全て聞き終えた彼女は一言。
「じゃあ、プレゼントでも贈って告白しちゃいなよ。ちょうどノーマちゃんの誕生日、近いでしょ」
確かにノーマの誕生日は一ヶ月後ほどに迫っていた。
だがハンスは渋い顔をする。
「お前ならそう言うと思った。だがそんなことできるわけがないだろう。第一、俺はノーマの趣味など一切知らない」
「あの子は何を贈っても喜ぶとは思うけどね。どうしても心配だったら本人に聞いてみれば?」
「余計に非現実的だろう。ふざけるのも大概にしてくれ」
「別にあたしはふざけてなんかないよ? お兄ちゃんがヘタレだから、その矯正をしてあげようかな〜って思ってるだけ」
ヘタレ。言い得て妙。というか、今のハンスはヘタレ以外の何者でもなかった。
そしてこの言葉がハンスのやる気に火をつけた。
「……じゃあ早速準備だ。ネリー、ノーマからさりげなく好きなものを聞いて来てくれ」
「えっ、なんであたしが? あたしは恋の相談役にはなってあげるけど、さすがにそれくらいは自分でやったほうがいいと思うよ」
「俺が言うと不審がられることは間違いない。そうなったら困る。頼む、なんなら小遣い三倍にしてやってもいいぞ」
「あたしを小遣い程度で釣られる子供だと思ってるの? ……ま、仕方ないからやるけど」
そうして、やはりヘタレなハンスは妹に全てを任せた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
婦女子が好きなものとは一体何だろうか。
ドレス? 高価な宝石? それとも夜の接待? ……ギャデッテ王女と婚約していた時の経験を元にそんな風に考えていたハンスは、ネリーから教えられた答えに驚くことになる。
「馬、だと?」
「そう。ノーマちゃんを案内して領地を回ったことがあったんだけど、その時に気に入ったみたい。自分用の馬が欲しいって言ってたよ」
「……」
宝石類ならともかく、ハンスは馬に全く詳しくない。乗馬したことすらない。
馬を贈るのならばよほどネリーの方が適任に思えた。だがそうなると、ハンスから贈るものは一体何にすればいいというのだろうか?
ネリーに選ばせてハンス名義で贈る? いいやダメだ。誠意がないにもほどがある。しかしかと言って馬はあまりに専門外過ぎた。
「……それはお前が贈るといい。俺は別のものを考えるとする」
「え〜。せっかく聞いてあげたのに」
「これ以上ネリーの手を煩わせるつもりはない。俺一人で決めるから安心しろ」
安心しろ、と言ったものの、選べる自信は全くなかったが。
妻のプレゼント選びは難航しそうだった。
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