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27:気まずい帰り道

 ――気まずい。


 馬車に揺られながら、ノーマはチラチラと横ばかりを見てしまいたくなる衝動と戦っていた。

 横に座るのはハンスだ。彼もまた、こちらに時たま視線を向けて来ているような気がする。


(あんな大勢の前でハンス様を夫と言ってしまったんですもの、嫌に思われていてもおかしくありません)


 書類上の妻が何を言っているのだと思われたかも知れない。

 だがあの場で声を張り上げたことをノーマは後悔していなかった。ただ……改めて恥ずかしいとは思うが。


 ……ともかく、この気まずい空気をなんとかしなければならない。

 何しろ辺境伯領へ戻るまでには後七日以上かかるのだ。その間中ずっとこんな感じでは過ごしづら過ぎる。


 でも一体何を言い出せばいいのだろう。何を言っても悪手になる気がしてノーマが黙っていると、まるでタイミングを見計らったかのようにネリーが口を開いた。


「何さっきから二人で見つめ合ってるの? ふーん? もしかしてお兄ちゃん、ノーマちゃんのことが気になってたりするー?」


 揶揄うようなその言葉に、ハンスがあからさまに眉を顰めた。

 「何を言っているんだ?」と冷たく問いかけるハンスはすぐに、その赤い瞳は窓の外へ向ける。まるで興味もないと言いたげだ。


「見つめ合ってなどいない。ふざけるのはよせ、ネリー」


「ふざけてなんかないけど? お兄ちゃん、さっきノーマちゃんに助けられて、惚れちゃったんでしょ」


「馬鹿なことを言うな。馬鹿なことを……」


 それからまた、しばらくの沈黙。

 その静寂に耐えられなかったノーマは……本当はこんなことを言っていいのかと思いながらも、口を挟んだ。


「別に私は、ハンス様がどう思ってくださっていてもいいです。ただ、少しでも良く思ってくれてくださっていたらいいなとは、思います。一応、夫婦なんですから」


 ギャデッテ王女に敵対心を抱かれている以上、これからも何もなしでは通らないだろう。

 それこそ彼女が王族から除籍されれば大丈夫だが……ギャデッテ王女には王妃という協力者がいるからなかなかそう簡単に行くはずもない。

 これから王族に立ち向かう可能性があることを考えれば、ハンスとの関係をある程度築いておくことは大事だった。……もちろん肉体関係までは望んでいないけれど。


 しかしそこまで言ってもハンスは、ノーマの方を向いてくれることはなかった。


(やはり仲良くなってくれるつもりはないのでしょうか)


 ノーマはほんの少し気落ちした。


「ふふっ。ウブだねぇ〜」


 そんな彼女らを見つめるネリーが口の中だけで楽しげに呟いたのはノーマの耳には届かなかった――。

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