26:第一王女からの謝罪
「なんでこんな地味女がワタクシに逆らっているわけ!? 気に食わないわ! こんなの間違ってるわよ。礼儀がなっていないにもほどがあるわ。他の女などワタクシの前に平伏していればいいのよ! ああもう許せない、この反逆者どもを連れ出しなさいッ!」
ギャデッテ王女が喚くが、衛兵たちは誰一人として動かない。
が、ややあって、この場を呆然と見守っていた王族の一人――第一王女メルグリホから声が上がった。
「ギャデッテが乱心ですわ。直ちに彼女を連れ出してくださいまし」
彼女の一声に、今度こそ衛兵が動き出す。
すぐにギャデッテ王女を取り囲んでしまった。
「お、お姉様!? 違うわ、こいつらが! この女が悪いの!」
「ギャデッテのおっしゃる通りです。メルグリホ殿下、連れ出すべきはこの者どもではありませんか!」
まるで自分たちがこの場に相応しくない言動であることがわかっていないかのように――否、実際自分こそが正しいと思っているのだろう――抵抗するギャデッテ王女と公爵令息。
しかし彼らの言い分が通るはずもなく、王女はまもなく拘束される。そしてそれを力づくで妨害しようとした公爵令息も同じく捕らえられた。
それを目の前にしたノーマは誇らしげな気持ちになる。
(散々ハンス様を悪く言った罰が下ったんです)
ギャデッテ王女庇護の王妃も「先ほどの王女の行動は正当性があるものです」と言い張り、メルグリホ王女の命令を全力で撤回させようとしたが国王がそれを認めず、結局ギャデッテ王女たちは退場させられたのだった。
これぞ因果応報というやつであろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ギャデッテ王女が連行されたことで婚約発表は延期になり、舞踏会は開催されずにお開きとなった。
多くの貴族があまりの出来事に呆然となり、あるいは興奮しながら会場を歩き去って行く。その人混みに飲まれそうになる中で、ノーマはネリーと合流した。
「ノーマちゃんっ! お兄ちゃんも大丈夫!?」
彼女は今の今まで第二王女に親しい令嬢たちに足止めされており、動けなかったのだという。
お互い無事で本当に良かった。
「危ないところでした。でもどうにか大丈夫ですよ」
「あぁ〜安心した。お兄ちゃんとノーマちゃんが捕まるんじゃないかと思って、ほんと心配したんだよ。でもノーマちゃんがビシィッと言っててカッコ良かった!」
そんなことを言い合い、ガイダー夫妻のことも探しに行こうとしていると……ノーマたちは、否、ノーマはとある声に呼び止められた。
「ノーマ・ガイダー夫人。少しよろしいでしょうか」
振り返るとそこに立っていたのは、メルグリホ第一王女だった――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うちの妹は昔から手をつけられなかったんですの。ですがまさかここまで醜態を晒すとは。以前の卒業パーティーの際、きちんとしておかなかったのがいけなかったのですわ。ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした」
ノーマは今、メルグリホ王女に謝罪されていた。
王族が謝罪をするなど滅多にないことだ。しかも、それが自分に向けられていることがノーマには信じられなかった。
「そ、そんなっ。謝罪されるようなことでは……」
「わたくし、あまりに驚いてしまい、咄嗟に声が出なかったのです。あのまま黙っていてはきっとギャデッテは好き勝手に言っていたでしょう。それを収めてくださったあなたの勇姿を心から素晴らしいと思いましたの。自分が不甲斐ない限りですわ」
メルグリホ王女は銀髪に濃紺の瞳をしたとても麗しい女だ。
妹のギャデッテ王女とは、外見はもちろん内面も似ても似つかなかった。最初は非常に警戒したノーマも、メルグリホ王女からはただ謝罪をしたいという意図しか読み取れなかったので警戒を緩めることにした。
「こちらこそ、ギャデッテ王女殿下に不敬極まりない言葉遣いをしてしまい、なんとお詫びをして良いのやら」
「本当に感謝しかございませんわ。ああ、あなたにはまた後日きちんとご挨拶したいですわ。よろしいかしら」
「はい、ありがたく……」
謝罪と感謝、怒涛のやり取りにたじたじとなるしかないノーマ。
この時はまさか本当にたくさんのお礼がガイダー辺境伯家に届けられることになるなどと思ってもみなかったのであった。
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