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22/50

22:舞踏会

 煌びやかな舞踏会の中を、ノーマはハンスにエスコートされながら歩いていた。

 王家主催だが、王族が顔を出すのは一通り貴族たちの挨拶などが終わった後。それまでしばらく時間がある。


(愛さないと言っていた割には、律儀にエスコートはしてくださるのですね)


 周囲の目を気にしているのだろうか。最悪エスコートしてもらえない可能性も考えていたので、非常にありがたいことだ。これで形だけの妻だと笑われずに済む。


「この舞踏会の機に、ノーマちゃんがお兄ちゃん……次期辺境伯の妻だっていうことを多くの人に認めさせなくちゃダメ。侮られたらそれで終わりなんだから」


 ネリーが言っていたことを思い出しながら、ノーマは背筋を伸ばして精一杯美しく見えるように気をつけて歩く。

 チラリと視線を巡らせば、ガイダー夫妻と共に挨拶回りをしているネリーの姿が見えた。彼女の方もたまに心配げにこちらを見てくるので、ノーマは大丈夫だと伝えるために微笑んだ。


「何をニヤニヤしているんだ」


「ニヤニヤなどしていません。人聞きの悪いことをおっしゃらないでください、ハンス様」


「…………」


 全く見当違いなことを言って来るハンスを軽くあしらいながら、その間に近づいて来たとある人物へ視線をやる。

 よく見るとそれは、とある侯爵家の令嬢だった。美しく着飾ってはいるものの、胸の辺りを開けっぴろげにしたドレスを揺らすその姿から男好きなのだろうと直感する。


(……ハンス様狙いなのでしょうか)


 いくら名前に傷がついたとは言えど、ハンスはかなり評判の良かった青年だ。

 当然彼に想いを寄せていた令嬢もいるはず。もしそういう相手なら厄介だなとノーマは思った。


「ごきげんよう。ガイダー令息、お久しぶりでございます」


「……ああ」


「まあ、ガイダー令息ったらめずらしくご令嬢を連れていらっしゃいますのね。初めまして、(わたくし)、ウェールズ侯爵家が三女、ジュディ・ウェールズと申しますわ。ハンス様とはどういうご関係ですの?」


「初めまして。先日ハンス様の妻になりました、ノーマ・ガイダーと申します。お見知り置きを」


 ノーマがそう名乗ると、侯爵令嬢はあからさまに眉を顰めた。

 やはりノーマの存在が気に入らないのだろう。彼女はすぐにこう言った。


「あなた、確かプレンディス子爵家のご令嬢だった方ですわよね? あの没落寸前と噂だった」


「その通りです」


「ふふっ。おかわいそうに。お勉強、大変でしょう? もしよろしければ(わたくし)が教えて差し上げても良くってよ?」


 これはつまり、お前は馬鹿なのだから自分の方がその立場に相応しい、という、あからさまな侮蔑の言葉である。

 しかしノーマはこの程度では怯まなかった。


「確かに私などでは次期辺境伯夫人として至らぬ点も多いことでしょう。申し出はたいへんありがたいのですが、ウェールズ侯爵令嬢にはご婚約者様がいらっしゃいますでしょう? その方に悪いので私にはお構いなく」


 つまりノーマが言ったのは、『ハンス様は私の夫ですからね。あなたにはあなたの婚約者がいるのだから嫉妬は醜いですよ』という意味だ。

 さすがに反論のしようがなかったのか、侯爵令嬢は歯噛みをしながら離れて行った。


「……面倒臭いな」


 ハンスがボソリと呟く。

 ノーマもまったく同感だったが、それならばハンスが追い払えばいいのに、と思ったことは口に出さなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「見てくださいませあの方、噂の悪役令息ではありませんか」

「よくも顔を出せたものですわねぇ」

「しかもあの横の令嬢、ご覧なさいな」

「令嬢ではありませんよ。先ほどウェールズ侯爵令嬢がおっしゃっていたことにはガイダー令息のご夫人なのだそうで」

「まあっ」


 ヒソヒソと囁かれる声に、耳を塞ぎたくなる。

 もちろんノーマたちに友好的に接してくれる人間はいたが、それより圧倒的に嫌味を言うご婦人の方が多いようだ。

 『悪役令息』という単語の意味はわからないが、とにかくハンスが陰口を叩かれていることだけはわかる。

 そしてもちろんノーマも悪く言われていた。


(ああ、早く舞踏会が終わってくれないでしょうか)


 もう悪口に辟易していたノーマは心からそう願った。

 一刻も長くここにいたくない。ガイダー夫妻とネリーと合流し、帰れたらいいのに。


 だがそうは行かない。だってまだメインディッシュが残っているのだ。


 ――主催者の登場と、肝心のダンスタイムが。


 舞踏会の扉が再び開き、それまで控えていた楽団が大きな笛の音を鳴らす。

 どうやら今からが勝負どころらしい。ノーマはため息を吐きつつ、入って来た人物たちの方を見る。


 そこにいるのは言わずもがな、王妃殿下とその他数人の王族だった。

 その中にはもちろん、ギャデッテ第二王女の姿もあった――。

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