21:慌ただしい出発
準備はとても慌ただしいものとなってしまった。
何せ新しいドレスを仕立てるのはもちろんのこと、髪を結う時間すら惜しいほどだったのだ。
ノーマはガイダー夫人から借りた薄青のドレスを身に纏う。だが、胸の辺りが随分と余ってしまい、見すぼらしく見えやしないだろうかと心配でならなかった。
(次期辺境伯夫人には見合わないだとか陰口を叩かれたりしないでしょうか。貴族社会は女のつながりが強いもの。一度見下されたらそれで終わりなのに)
今まではただの貧乏貴族令嬢だったが、これからは違う。
なのにこんな格好をしていては甘く見られることは間違いない。本当ならきちんと体に合うドレスを着たかったが、何せ時間がないのだ。
仕方ない。ただこの一言に尽きる。
まるで余裕のない出発の準備はなかなかに大変だったのは事実だ。
だがそれより苦労したのは、ネリーの説得であった。
「はぁ!? 今から舞踏会に行くなんて馬鹿じゃないの!」
「仕方ないだろう。王妃殿下のご命令なんだ」
「王妃殿下はギャデッテ王女を溺愛してるんでしょ? 絶対何か企んでるに決まってるじゃん。もしノーマちゃんに何かあったらどうするつもり!?」
「だからと言って断ることもできないのはわかるだろう。嫌ならお前は残れ」
「そういう問題じゃないでしょ、お兄ちゃんの馬鹿!」
確かにネリーの言っていることはわかる。ノーマも同じ気持ちだし、心配してくれるのはありがたいと思う。
ただ、何を言っても王妃からの誘いは断れないのだ。
渋々ながらもネリーを頷かせた後は、ガイダー夫妻やハンスと一緒に馬車へ飛び乗った。
ガイダー領へ来るまではたった二人で乗っていた広々とした馬車だが、五人になると少し窮屈さがある。これで数日間の旅をしなければならないのかと思うと、ため息を漏らさずにはいられないのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
馬車を走らせ続けること七日。幸い旅の道中は何事もなく過ごすことができた。
やっと辿り着いた王宮の前には、すでに多くの貴族の馬車が停められている。もうすぐ舞踏会が始まるらしかった。
「早く行かないと遅刻するぞ!」
「まあ大変っ」
「うわ、ギリギリじゃん! ノーマちゃんもお兄ちゃんも急いで!」
「わかってるから騒ぐな」
「ああもう、ドレスが足に絡んでこけそうです!」
口々に叫びながら、ノーマたちは馬車を駆け降りて舞踏会の会場へ。
そして煌びやかなホールに彼女らが足を踏み入れるのと同時に、舞踏会は始まったのだった。
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