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20/50

20:とある招待状

(ハンス様に喜んでいただけたのでしょうか。そうだと良いのですが)


 ネリーの案内してくれた花畑で作った花束をハンスに渡した後、ノーマは部屋で一人そんなことを考えていた。

 別に彼のことを想って渡したわけではないが、夫婦仲が少しでも健全になれば……と淡い期待を抱いているのは確かだ。


 いくら即席の夫婦とはいえ、いつまでも白い結婚ではガイダー夫妻やネリーに迷惑をかけてしまうだろう。愛情は少しずつ育てて行けばいいのだ。


「……まあ、そううまくいくとは思ってませんけど」


 そもそも初夜の時に『君を愛することはない』と宣言するような男だ。思い出すとイライラして来たのでなるべく考えないようにしよう。 


 ハンス個人がどうであれ、ここに住まわせてもらい続けるため、離縁だけは絶対にしたくない。それが今のところの彼女の気持ちだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ゆっくり距離を詰めていこうと思っていたノーマだったが、事態は急変することになる。

 それは、ガイダー辺境伯家に一枚の招待状が届いたことがきっかけだった。


「……ノーマ様、旦那様がお呼びでございます。ハンス様も先に向かわれていらっしゃいますので、旦那様の執務室までいらしてください」


 侍女のヘラに言われて向かった先、そこはガイダー辺境伯の執務室。

 初めてそこへ足を踏み入れるので少しばかりドキドキする。実は前々から、どんな部屋だろうかと興味はあったのだ。


 しかし今はそれどころではないと気を引き締め、執務室で待っていたガイダー辺境伯とハンスの二人に頭を下げた。


「ただ今到着しました。お義父様、どうして私をここに?」


「来てくれてありがとう! 実は困った手紙が届いていてな! これを見てほしい!」


 そう言ってノーマに手渡されたのは、非常に高価そうな便箋。

 貧乏でほぼパーティーなどに呼ばれなかったノーマですら一発でわかった。これは舞踏会の招待状だ、と。


「まあ。これは」


「見ての通り王家からの招待状だ。ギャデッテ第二王女殿下とフランツ・エルプリス公爵令息の婚約発表に際し開かれる王家主催の舞踏会への、な」


 忌々しい、とでも言いたげにハンスが吐き捨てる。

 第二王女ギャデッテと公爵令息フランツは、言うまでもなくハンスにとって一番会いたくない相手だろう。それをわざわざ招くだなんて……ノーマは手紙の送り主の正気を疑った。


(当然ながら婚約破棄されてハンス様は傷ついているはずなのに。悪意があるとしか考えられません)


「相手が格下なら断っていたが、さすがに王家、しかも王妃殿下からの直々の手紙となると私も断りようがなくてな! 悪いが君とハンスの二人で出席してほしいのだよ!」


「私は構いませんが……。え、王妃様が?」


 驚きすぎて声が裏返りそうになった。

 王妃様は社交好きと有名な(かた)であり、信頼している方も多いはず。そんな非常識なことをするとは思えないのだが。

 と、首を傾げるノーマにハンスが面倒臭そうにしながら教えてくれた。


「王妃はギャデッテ殿下を猫可愛がりしているからな。俺に何かしらの恨みでもあるんだろう。しかも出席の条件はパートナー同伴だなんて」


「つまり行くしか道がないのですね。……ハンス様、大丈夫ですか?」


 彼からの答えはなかった。

 ノーマとて本音では舞踏会など行きたくない。身売りされただとか言われ、後ろ指を指されるに決まっている。そう考えると憂鬱で仕方ないのだ。


 でもこれはガイダー辺境伯からの頼みでもある。辺境伯家の顔に泥を塗るような真似はできない。

 ノーマは頷くと、ハンスににっこり笑いかけた。


「何があっても私がお力になりますから。まあ、微力ですけれどね」



 正直言って不安しかないのだが、そのことは言わないでおこう。

 ――こうしてノーマとハンスは、七日後に開かれる舞踏会へ行くことになったのだった。

 しかも馬車での道のりを考えれば今日にでも出発しないと間に合わないという時間のなさ。これは完全な嫌がらせとしか言いようがなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  届いたのが遅くて間に合いませんでした。  何の嫌味ですか? と手紙を書いても許されそうなタイミングですね。  まぁ、どうせなにやっても難癖付けられるので、相手の不義理を突きつけて、文句言…
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