14:ガイダー領観光
「馬車からも見えてはいましたが、ガイダー領はとても自然豊かなところなのですね」
「そうでしょ〜? それがうちの売りだからね。こんな片田舎だけど、意外と潤ってるんだよ?」
「なるほど、さすがは辺境伯」
ノーマは現在、ガイダー辺境伯の領地を歩いて回っている最中だ。
木々が多く、民家がポツリポツリとある、まさに田舎。だがのどかで平和だし、気持ちの良い風が吹いており、こんな場所も悪くないなと思えた。
「ここはいいところですね。それに比べてプレンディス家の領地なんか貧乏すぎて領民が逃げ出してしまっていたくらいですし」
「ノーマちゃんのお家って貧乏なの? プレンディス家って子爵家だよね」
「はい。父が数年前に投資していた事業の失敗で大量の借金を背負ってしまったらしくて、領民からの税を高くしてなんとかやりくりしていたんです。でもそれにも限界があって……。ですから私が嫁いだ時に払っていただいたお金は、その返済に使われると思います。最近は領地の状況が多少持ち直しているので借金さえ返済できれば多少はマシになるかと」
「……そうなんだ」
ネリーは少し気まずいような笑顔でそう言ってから、「あ、あっち!」と別の方を指差し、ノーマの手を引いて走り出した。
きっと彼女はノーマが売られたのだと悟ったのだろう。でも別にノーマはそのことに関してはなんら文句はないのでそこまで気を遣ってもらわなくてもいいのだが。
(私って客観的に見て不幸なのでしょうか)
ノーマ自身にはよくわからなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ネリーに連れて来られた場所、そこは小屋と呼べないくらい大きな馬小屋だった。
黒馬や白馬、珍しい色のものまで、屋敷並みに広い建物の中にぎゅうぎゅう詰めにされた馬たちは、おそらく百頭以上はいるだろうか。
その光景を目にしたノーマは思わず息を呑まずにはいられなかった。
「すごいです……! どうしてこんなにたくさん馬がいるんです?」
「ガイダー領の特産品は馬なんだ。ここで育てて、国内各地に乗馬用の馬を出荷してるの。領民みんなで育ててるんだ。もちろんあたしもね」
「ネリーも? なら、私もお世話していいんですか?」
「うん! 一緒にやろう」
それからノーマはネリーの指導の下、馬に触り、餌やりをし、跨ってみたりした。
今までは馬など触れる機会がない縁遠い生き物だと思っていたが、戯れると意外に親しみやすいのだとわかる。気づけば時間を忘れて遊んでしまった。
そして数時間後、ハッと我に返ったノーマは、いつの間にか周りには興味津々でこちらを見つめる領民たち……五十人以上に取り囲まれており、腰を抜かすことになった。
どうやら馬に餌やりをしに来た村人が見慣れないノーマの姿を見て皆に知らせたらしい。隣でネリーは「あちゃー」と言っていた。
(これってかなり怪しまれていますよね? こっそりガイダー領観光を楽しむつもりでしたのに、これでは注目の的ではありませんか。しかも馬に塗れて泥んこですし)
困惑してももう遅い。ノーマはどうやって正体がバレないように言い訳をしようかと考えながら、恐る恐る馬の群れから出たのだった。
――それからしばらく質問攻めに遭って大変な思いをしたのは、また別の話。
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