表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/39

第8話:飲み水も確保しねえとな

「とりあえず、食料はなんとかなりそうだけど飲み水がなぁ」

「おっしゃる通りでございます」


 畑から作物は採れるわけだが、水はどうするかな。

 領民たちも喉が渇いたらキレイな水を飲みたいだろうし。


「ソロモンさん、みんなはどうやって飲み水を確保していたんですか?」

「一応、川があることにはあるのですが、ひどく汚れておりましてな。畑に使うくらいしかできなかったのですじゃ。ワシらは雨水を溜めてなんとか生き永らえておりました。ワシも身体が弱って、魔法が全然使えなかったですからな」

「そうだったんですか……それはまた大変でしたね」


 ソロモンさんに案内されて、俺たちは川に着いた。


「うっ……こいつはやべぇな」

「これほど汚いクソ川は、私めも初めてでございます」

「ワシらは死の川デスリバーと呼んでおりますじゃ」


 村近くの川は黒っぽい茶色に汚れていた。

 まるで、大雨が降った後のようだ。

 だが、見ただけでその原因がわかる。

 思った通り、この川も瘴気まみれだ。

 だが、これだけ汚れているとなると……。


「たぶん、上流の水源がそもそも汚れているんじゃないですか?」

「さすがは、生き神様ですじゃ。おっしゃる通り、水源地が汚れているのです。しかし、近寄ろうとすると体が動かなくなってきてどうにもならんのですじゃ。川の水源地は、あの山の中にありますじゃ」


 ソロモンさんは川の上流にある山を指した。

 そこもまた瘴気が漂っていてヤバそうだ。

 さっそく向かうわけだが、今度こそ静かに浄化したい。


「皆さま、お集まりください! ただいまより、ユチ様が御業を披露してくださいますよ!」

「いやっ、ちょっ」


 いきなり、ルージュが叫び出した。

 あっという間に、領民たちが集まってくる。

 そのせいで、“水源地を静かに聖域化計画”が一瞬で破綻した。


「生き神様! 御業を使われるときは教えてくださいよ! 毎日楽しみにしているんですから!」

「生き神様の御業を見るだけで、私たちは元気になるんです!」

「おい、みんな! 作業を中断して、すぐに生き神様のところへ来るんだ!」


 領民たちは勢揃いして並ぶ。

 みんな目がキラキラしていた。

 ここまでされたら、さすがに追い返したりはできない。


「じゃ、じゃあ、俺の後ろについてきてください」


 どうせなら、ここら辺も聖域化しながら向かうか。

 全身に魔力をちょっと込めながら歩き出す。

 俺が歩いたところは、土が潤い、草が生え、花が咲き、どんどん様変わりしていく。


「なんて素晴らしい光景だ……これぞ神の力だな」

「生き神様こそ、神様の中の神様だ」

「同じ時代に生まれて本当に良かった……」


 領民たちの恍惚とした声が聞こえてくる。

 そんなすごいことでもないと思うんだが……。

 村の中はあらかた聖域化できたけど、いずれは外の方も聖域化しないとなぁ。

 デサーレチは結構広いから、意外と大変かもしれんぞ。

 しばらく歩くと水源に着いた。


「うっ……きたねえ」

「これもまたクソ水源地でございますね」


 川の水源は小さな泉だった。

 中心部から、こんこんと水が湧き出ている。

 だが、瘴気が溜まりまくっていてもはや汚水だ。


「さっそくユチ様の御業をお見せくださいませ」

「よし」


 と、なったところで、俺は少し迷った。

 どうやって聖域化しようかな。

 泉を丸ごと浄化しないと意味ない気がする。


「いかがされましたか、ユチ様。何かお悩みでございますか?」

「いや、どうやろうかなと思って」

「それなら良い案がございます。泉の真ん中で御業を使われるのです」


 確かに、それなら効果的だ。

 だが、しかし……。


「じゃ、じゃあ、みんなを向こうの方に追いやってくれるかな。さすがに恥ずかしいし」


 小さいといっても、泉の真ん中は遠くにある。

 服を脱ぐ必要がありそうだ。


「何をおっしゃいますか、ユチ様! ユチ様の御業を見られないなんて、悲しすぎて仕方ありません!」


 ルージュが騒いでいると、領民たちも騒ぎ出した。


「生き神様! 私たちを追い払わないでください!」

「御業をぜひ見せてください!」

「一日一回は見ないと気が済まないんですよ!」


 四方八方から必死に訴えられる。


「い、いや、でも服が……」

「「ユチ様(生き神様)の魅力を感じるには、服などもはや不要でございます!」」


 力強い瞳で言われ断り切れなくなってしまった。

 領民たちが見守る中、俺は上衣を脱ぐ。

 下には何も着ていないので、もちろん裸だ。

 領民たちはうっとりした感じで、俺のことを見ている。


「ああ、なんて美しいのでしょう」

「本当に神様が人間の姿になったようだ」

「いつ見ても素晴らしい肉体だ」


 そのまま、俺は泉の中に入っていく。

 冷たいが凍えるほどではなかった。

 深さは俺の腹くらいまでかな。

 湧き水が出てくるところに、一番瘴気が溜まっていた。

 そこからちぎれるようにして、ヤツらは川へ流れていく。

 魔力を込めていると、黒い塊が苦しみだした。

 苦しそうにプルプル震えている。


『ギギギギギィ……!』


 俺は早く終わらせたかった。

 老若男女に見つめられているので、恥ずかしくて仕方がない。

 まったく、さっさと消えろよな。


『ギギギギ……キャアアア!』


 畑の時と同じように、瘴気はふわぁ……と消えちまった。

 すると、すぐに水にも変化が現れた。

 さっきまでの黒い汚水は消えて、透き通った水になっていく。

 水の吹き出し口を丸ごと聖域化したから、そこから新しく出てくる水も聖域化されているんだろう。

 瘴気に汚染された水を浄化しながら流れていく。


「みんな見ろ! 水がキレイになっていくぞ!」

「やったー! これでいつでもキレイな水が飲めるぞー! こんなことがあり得るのか!?」

「なんという奇跡なんだ!」


 俺は早くこのプレイから解放されたい。

 だが、まだ泉からは上がれない。

 念のため、もう少し聖域化させた方が良いかもしれない。


「皆さん、ご覧いただきましたか!? ユチ様の御業は、水にも効果的なのであります!」


 すかさず、ルージュが演説を始めた。

 相変わらず良く通る声だ。

 今度は倒れた木の上に立っている。

 どうして、そう都合よく台があるのか……。

 俺は半ば諦めていた。


「さあ、皆さん! 今こそユチ様のご功績を讃えるのです! 天に向かって叫びましょう! ユチ様のお名前を!」

「「うおおおお! ユーチ! ユーチ! ユーチ!」」


 自分の名前がコールされる中、俺はただただ泉に浸かっていた。



□□□



「さて……」


 あらかた聖域化が終わり、俺は泉からあがる。

 散々晒されたので、ある意味達観の境地に入っていた。


「お疲れ様でございました、ユチ様。皆さま、大変喜んでらっしゃいます」


 まわりの領民は川の水をがぶがぶ飲んでいる。


「生き神様! こんなに美味しい水を飲んだのは始めてですよ!」

「一生雨水しか飲めないのかと覚悟していました!」

「まるで生き返ったような気分になります! 感謝してもしきれません!」


 ソロモンさんも大喜びで走り回っていた。


「あのデスリバーがここまでキレイになるなんて、ワシも想像できなかったですじゃよ!」


 そして、みんなで嬉しそうに魚やら何やらを採り始めた。

 何だかんだ俺は安心していた。

 これで飲み水問題も大丈夫そうだな。



――――――――――――――――

【生き神様の領地のまとめ】

◆“キレイな”死の川デスリバー

 デサーレチの主要な水源。

 元は非常に透明度の高い川だった。

 だが、瘴気に水源地を汚染され想像を絶する汚水となっていた。

 水量は多いが水深は浅く、全体的に穏やかな流れ。

 何が採れるかはお楽しみ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ