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第6話:行商人がぶったまげる

「こんにちはコン~って、何があったコン! えええ!? ここがあのクソ土地で有名な“デサーレチ”!? えええ!?」


 俺とルージュが畑に行こうとしたときだった。

 村の入り口で誰かが叫んでいる。


「ユチ様、来客のようでございます」

「へぇ~、こんなところにも誰か来るんだね」

「うるさいですね。追い返しますか?」

「いやいやいや!」


 俺たちが入り口に行くと、小さな女の子がポツンと立っていた。

 背丈は俺よりだいぶ低くて幼女みたいだ。

 少し大きめのリュックを背負っている。


「もしかして、迷子か? だったら、心配だな。近くに親がいればいいけど……」

「子どもが一人でうろついているのは、それはそれで怪しいでございます」


 女の子は村の様子を見ては、しきりに驚いている。

 頭の上から、狐みたいな耳が生えていた。

 ということは、獣人の狐人族だ。


「こりゃぁ、おったまげたコン! まさか、あのクソ土地がこんなことになるなんてコン! はぁ~、おったまげたコン!」


 俺は少し緊張しながら話しかける。


「あ、あの……何かご用ですかね?」

「え? あんた誰コン? こんなヒョロ男、今までいなかったような……ぐぎぃ!」


 ルージュが女の子を片手でつまみ上げた。


「ユチ様にそのようなことをおっしゃるとは、良い度胸でございますね。子どもとはいえ、容赦はいたしません」


 ルージュはめっちゃ冷たい目をしている。

 視線だけで殺せそうだった。


「あ、あちしはフォキシーというコン! 見ての通り、行商で生計を立てているコンよ! こう見えて、もう大人コン! 離してくれコン!」


 フォキシーはジタバタして暴れる。

 だが、ルージュは知らぬ存ぜぬだった。


「ほ、ほら、ルージュ。この子も悪気があったわけじゃないんだからさ」

「……ユチ様が仰るならば仕方ありませんね」


 ルージュが下ろすとフォキシーはホッとしていた。

 そのまま、とりあえず家に案内する。


「ゲホッコン。あちしは王都にあるフォックス・ル・ナール商会の会長であるコンよ!」


 フォキシーはドンッ! と胸を張った。

 その名前は俺も聞いたことがある。


「フォックス・ル・ナール商会と言えば、王国でも三本の指に入るくらいだよな」

「本当にこのクソガキが商会長なのでしょうか?」

「ル、ルージュ!?」

「ク、クソガキって言われたコン! こう見えても、あちしは王宮出入りの行商人でもあるコンよ!」


 フォキシーは短い手足を振り回して怒っていた。


「え!? 王宮入りってマジ!?」

「マジだコン」


 フォキシーは一枚の紙を見せてくれた。

 めちゃくちゃドヤ顔している。


「……ホントだ。王様の印が押してあるじゃん。王宮入りの商人なんて、初めて見たな」

「ありがたくしていると良いコン……ぐぎい!」

「ほ、ほら、ルージュ! 持ち上げないでって!」

「……仕方ありませんね」


 ルージュはフォキシーを下ろす。


「まったく、油断も隙もないコンね」

「あっ、そうだ。ちょうど作物がたくさん採れたんだが。いくつか買い取ってくれないか?」


 しまっておいた作物を出す。

 <フレイムトマト>、<ムーン人参>、<フレッシュブルレタス>、<電々ナス>、<原初の古代米>……。

 まぁ、今はこんなもんしかねえけど、しゃーねえよな。


「コッ……!」


 フォキシーは目を見開いて絶句している。

 目玉が飛び出てきそうだ。

 というか、半分飛び出ていた。

 息も絶え絶えになるくらい興奮している。


「ど、どうした?」

「こ……これは……偉いこっちゃコンね」


 そして、うちの畑で採れた作物がどれくらい凄いのか、めっちゃ早口で教えてくれた。

 身を思いっきり乗り出してくるので、俺の背中がギンギンにのけぞる。

 

「この<フレイムトマト>なんて、Aランクダンジョン“ラーバの溶岩洞窟”の最深部に行かないと手に入らないコンよ!」

「お、おお、そうだったんだ……」


「<ムーン人参>はBランクモンスターのキャロットラビットの住処にしかないから、採りに行くには袋叩きを覚悟しないといけないコン!」

「こ、こえ~」


「<フレッシュブルレタス>もAランクダンジョン“ヒンターランドジャングル”を奥に奥に奥に奥に奥に行って、ようやくゲットできるコン!」

「め、めっちゃ奥地にあるんだね」


「こっちの<電々ナス>は生息地にSランクモンスターの雷電ドレイクが住んでいるせいで、滅多に手に入らないコン! 採取に向かった冒険者だって何人も死んでいるコンよ!」

「そ、そいつはヤバいじゃないか」


「<原初の古代米>にいたっては、古代大陸にしか育っていないコン! どうして、ここにあるんだコン!」


 フォキシーは感動しているようで、目がウルウルしている。

 レアな作物だとは知っていたが、まさかそこまでとはな。


「ど、どうやって、手に入れたコンか? しかも、こんなに状態の良い物を……」

「普通にそこの畑で採れるよ」

「え!? えええええ!? 畑で採れるって、えええええ!?」


 フォキシーはさらに驚きまくる。

 いや、これ以上驚けるってすげえな。


「み、み、み、見せていただいてもよろしいコンか?」

「ああ良いよ」

「ユチ様に失礼なことはしないように」


 俺たちはフォキシーを畑に連れて行った。

 領民たちがせっせと収穫している。

 相変わらずジャングルみたいになっていた。


「まぁ、見ての通りだな。ぶっちゃけ、採っても採っても減らないんだ」


 いきなり、フォキシーはへにゃへにゃと座り込んでしまった。


「お、おい、どうした。大丈夫か?」

「こ、腰が抜けてしまったコン。これは……とんでもない畑でコンよ」


 ふーん、デサーレチは思っていたよりすごかったんだな。

 ということで、余っている作物は買ってもらうことにした。


「<フレイムトマト>は1つ200万エーン、<ムーン人参>は1本80万エーン、<フレッシュブルレタス>は1個150万エーン、<電々ナス>は1つ300万エーン、<原初の古代米>は1ギラム35万エーンで良いコンか……?」


 当然のようにとんでもなく高い金額を言ってきたので、めちゃくちゃビビった。


「たっか! いくら何でも高すぎだろ!?」

「いいえコン! 商売に限っては、あちしはふざけたことはないコンよ! 適正も適正の価格を提示しているコン!」


 フォキシーは真剣なようだ。

 確かに、王宮入りの商人がウソを吐くとも思えない。


「ル、ルージュ、本当にそんな高値で買ってくれるのかな」

「信じてもよろしいかと」

「じゃ、じゃあ売ろうかな」

「ありがとうコン! これであちしは大儲けコンよ!」


 フォキシーは両手を上げて喜んでいる。


「そ、それで、作物はこのまま渡しちゃっていいのか?」


 フォキシーは適度な大きさのリュックしか持っていない。

 どうやって持って帰るのだろう。


「そのまま頂きたいコン! あちしは収納スキルを持ってるコンから簡単に運べるコン。今、お金渡すコンね」


 フォキシーは不思議な空間からお金を出した。

 ドサッと札束を置いて、その代わりに作物をしまっていく。


「それでは、あっしはこれで失礼するコンよ。また来るコン」


 フォキシーは、ほっくほくの顔をしている。

 良い品が手に入って嬉しいようだ。


「ああ、気をつけて帰れよ」

「お帰りなさいませ。次来る時は礼儀をわきまえるように」

「ちょっと待ちたまえ、行商人のお方」


 フォキシーが出て行こうとしたら、ソロモンさんが出てきた。

 一枚の札を彼女に渡す。

 

「この紙は何ですかコン?」

「ワシが開発した魔法札じゃよ。転送の印が刻まれているから、破くとここに転送されるぞよ」

「これはまた、素晴らしいおもてなしをありがとうございますコン。それでは、今度こそ失礼するコン」

「お待ちなさい、行商人のお方」


 またもやソロモンさんが止める。


「ワシが王都まで転送してしんぜようぞ」

「て……転送までしてくれるコンか!? ……こんなに待遇の良い村だったなんて、知らなったコン」


 フォキシーは深く感動しているようだ。

 涙をダラダラ流している。


「これも全部、こちらにいらっしゃるユチ様のおかげでございます。王都へ帰ったら色んな人に言いなさい」

「ル、ルージュ!? そういうのは良いから……!」

「了解したコン! こんなに素晴らしいおもてなしをしてくれたコンから、それくらいはお安い御用だコン!」

「<超魔法・エンシェントテレポート>! この者を王都に送りたまえ!」


 ということで、フォキシーは笑顔で王都に転送された。

 ソロモンさんは満足げな表情だ。

 それどころか爽やかな汗までかいている。


「ありがとうございます、ソロモンさん。魔法札だけじゃなく、超魔法まで使っていただいて」

「いや、お礼を言うのはワシの方ですじゃ」

「え? どういうことですか?」


 別に、感謝されるようなことはしていないのだが……。


「古の超魔法は気分がスカッとするのですじゃ。しかし、やっぱり攻撃魔法の方が良いですな。どれ、モンスターどもはおらんかな。一発ぶっ放したいのですが……」


 ソロモンさんはワクワクした感じで荒れ地の方を見ている。

 あの超魔法をぶっぱされたら、村まで吹っ飛びかねない。


「ま、まぁ、それはまた今度でお願いしますね」



◆◆◆(三人称視点)


「いやぁ、あんなに素晴らしい村だとは思わなかったコン」


 フォキシーは上機嫌で王宮に向かっていた。

 こんなに商売がうまくいったことは、今回が初めてだった。

 道に迷ったときはどうなるかと思っていたが、怪我の功名というヤツだ。


「過去最高の売上になるのは間違いないコンね」


 何と言っても、最高品質のレア作物を大量に確保できた。

 王宮であれば買値の3倍で売れる。

 

「それどころか、王都まで転送してくれるなんて……こんなの初めてだコンよ」


 おまけに、転送費用はタダ。

 魔法札までいただいてしまった。

 未だに、フォキシーはその破格の待遇に震えていた。


――こりゃあもう、宣伝しまくるしかないコンね。


「知ってるかコン? クソ土地と言われてたデサーレチは、とんでもない豊かな土地だったコン。中でも領主のユチ殿は……」


 フォキシーはデサーレチの話を、王宮はおろか王都の商店街まで言いに言いまくった。

 住民たちはその話を興味深く聞いては感嘆する。

 そして、うわさはサンクアリ家にも届くのであった。

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