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第35話:エルフの姫様が逃げてきたので助ける

『私たちエンシェント・ドラゴンは、普段は小さな体で暮らしています。戦う時だけ巨大化するのです』

「ふ~ん、そうなのね」


 コユチを仲間に引き入れて、デサーレチもだいぶ賑やかになった。

 今はエンシェント・ドラゴンのことを教えてもらっている。


「だ、誰か助けてー! どなたかいらっしゃいませんかー!?」


 突然、荒れ地の方から女の人の叫び声が聞こえてきた。


「ん? また誰かが助けを求めてるな」

「ユチ様のお人柄が迷える子羊たちを引き寄せているのでしょう」

「いや、そんな、まさか」


 しまった、裸で出てきちゃった。

 最近は服を着させてくれないことが多いので、裸の感覚に慣れてしまっているのだ。

 村の入り口に行くと、女の人が何人か集まっていた。

 みんな薄汚れていて、衣服がボロボロだ。

 人間より横に尖った耳が印象深い。

 エルフの人達だった。


「どうしたんですか、大丈夫ですか」

「良かった、人がいました! どうか、助けてください! 私はエルフ王国のエルフェアと申します。こちらは侍女の者たちです」

「やっぱりエルフの国の人達でしたか」


 みんな静々とお辞儀をする。

 先頭にいる人は、ずいぶんと儚げな雰囲気だ。

 なんか王女様っぽいのだが、気のせいだよな。


「こんなナリでも王国では姫をやっております」


 マジか。


「実は、魔王軍に囚われていたところを抜け出してきたのです」

「え! ま、魔王軍から……そうだったんですか、それはまた大変でしたね……」


 デサーレチは魔王領と近いから、ここまで逃げ切れたのかもしれない。


「まぁ、まずは休んでください。おいしい食べ物や温かいお風呂もありますよ」

「ありがとうございます……かたじけないです」


 ひとしきり、デススワンプや<ライフウォーター>を振舞ったら、元気が回復したみたいだ。


「……ふぅ、ありがとうございました。おかげさまで体も元気になりました。そして、失礼ですが、ここは何という土地になるのでしょうか? 右も左も素晴らしい作物や素材の宝庫ですが……」

「デサーレチですよ」

「「ええ!? デサーレチ!?」」


 もう何度見たかわからない反応をする。


「この世の最も辛い苦痛をさらに煮詰めたかのような、修羅の土地デサーレチ!?」

「そこに住むと呼吸すらままならないと言われる、あのデサーレチ!?」

「屍の山で築かれたという死者の国デサーレチ!?」


 ルージュがピキピキしてきたので、そろそろ止めた方が良さそうだ。


「そ、それで、事情を話してもらっても良いですかね」

「ゴホン……これは失礼いたしました。ある日、魔王軍が国に来て私を攫ったのです。エルフ王国は古くから魔王軍と敵対関係にありますから、私を人質にでもしようと思ったのでしょう……私たちは、かれこれ数百年は魔王軍と戦っていまして……」


 どうやら、人間の国より魔王軍との戦闘が激しいらしい。

 話を聞いているときだった。


『ゲッゲッゲッ、なんだぁあの村は。こんなところに人里があったのかぁ?』

『バドーガン様、エルフの姫はあそこに逃げたと思われますぜ』


 またもや荒れ地の方が騒がしくなった。


「あれ、また来客か? ……いや、モンスターの群れだ」

「ユチ様、魔王軍尖兵のバドーガンでございます。見ての通り、トロール系のモンスターです。おそらく、エルフェア様を探しに部下たちを引き連れて来たのでしょう」


 先頭にいるのは大きなトロールだ。

 右手にはお決まりの棍棒を持っている。

 体は鎧に覆われており、防御力が高そうだ。

 その周りには部下だろうか。

 ゴブリン、コボルドなどのザコに加え、アイアンガーゴイルやスカルナイトなどの中堅どころも勢揃いしている。

 空にはサンダーワイバーンやファイヤードレイクなんていう強敵までいた。


「よっぽど姫様を奪いたいんだな。ものすごい大群だ」

「荒れ地がモンスターでいっぱいでございます」


 魔王軍のヤツらは、みんな瘴気がグジュグジュにまとわりついている。

 身体の一部にくっついているんじゃなくて、もはや瘴気そのものだな。

 とうとう、魔王軍までがやってきたわけか。


「すみません、ユチ様。私たちが逃げ込んできたばっかりに……」

「いやいや、姫様たちのせいじゃありませんよ。姫様は俺たちが守りますから、安心していてくださいね」

「ユチ様……」

 

 そう言いながら、姫様は頬を赤らめている。

 まずい、さすがに裸で応対するのは良くなかったな。

 ルージュもピキってるから、裸で動き回ることのヤバさを知ってくれたんだろう。

 初めてとなる魔王軍との戦いが、今まさに始まろうとしていた。

お忙しい中読んでくれて本当にありがとうございます


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