第33話:隣の国の王子様が来た
「さぁ、ユチ様。久しぶりのマッサージでございますね」
「い、いや、だから、半裸にする必要は……」
クデレはルージュに命じられ、素材集めに駆り出されている。
ここぞとばかりに、俺は例のアレを喰らっていた。
「こんにちはー、どなたかいらっしゃいますかー?」
と、村の入り口で誰かが呼んでいた。
「ん? また来客かな」
「行ってみましょう、ユチ様」
「待っ」
結局、裸で連れ出される。
入り口には細身の若い兄ちゃんと、背が高くてがっしりしたオジサンがいた。
冒険者のようだが行商人にも見える。
いや、オジサンは兄ちゃんを護衛しているみたいだな。
「また偉い人かな」
「可能性は高そうでございますね。あの二人は高貴な人物と推測いたします」
どちらも質素な服を着ているが、雰囲気はやけに厳かだ。
若いお兄さんはキレイな金髪に、快晴のような青い瞳をしている。
カッコいい人だ。
それに、どことなく貴族っぽい気がする。
オジサンだって引き締まった体型で、鋭い目つきがイカしたおっさんて感じだ。
「どうも、初めまして。私はエンパスキ帝国のジークフリードと申します。こちらは付き人のダリーです」
ジークフリードさんがお辞儀すると、ダリーさんも頭を下げた。
エンパスキ帝国と言えば、オーガスト王国のすぐ隣にある大きな国だ。
それにしても……。
「ジークフリードってどこかで聞いたことがあるような……」
「ユチ様。ジークフリード様はエンパスキ帝国の皇太子でございます」
「え! 皇太子!?」
いや、マジか。
貴族かなとは思ったが、まさか王子様とは思わなかったぞ。
「は、裸ですみませんね。皇太子なんて偉い方がどうしてデサーレチに……?」
「政策の勉強をするため、護衛のダリーと諸国を回っているのです。もちろん、身分は隠しておりますが」
「な、なるほど……」
カロライン様もそうだったけど、王女様とか皇太子様とかって結構行動力があるらしい。
しかも勉強のために旅しているだって?
偉すぎるだろ。
俺も見習わないと。
勉強は嫌いだが。
「旅をしている最中に、あのデサーレチが豊かになっているというウワサを聞きまして……その真偽を確かめたかったのです」
「あっ、そうでしたか」
デサーレチには色んな人たちが来たもんな。
みんな、あちこちで話しているのかもしれない。
「この辺りを旅していたところ、大きな音と衝撃を見聞きしまして。何があったんだろうと思ったのです。そこで、光った方に向かっていたら、こちらへたどり着いたという次第でございます」
きっと、この前のモンスター退治の時だ。
あのビームはすごい攻撃だったもんな。
「モンスターの群れが襲ってきて、追い払ったんですよ。空飛ぶ城の試作型があって……」
「空飛ぶ城ですって!? 古代世紀に存在していたという空飛ぶ城ですか!?」
ジークフリードさんはガバッと身を乗り出してきた。
目がらんらんと輝いている。
めっちゃ興味が引かれたらしい。
「え、ええ、と言っても、別に大したことはありませんが……見ます?」
「ぜひ!」
ということで村を案内するわけだが……。
「ユチ殿の人形がたくさんありますね」
「そ、そうですね……ちょっと色々ありまして」
俺の1/6フィギュアは、村のあちらこちらに配置されていた。
右を向いても左を向いても、俺の人形と目が合う。
「領民に好かれているということですよ。まさしく、民の上に立つ者としての理想の姿です。私も努力しなければなりませんね!」
ジークフリードさんはくううっ! と拳を握りしめて空を見上げている。
見た目よりだいぶ熱い方のようだ。
畑やら川やらを見せたら、ジークフリードさんはめちゃくちゃ驚いていた。
デスドラシエルを見せたときは、気絶しそうになっていたな。
そして、空飛ぶ城の前に来た。
今はふわふわと浮かんでいて、アタマリやソロモンさんが手入れをしている。
「あっ! 生き神様じゃ! ちょっと顔の表情をチェックしてくだされ!」
「ユチ様! お顔の表情は定期的に変えようと思うのですが、いかがでしょうか!?」
相変わらず、二人はキャアキャア騒いでいる。
「で、伝説の大賢者、ソロモン様までいらっしゃるのですか!? 何という村なんだ……」
ジークフリードさんは唖然としているが、俺はそれどころじゃなかった。
顔の刻印を見られるのは、さすがに恥ずかしい。
「それで、これが空飛ぶ城“……キャッスル・試作タイプ”です」
「正しくは“ユチキャッスル”! でございますね」
せっかくごまかしたのに、ルージュに大きな声で修正された。
そのまま、流れるように説明を続ける。
「ユチ様の麗しい瞳から、超威力の光線が放たれるのですよ」
「おお……それは素晴らしい」
ジークフリードさんたちは、ルージュの解説を聞きながら城を見ている。
早く終わってくれと祈っていたが、たっぷり時間がかかっていた。
「デサーレチがここまで発展したのも、全てはユチ殿のスキルと人柄によるんですねぇ」
ひとしきり解説が終わったら、ジークフリードさんは納得したように言った。
「いやいや、俺はそんなに立派な人じゃないですよ」
「何をおっしゃいますか。いくら領主のスキルが優れていても、人となりが最悪だったら領民たちはすぐに逃げ出してしまいます」
そんなもんなのかねぇと思っていたが、ルージュやソロモンさん、領民たちはうんうんと頷いていた。
やがて、ジークフリードさんたちのお帰りの時間になった。
「では、ワシが行きたいところに転送してしんぜよう。特製の魔法札もあげるからの。また来たくなったら破りなさい」
ソロモンさんがいつものように渡すと、彼らは感激していた。
「ユチ殿、あなたのおかげでこの旅はより実りあるものとなりました。私も大手を振って国に帰ることができます」
「でしたら、良かったです。いや、ほんと裸ですみませんね」
俺とジークフリードさんは硬い握手を交わす。
「ユチ殿! 本当にありがとうございました!」
ということで、ジークフリードさんたちは笑顔でエンパスキ帝国に転送されていった。
「生き神様。ここらで一発超魔法でも……」
「しないでくださいね!」
◆◆◆(三人称視点)
エンパスキ帝国に戻ったジークフリードは、さっそく父親である皇帝に報告した。
「皇帝陛下、ただいま戻りました」
「うむ、旅はどうであったか?」
「最後に立ち寄った領地が最高の土地でございました!」
ジークフリードはデサーレチとユチの素晴らしさを、とうとうと語る。
「……なんと、そんな土地があるのか」
「しかも、空を飛ぶ城の建造まで成功しているのです!」
「なにぃ!?」
「これなら、魔王軍との戦いも勝てるでしょう!」
エンパスキ帝国は魔王領と近く、魔王軍と頻繁に戦っている。
帝国騎士団は手練れが揃っているが、敵も強く一進一退の攻防が続いていた。
「皇帝陛下! いや、父上! ぜひ、ユチ殿にお力を貸していただきましょう!」
「うむ、そうだな。魔王軍が優勢と聞いている土地もある……この件はお前に任してよいか?」
「はい!」
――絶対にまたデサーレチに行くんだ。
ジークフリードは強く強く決心した。
お忙しい中読んでくれて本当にありがとうございます
【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】
少しでも面白いと思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!
評価は下にある【☆☆☆☆☆】をタップするだけでできます。
★は最大で5つまで、10ポイントまで応援いただけます!
ブックマークもポチッと押せば超簡単にできます。
どうぞ応援よろしくお願いします!