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第3話:ゴミ愚息のせいで商談が失敗したああああ(Side:エラブル①)

「ゲッホオオオ! ガッハアアアア! 咳が止まらんなあああ!」


 ゴミ愚息を追い出してから少しして、突然咳き込むようになった。

 咳だけではない、お湯が沸きそうな程の高い熱を出し、頭蓋骨が割れるほどに頭は痛く、胃はねじ切れるように痛み、心臓は張り裂けそうになり、関節に至ってはわずかに動かすだけで悲鳴をあげる……体の不調を挙げればキリがなかった。

 はっきり言って気絶しそうなほど苦しい。


「ク、クッテネルングウウウウ。どこにいるうううう。さっさと来ないかああああ」

「はぁぁぁぁ……はぁぁぁぁ……こ、ここだぁぁぁ……」


 しばらく呼んでいると、クッテネルングがノロノロやってきた。

 見るからに具合が悪そうだ。

 顔は熱っぽく息も絶え絶えで、ダラダラと脂汗をかいている。

 歩いた後が絨毯のシミになっていた。


「なんだああああ。貴様も体調が悪いのかあああ」

「オ、オヤジこそ具合が悪そうじゃないかぁぁぁ」


 二人でハアハアしていると、使用人がやってきた。

 ビクビクしながら歩いてくる。

 まるで、何か汚い物を避けようとしているみたいだ。


「だ、旦那様、クッテネルング様、お休みになられていた方が……」


 使用人は私たちを見ると、ゾッとした顔をした。

 その無礼な態度で猛烈に腹が立つ。


「貴様ああああ! なんだ、その顔はああああ! 失礼にもほどがあるだろうがああああ!」

「ハンサムな僕ちゃまにはもっと可愛い顔を見せろぉぉぉぉ」

「も、申し訳ございません! 旦那様が瘴気まみれになっておりまして! すぐに医術師を……!」


 使用人まで瘴気がうんぬんと言っている。

 無論、そんな物はどこにもない。

 部屋の中は至って正常、それどころか清潔極まりない。


「だから、瘴気などどこにもないではないかああああ!」

「お前まで僕ちゃまたちをバカにするのかぁぁぁ」


 私たちが近づくと凄い勢いで後ずさる。


「け、決してそのようなことではなくて、本当に瘴気が……!」

「黙れええええ! さっさと食事の用意をしろおおおお!」

「か、かしこまりました!」


 使用人は大慌てで出ていった。


「全く、どいつもこいつも使えんなああああ! それでもサンクアリ家の使用人かああああ! ゲッホオオオオ!」

「次期当主の僕ちゃまにはもっと誠意を持って接しろぉぉぉぉ……ガッハァァァ」


 興奮したせいか、フラフラしてきた。

 私とクッテネルングは二人そろって咳込みまくる。

 肺が壊れそうなほど痛かった。

 早く横になって休みたい。

 だが、寝込んでいるわけにはいかなかった。

 これから大事な商談があるのだ。


「ゲッハアアア……こ、こんなことをしている場合ではないいいい……クッテネルングウウウ、準備しろおおおお」

「わ、わかってるよぉぉぉ……ゲホォォォ」


 フラフラする身体に鞭打って準備を進める。

 今日の相手はオーガスト王国のセリアウス侯爵だ。

 王族とも繋がりのある有力者であり、我が領地で収穫した作物の重要な取引相手だった。

 半分以上買ってくれているので上客も上客だ。

 今日はクッテネルングを次期当主として紹介する、ものすごく大切な日だった。


「いいかああああ、クッテネルングウウウウ。絶対に失礼のないようにしろよおおお。お前を売り込めばサンクアリ家の評価も上がるのだああああ」

「わ、わかってるよぉぉぉぉ。大丈夫だってぇぇぇぇ」


 クッテネルングの目は虚ろで、アンデットのなりかけのようだ。

 こんなんじゃ上手くいくことも上手くいかない。

 せめて化粧だけでもした方が良いかもしれない。


「セ、セリアウス侯爵様がいらっしゃいました!」


 使用人が玄関の方で叫んでいる。

 クソッ、もう着いてしまったか。

 もう少し休んでいたかったが仕方ない。


「い、行くぞおおおお。クッテネルングウウウウ」

「あ、ああぁぁぁ。わかってるよぉぉぉ」


 私たちは足を引きずりながら玄関へ向かう。

 ちょうど、セリアウス侯爵の馬車が着いたところだった。


「ようこそおいでくださいましたあああ。セリアウス侯爵うううう。こちらは息子のクッテネルングでございますうううう」

「ク、クッテネルングと申しますぅぅぅ。以後お見知りおきをぉぉぉ」


 セリアウス侯爵は細身で背が高い。

 美男子のなごりが残っていて、私より年上なのに若く見える。


「これはこれはエラブル殿。今日はお忙しいところ……ぐっ!」


 セリアウス侯爵はうっ! と一瞬顔をしかめた。

 だが、次の瞬間には真顔に戻った。

 私の見間違いだろう。


「どうかなさいましたかああああ?」

「い、いや、今日の取引はやめておきましょう。エラブル殿も体調が悪いようですからな。クッテネルング殿も汗がダラダラではありませんか」

「ご心配なくうううう。私たちは健康ですうううう」

「僕ちゃまは汗っかきなんですよぉぉぉ」


 私たちはセリアウス侯爵を半ば無理矢理招き入れる。


「さあ、立ち話もなんですので中にお入りくださいいいいい」

「準備も整っておりますよぉぉぉぉ」

「あっ、ちょっと! エラブル殿、クッテネルング殿!」


 一度屋敷に入れてしまえばこっちのもんだ。

 いつものように、調度品を自慢しながら応接室へ案内する。


「……この壺は最近発掘された遺跡の物でええええ、こっちの皿はああああ……」

「は、はあ、相変わらず素晴らしいですな」


 なぜかセリアウス侯爵もやたらビクビクしていた。

 そう、まるで汚い物を避けるように。


「さあ、部屋に着きましたぞおおおお、セリアウス侯爵うううう」


 応接室に招き入れても、セリアウス侯爵は険しい表情のままだった。

 おそらく、さっきの使えない使用人が失礼を働いたのだろう。

 後で叱りつけておかねばならん。


「では、こちらの椅子にお座りくださいいい」

「え、ええ……」

「本日の商談の件でございますがああああ……」


 突然、私とクッテネルングは咳が止まらなくなった。


「ゴッホオオオオ! ブホオオオオ! ゲッフウウウウ!」

「ゴホゴホゴホォォォ。ブヘェェェ」

「うわあ!」


 セリアウス侯爵は大慌てで身を引く。

 汚物を見るような目でこちらを見ていた。


「申し訳ございませんなあああ。朝から咳が止まらなくてええええ」

「大したことはないので、お気になさらずぅぅぅ」


 セリアウス侯爵は硬い表情で顔をしかめている。

 きっと、私たちの体調を気遣ってくれているのだろう。


「……」

 

 セリアウス侯爵は口を真一文字に閉じていた。

 厳しい表情のまま押し黙っている。


「ど、どうされたのですかああああ? さっそく、商談の方をおおおお……」

「……貴殿との取引を全て解消させていただきたい」


 その口から出てきた言葉は、想像もしないことだった。


「セ、セリアウス侯爵うううう? いったいどうされたのですかあああ?」

「人を瘴気の中に連れ込んでおいて、よくもそんなことが言えますな」


 セリアウス侯爵まで瘴気がどうのこうのと言っている。

 

「どこに瘴気があるのですかあああ?」

「僕ちゃまにも見えませんよぉぉぉ」

「ですから! そこら中に蔓延っているじゃないですか!? あなた達の体にも! 本当に見えないのですか!?」


 辺りを見回すがそんな物は何もなかった。

 もちろん、私たちの体にもない。

 いきなりどうしたのだ?

 ポカンとしていると、セリアウス侯爵はさらに言葉を続ける。


「屋敷の管理もできない人とは、大切な商売の取引などできるはずもありません。話し方もおかしいし、貴殿のような変人と取引していた私が愚かだった。もうこの瘴気屋敷に来ることもないでしょう」


 セリアウス侯爵は逃げるように出て行くと、あっという間に帰ってしまった。

 取り残された私たちは呆然と佇む。

 しょ、商談が失敗……?

 セリアウス侯爵はもう二度と来ないと言っていた。

 ……領地の収入はどうなってしまうのだ?

 脂汗とは別に、冷や汗が溢れて来る。

 私の対応に落ち度はなかった。

 普段と違ったのは……。


「クッテネルングウウウウ! 貴様が虚ろな目をしているからだああああ! 責任とれええええ!」

「や、やめてくれぇぇぇ。僕ちゃまのどこが悪いんだよぉぉぉ。というか、父ちゃまのせいだろぉぉぉ」


 私たちは取っ組み合いの喧嘩を始めた。

 だが、体力は底を付いているので、まともな喧嘩にはならない。

 少し戦っただけですぐに疲れ果ててしまった。

 クッテネルングと一緒に床に転がる。


「ち、ちくしょうぅぅぅ。クソ兄者めぇぇぇ。自分だけノコノコ逃げやがってぇぇぇ」


 クッテネルングのボヤキを聞いた時、私は全てを理解した。


「そうだあああ! これも全部ユチのせいだあああ! あのゴミ愚息めええええ!」


 思い返せば、ユチを追放してからおかしくなった。

 あいつは出て行く時、何か魔法をかけていったに違いない。

 その晩からどうやってゴミ愚息に復讐してやろうか考えだした。

お忙しいところ読んでくれてありがとうございます


『読者の皆様へ、青空あかなからお願いでございます』


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