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第29話:暗殺者が攻めてきた

「さあ、ユチ様、ご感想をお聞かせくださいませ」

「お、俺がたくさんいるなと思います」


 村の入り口でユチフィギュアの配置を確認させられていた。

 無論、本物との対比を確かめたいとのことで、俺は半裸だ。

 フィギュアたちは、入り口の上にズラリと並んでいる。 

 揃って荒れ地の方を見ていた。

 

「せ、せめて、村の入り口に置くのはやめようよ。どんな村かと思われるか……」

「何をおっしゃいますか。ユチ様の素晴らしさはもっと全面的に押し出すべきでございます」


 フィギュアは無事に量産体制が整ったようで、村の至るところに置かれていた。

 俺にはもうどうすればいいのか見当もつかない。 

 と、そこで、ルージュが険しい顔で荒れ地を見た。


「どうしたの、ルージュ? まさか、荒れ地にまでフィギュアを配置するんじゃ……」

「いいえ、ユチ様。また招かれざる客が来たようです」

 

 荒れ地の方をよく見ると、一人の人間が歩いてくる。

 真っ黒の服に身を包み、風が吹いても顔が見えることはなかった。


「誰だろうね。やたら黒いが」

「おそらく、漆黒の暗殺者〔ジェットブラック〕でございます」

「え!? あのウワサに聞く……」


 どんな仕事でも100%達成すると言われている漆黒の暗殺者〔ジェットブラック〕か。

 まさかデサーレチに来るとは……。

 というか、どんだけ黒が好きなんだ。


「またデサーレチを襲いに来たヤツか」

「ここは私めにお任せくださいませ。ユチ様はこちらでお待ちください」


 ルージュは荒れ地に向かって歩き出す。

 いつの間にか、その両手には短剣が握られていた。

 止める隙もなく、〔ジェットブラック〕に歩いて行く。

 敵も気づいたようで、二人は荒れ地で向かい合う。


「さて、ユチ様の安寧を阻害しようとする者は何人たりとも許しません」

「フンッ、貴様が殺害対象の付き人か。依頼人からは皆殺しにして良いと言われているからな、容赦はせんぞ」


 〔ジェットブラック〕が喋り終わったとたん、その手には黒いナイフが握られていた。

 取り出す仕草さえ見えなかった。

 ピリピリとした空気が張り詰める。

 まさしく、手練れ同士の戦いだ。

 ルージュが勢い良く斬りかかる。


「はっ!」

「遅いっ!」


 ジェットブラックはルージュの攻撃をひらりとかわした。


「ユチ様には絶対に近寄らせません!」


 すかさず、ルージュが短剣をふるう。

 そして、〔ジェットブラック〕はすんでのところで避ける。

 息を呑むような、一進一退の攻防が続く。

 やがて、ソロモンさんやアタマリ、領民たちも集まってきた。


「生き神様、あの黒いヤツは誰ですじゃ?」

「漆黒の暗殺者〔ジェットブラック〕って言ってました」 

「「〔ジェットブラック〕!? こりゃ大変だ!」」


 その名前を聞くと、みんな驚愕していた。

 やはり名の知れた暗殺者らしい。


「ユチ様を襲いに来やがったヤツですね。おい、お前ら、急いで装備を持ってこい!」


 みんな後ろの方で、慌ただしく色んな武器や装備の準備を始める。


「あんなに接近戦をしてたら、援護しようにも難しいぞ!」

「ルージュさんから目を離すな!」

「一瞬の隙をついて援護するんだ!」


 みな、ルージュと〔ジェットブラック〕の攻防を見守っていた。


「はっ! くらいなさい!」

「うぐっ!」


 そのうち、ルージュの回し蹴りが〔ジェットブラック〕の脇腹にヒットした。

 さすがは元Sランク冒険者だ。

 相手が暗殺者だろうが、まったく引けを取らない。

 吹き飛ばされた〔ジェットブラック〕は、ズザザザザッ! と俺の方に転がってきた。

 〔ジェットブラック〕はむくりと起き上がる。

 フードで顔は見えないが、ニヤリと笑っているようだった。


「し、しまった! ユチ様、お逃げください!」


 ルージュが猛ダッシュで走ってくるがとても間に合わない。

 領民たちからも微妙に距離がある。

 急いで逃げようとしたら、つまずいて転んでしまった。

 〔ジェットブラック〕はナイフを掲げる。

 同時に、ヤツの体にくっついている瘴気が苦しみだした。

 村の中に入ってきたからだろう。


「覚悟っ!」

「うおおおお、ヤベぇ!」

『ギギギギギ……キャアアアアアア!』


 とっさに顔を覆って目をつぶる。

 俺の人生もここまでか!

 だが、いつまで経ってもナイフが降って来ない。

 ど、どうした?

 恐る恐る目を開けると、〔ジェットブラック〕がナイフを振りかぶったまま固まっていた。


「な、なんだ?」

「貴様~なんだぁその顔は~私を見るときはもっと笑顔にならんか~」

 

 〔ジェットブラック〕がナイフを投げ捨てて、俺に抱き着いてくる。

 かと思うと、スリスリ頭を擦り付けてきた。


「ナデナデしてくれないと殺してしまうぞ~この愚か者~」

「は? な、なに?」


 いきなりの急展開に理解が追いつかない。

 さっきまでの殺気は消えている。

 上手いことを言ったつもりはないが、本当にそんな感じだった。


――な、なんなんだ、いったい? どうした?


 〔ジェットブラック〕の顔を隠している長いフードをめくる。

 暗殺者とは思えない、プラチナブロンドのド派手な髪が出てきた。

 その髪からはゴールドの瞳が覗いている。


「え……女?」


 あろうことか、〔ジェットブラック〕は女性だった。

 やたら美人で暗殺者っぽさは皆無だ。


「そうだぁ~、我はこう見えても女なんだぞ~」


 くねくねまとわりついてくる。

 

「お、俺を殺しに来たんじゃないの?」

「だからぁ~貴様を殺すのはやめたのだぁ~」

「え? あ、暗殺者は?」

「そんなのもう引退だっつ~のぉ~」


 〔ジェットブラック〕は人差し指で、俺の胸をぐりぐりしてくる。

 円を描くように触ってくるのでくすぐったくてしょうがなかった。

 ソロモンさんたちも唖然としていた。


「きっと、生き神様の聖域で改心したのじゃよ」

「は、はぁ、なるほど……」


 しかし、すごい変わりようだな。


「そ、それで、誰に依頼されたんだ?」

「貴様の父親のエラブル・サンクアリだぁ~」


 いや、マジか。

 また父親かよ。

 俺はもはやため息しか出なかった。

 と、そこで、ルージュがすごい勢いで走ってきた。

 ビリッとジェットブラックを引き剥がす。


「さて、この不届き者を分解しましょう」


 スラリと短剣で斬りかかる……。


「タ、タンマー!」


 慌ててルージュを止めた。

 

「……ユチ様、この者の味方をするのでありますか?」

「そうじゃなくてね! さすがに人殺しはまずいって話で……むごっ!」

「ほらぁ~早くナデナデしろ~」

「離れなさい、このクソ暗殺者」

 

 〔ジェットブラック〕がまとわりついてくるが、ルージュが即引き剥がす。

 みんなは温かい目で見ていた。


「生き神様はモテますの~、ワシの若い頃に似てますじゃ」

「私はユチ様が羨ましいですわ、ハハハハ」


 さっきまでの緊張感は消え失せ、ほんわかした空気が漂っている。

 というか、とりあえず服を着たい。

 二人の美人にベタベタされる裸の男はさすがにまずい。

 

「ユチ様から離れなさい、このクソ暗殺者」

「離れるわけないだろうが~」

「た、頼むから服を着させてくれー!」


 その様子を、ユチフィギュアが静かに眺めていた。



――――――――――――――――

【生き神様の領地のまとめ】

◆漆黒の暗殺者〔ジェットブラック〕

 どんな依頼(主に暗殺)でも100%達成することで、裏の世界では名を馳せていた。

 黒いナイフが主要な武器。

 戦闘力は極めて高く、ルージュと対等に戦えるほど。

 ユチの作った聖域により改心しふにゃふにゃになる。

 本名はちゃんとあるらしい。

お忙しい中読んでくれて本当にありがとうございます


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