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第26話:王女様が来ちゃったんだが

「さて、次は盾を構えるようなポーズで……」

「も、もう勘弁してくれ~」

 

 相変わらず、半裸スケッチされている時だった。


「ユチ様! フィギュアが完成しましたよ!」

「生き神様に瓜二つじゃ!」

 

 バーン! と扉が開けられ、アタマリとソロモンが入ってきた。

 いつの間にか、俺のプライベートは欠片も残さず消え去ってしまった。


「では、こちらのテーブルにセッティングいたしましょう」

「承知しました!」

「ワシも手伝うじゃよ!」


 みんなは楽しそうに人形を並べていく。

 

「「おおお~!」」


 パチパチパチと拍手が響き渡る。

 ルージュが嬉しそうに話しかけてきた。


「ユチ様、ご感想はいかがでしょうか?」

「う、うん……良くできてるね……本当に」


 目の前のテーブルには、男の半裸フィギュアが並んでいる。

 どこかで見たような顔だった。

 <ゴーレムの金剛剣>らしきソードを構えているヤツ……。

 <大賢者の杖・量産タイプ>っぽい杖を持っているヤツ……。

 膝を抱えて座っているヤツ……。

 というか、全部俺だ。

 めっちゃ精巧にできていて、俺がそのまま1/6の大きさになったみたいだ。


「俺たちの持てうる全ての力を使って、お作りいたしました! お気に召していただけましたか!?」

「ワシはこれ以上ないほど素晴らしい出来だと思いますがの! どうですじゃ、生き神様!?」

「私めは感動して言葉もございません」


 みんな、それはそれは晴れやかな顔をしている。

 大仕事をやり遂げた感でいっぱいだった。


「量産体制も完了し、すでに村中へ配置いたしました! ぜひ見てください!」


 アタマリが興奮した様子で喋る。


「え……」


 絶望した気持ちで家から出る。

 そこかしこに、俺の半裸フィギュアが鎮座されていた。


「そして、このフィギュアは魔力を込めれば動きます!」


 アタマリの言葉に、さらに俺は絶句した。


「……はい?」

「<ウィザーオール魔石>などを砕いて混ぜているので、動かすことができるのです! やってみますね! それ!」


 アタマリが魔力を込めると、フィギュアが動き出した。

 小さくなった俺が裸で踊っているみたいだ。


「「おおお~!」」


 一同(俺以外)、歓喜。


「そのうち、<フローフライト鉄鉱石>なども使って、空を飛べるようにもしましょう!」

「それは素晴らしいアイデアでございます。私めも協力いたします」

「そうじゃ! 村の者たちにも知らせようぞ!」


 みんなが盛り上がっている中、俺は色々諦めていた。

 せめて、服を着たバージョンが作られることを祈る。


「すみませーん。こちらに素晴らしい土地があると聞いてきたのですが、どなたかいらっしゃいませんかー」

「ひ、姫様、お待ちください! もっと慎重に……!」

「大丈夫です。女に大切なのは度胸ですからね」


 入り口の方から、女の人の声が聞こえてきた。

 鈴の音が鳴るような、やけに美しい声だった。


「また来客みたいだ。最近は本当に良く来るなぁ」

「きっと、ユチ様の評判を聞きつけてきたのでしょう」

「ルージュが何を言おうと、今回は絶対に服を着るからね」


 幸いなことに、俺の服はすぐ後ろにあった。

 手を伸ばせば余裕で届きそうだ。


「いいえ、ユチ様。せっかくですので、フィギュアと見比べていただきましょう」

「え? い、いや、ちょっと……タ、タンマ~!」


 半裸のまま引きずられていく。

 来客がチラッと見えてきた。

 お姫様みたいな格好の人と、その侍女みたいなポジションにいそうな人だった。


「な、なんか、王女様っぽい人が来ているんだが」


 屋敷に閉じ込められていた俺でも、王女様の顔くらいは分かる。

 サラサラの銀髪ロングヘアーに、夕日の太陽みたいなレッドの眼。

 くるんとした可愛らしいまつ毛。

 ま、まさか、本物じゃねえよな。

 いや、さすがに違うだろう。

 王女様がどうしてこんなところに来るんだってーの。

 

「あちらにいらっしゃるのは、オーガスト王国のカロライン王女様でございますね。お忍びでいらっしゃったのでしょうか」


 な……に……?

 本物の王女様……だと?

 まずいよ、まずいよ、まずいよ?


「ル、ルージュ、頼むから服を着させてくれ」 

「いいえ、ユチ様の素晴らしさを知っていただく良い機会でございます」

「あっ、ちょっ!」


 あっという間に、カロライン様の前に連れ出されてしまった。

 半裸で。


「こんにちは、突然の訪問失礼失礼します。私はオーガスト王国の王女、カロラインです。あなたが領主のユチ・サンクアリさんですか?」

「は、はい……そうでございますね」


 ……終わった。

 王女様の前に半裸で出てしまった。

 もうこれは監獄行きだな。

 “王女様に裸を見せつけた罪”だ、きっと。


「あの……王宮にいらっしゃらなくて良いんですかね。いないとわかったら、王宮が大騒ぎになると思うんですが……」

「ご心配ありがとうございます。ですが、全く問題ありません。私の分身を置いてきたので」

「え? ぶ、分身……ですか?」

「私はこう見えても、色んな魔法が得意なんですのよ」

「そ、そうなんですか、すごいですね」

「私の分身なので、私にそっくりですわ。まぁ、当たり前なんですけどね。父上もずっと騙されておりますわ」


 カロライン様はウフフフフと上品に笑ってらっしゃる。

 さすがは王女様だ。

 俺より肝が据わっている。

 

「色んな方たちが、あまりにもデサーレチとユチさんの素晴らしさをお話になるので、気になって来てしまったのですわ」

「い、色んな方たちが……ですか?」

「はい。フォックス・ル・ナール商会の会長さんやウンディーネの里からの使者さん、ドワーフ王国のお姫様、オーガスト王国魔法学院の学長さん……最近だと、勇者パーティーの皆さんも話していましたわ」


 いや、マジか。

 みんなデサーレチのことを王女様にも話していたのか。


「私もぜひ見学させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「え、ええ、それはもちろん」


 ということで、カロライン様と侍女を案内することになった。


「これがデスガーデンですね。畑から激レア作物が無限に収穫できます」

「まあ! なんと素晴らしい!」


 カロライン様は口に手を当てて驚いている。

 やがて、領民たちもやってきた。


「生き神様~! またすごい作物が採れましたよ!」

「これも全部、生き神様のおかげですね!」

「俺たちのために、一生懸命領地を良くしてくれて本当にありがとうございます!」


 みんなして、わあわあ嬉しそうだ。


「さ、騒がしくてすみませんね」

「いえいえ、領民に信頼されているのはとても良いことですわ」


 その他、デスリバーやデスマイン、デスドラシエルなどを見せたが、とにかく感嘆していた。

 デススワンプにも入ってもらい、ゆっくり休んでいただいた。

 その都度、領民たちが生き神様~! とやってくるので、少々騒がしかったかもしれなかったな、申し訳ない。

 湯からあがって家に帰り、例の饅頭を食べている時だった。


「それにしても……」


 と、カロライン様は感心したように呟く。


「な、なんでしょうか?」

「ユチさんは、領民から本当に信頼されているのですね。皆さん、ユチさんとお話している時が一番楽しそうですわ。ユチさんのお人形もたくさん並んでいますし」

「は、はぁ、そうなんですかね」


やがて、案内も終わったので、お帰りの時間となった。


「こんな素晴らしいお人形までいただきまして、本当にありがとうございます」


 カロライン様は嬉しそうに俺の半裸フィギュアを抱えている。


「そうだ、良いことを考えましたわ。王宮でこのお人形を流行らせましょう」

「さすがは、カロライン様でございます。これ以上ないほど、素晴らしいお考えでございますね。ぜひ、私めからもお願いいたします」

 

 ルージュとカロライン様はがっしりと握手を交わす。

 互いに心の通じる同志と出逢えて嬉しいようだ。


「それでは、カロライン様。ワシが王都まで転送して差し上げますじゃ。魔法札もあげるから、また来たくなったら破ってくださいですじゃ」

「本当に大賢者のソロモンさんまでいらっしゃるんですね。そんな方まで住んでいるとは、ユチさんの人柄の賜物ですね。ありがとうございます。絶対にまた来ますわ」

「<エンシェント・テレポート>! この者を王都まで転送せよ!」


 ということで、カロライン様は笑顔で転送されていった。


「ユチ様、フィギュア製作の方を急いで進めた方が良さそうでございますね。いずれ、王宮に献上することになるかもしれません」

「ハハハ……そうね……」


 色々疲れて、乾いた笑いしか出なかった。 

 


◆◆◆(三人称視点)



 王宮に戻ったカロラインは、こっそり部屋に入った。

 

「お帰りなさいませ、ご主人様」

「ただいま帰りましたわ、分身さん」


 魔法を解除してベッドに横たわる。


「それにしても、本当に魅力的な方でしたわね」


 カロラインはユチフィギュアを撫でながら呟いた。

 死の荒れ地と知られていたデサーレチをあそこまで発展させるなど、誰にでもできることではない。

 土地の豊かさもそうだが、何よりユチが領民たちから信頼されていることに感動した。

 そして、カロラインはユチが追放された経緯もある程度知っていた。


「デサーレチに追放されたら、逃げ出したく思うのが普通でしょうに……それをあの方は逃げずに領主として発展させたのですよね」


 そうなのだ。

 彼は決して領民たちを見捨てようとしなかった。

 カロラインはその姿勢に感嘆していた。


――ユチさんこそ、この国の次期国王にふさわしいのかもしれませんね。


 フィギュアの方は、お気に入りのポーズは大切に取っておくとして、王宮の令嬢や侍女たちにも見せてあげよう。

 そして、ユチフィギュアは王宮内で密かに流行していくのであった。

お忙しい中読んでくれて本当にありがとうございます


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