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第25話:勇者一行が来たがズダボロなので癒されてもらう

「す、すみません……どなたか……いらっしゃいますか……ぐっ」

「「だ、誰か……」」


 ルージュにマッサージ兼スケッチされている時だった。

 村の入り口で誰かの声が聞こえてくる。

 また来客だろうか。

 だが、様子がおかしい。

 とても苦しそうな声だ。


「なんかヤバそうだぞ。怪我人かな」

「急ぎましょう、ユチ様」

「わ、わかったから、服をっ……!」

「そんな時間はございません」

「ちょっ、待っ」


 半裸のまま引きずられていく。

 急いで村の入り口に行くと、冒険者パーティーがいた。

 全部で4人だ。

 みんなボロボロで疲れ切っている。

 

「あ、あの、どうしました? 大丈夫ですか? 俺は領主のユチ・サンクアリと言いますが……」


 先頭にいたリーダーらしき人に話しかけた。

 眩しいくらいの金髪に、明るいブルーの目が印象的だ。

 冒険者なのは間違いないだろうが、良いところのお坊ちゃんって感じもする。

 同い年に見えるが、俺より大人っぽい。


「と、突然、申し訳ありません……僕たちは冒険者パーティー〔キングクラウン〕です」

「え!? 王国でもトップクラスに強いと言われるSランクの……!」


 〔キングクラウン〕はオーガスト王国の勇者パーティーだ。


「そして、ぼ……僕はブレイブ・グロリアスと申します」

「ということは、あなたが勇者のブレイブさんですか?」

「は、はい、そうです……」

 

 すげえ、本物の勇者だ。

 初めて見たぞ。

 しかも、グロリアス公爵家と言ったらオーガスト王国の三大名家の一つだ。

 

「俺は……大剣使いのラージスだ」


 黒い短髪で筋肉ムキムキの男性が名乗る。

 この人も全身が傷だらけだ。

 背中に担いだ大きなソードも刃こぼれしてしまっている。


「アタシは……女拳闘士のボクセルよ」


 隣にいるのは、紫色のショートヘアの女性。

 ラージスさんほどじゃないが、こちらも筋肉質だった。

 身体に切り傷がいっぱいだ。


「私は……魔法使いのウツニと申します」


 さらに隣にはグレーの長い髪の女性。

 立派な杖を持っていたが、先っぽの方が折れてしまっていた。


「皆さん、ボロボロじゃないですか。さっ、早く村に入ってください。ルージュ、デススワンプにご案内しよう」

「承知いたしました」

「森の方に、怪我に良く効く沼があるんですよ。沼と言っても、温かいお湯ですから安心してください」

「か、かたじけない」


 俺たちはブレイブさんたちを、デスドラシエルの森へ連れていく。


「僕たちは修行の旅に出ていたのですが、強敵との連戦が続きまして……魔王軍の配下との戦闘などもあり辛くも勝利したのですが、心身ともに限界を迎えてしまったのです。おまけに、道に迷ってしまいましてね。どうしようかと思っていたところ、こちらにたどり着いたのです」

「そりゃまた大変でしたね」


 荒れ地の方には強いモンスターが多い。

 魔王軍の配下なんていったら、なかなかに大変だったろう。

 やがて、デススワンプに着いた。

 ほかほかと温かい湯気が立っている。

 ブレイブさんたちはびっくりしていた。

 

「レ、レア度10!? なんてすごい沼なんだ……」

「ここに入っていると、怪我が治っていきますよ。まずは、ゆっくり休んでください」

「ユチ様の成分も入ってございますよ!」

「そ、それは言わなくていいからね!」


 いつの間にか、ルージュは着替えとかタオルとか色々用意していた。

 ここは彼女に任せて、一度家に帰る。

 ようやく服を着れるぞ。

 と、思ったら、俺の服がなかった。

 ルージュがどこかにしまってしまったらしい。


「お、おい、どこにあるんだよ。せっかく裸から解放されると思ったのに」


 探していたらルージュが戻ってきた。


「ユチ様、皆さま上がりました。今は、向こうの屋敷でお食事の準備をしております。どうぞ、ユチ様も来てくださいませ」

「わかった、すぐ行くよ。ところで、俺の服がないんだけど、どこにしまったの?」

「皆さまお待ちでございます。さあ、参りましょう」

「た、頼むから、服を着させてくれ~い」


 結局、半裸でブレイブさんたちのところに行く。


「ユチ殿、本当にありがとうございました。おかげさまで、元気が回復しました。怪我も完治しております。こんな素晴らしい土地は初めてです。しかも、鍛冶職人の方々が装備を修理してくださるとのことで……お礼のしようもございません」


 ブレイブさんたちが丁寧にお辞儀する。

 テーブルの上には、お馴染みの作物や魚なんかが並んでいる。

 ちょっと心配していたが、俺の半裸フィギュアは置いていなかった。

 どうやら、まだ試作品しか出来ていないようだ。

 量産体制に入るのはまだまだ先になりそうだな。

 ああ、良かった。

 と、そこで、ルージュが嬉しそうに丸い何かを持ってきた。

 ま、まさか……。

 

「どうぞお召し上がりくださいませ。特産品の“ユチ様饅頭”でございます。中の具材はこちらで採れた食材を使っております。表情違いで3種類ございますので、お好みの物をお召し上がりくださいませ」


 俺の顔が描かれた例の饅頭だ。

 どっさり持ってきた。

 こっちの焼き型は完成してしまったようだ。


「おお、美味しそうなお饅頭ですね! いただきます!」

「俺はこんなに美味いもん食ったことねえや!」

「アタシもこれ、気に入ったよ!」

「食べるだけで元気が出るようですわ!」


 みんなは美味しそうにバクバク食べる。


「ユチ様もお召し上がりくださいませ」

「う、うむ……」


 ルージュがグイグイ薦めてくる。

 仕方がないので、俺は微妙な気持ちでかじった。

 なんか、共食いしている気分になるのだが。

 意外と美味かった。

 そのうち食事も終わり、ブレイブさんが静かに切り出した。


「ユチ殿、あなた様は僕たちの恩人でございます。あなたに出会えなければ、今頃どうなっていたかわかりません」

「いやいや、困っている人がいたら助けるのは当たり前ですよ」

「それで、こちらの素晴らしい土地は何という場所なんですか?」

「あ、デサーレチです」


 何となく予想はしていたが、ブレイブさんたちは固まる。


「そ、それは誠ですか!? あらゆる苦しみがはびこっているという……あのデサーレチですって!?」

「足を踏み入れただけで体が溶けてなくなるという、あのデサーレチだと!?」

「死神の住処というウワサの、あのデサーレチ!?」

「魔王領よりはるかに劣悪でこの世の掃き溜めと言われている、あのデサーレチなんですの!?」


 みんなわあわあ大騒ぎだ。

 さりげなくルージュを見たが、やはりピキっていた。

 相手が勇者パーティーでも容赦なしだ。


「ユチ様! 頼まれていた装備の修理が終わりました!」


 ちょうどいいタイミングで、アタマリがやってきた。


「ありがとう、じゃあこちらの方々にお渡しして」

「こ、こんなすぐに修理ができるのですか!? しかも、前よりさらに強い装備になっているじゃないですか!?」


 ブレイブさんたちが驚いていると、ソロモンさんもやってきた。


「生き神様~、ちょっとよろしいですかの~。フィギュア製作でお聞きしたいところがあるんじゃが」

「「えええ!? 伝説の大賢者、ソロモン様までいらっしゃるのですか!?」」

「おや、これは〔キングクラウン〕とな。また珍しい来客じゃ。ここは良いとこですじゃよ~。後で転送してしんぜようの。魔法札もあるじゃよ」

「「!?」」


 ひとしきりりわいわいしたところで、勇者パーティーは王都へ帰るということになった。


「ユチ殿、本当にありがとうございました! この御恩は一生忘れません! こんな素晴らしいお土産の数々までいただいて、お礼のしようもないです!」


 ブレイブさんたちは、デサーレチの素材をたくさん持っている。

 俺の饅頭も。


「あ、あの、やっぱり饅頭はいらないんじゃ……」

「何をおっしゃいますか、ユチ殿! 今から王都のみんなに配るのが楽しみですよ!」

「は、はあ……」

「<エンシェント・テレポート>! この者たちを王都に転送せよ!」

「「本当にありがとうございました! またお会いしましょう!」」


 ということで、ブレイブさんたちは王都に転送されていった。

 なぜかルージュは悔しそうな顔をしている。


「ど、どうしたの?」

「ユチ様のフィギュア製作が間に合わなかったことが悔しくてなりません!」


 それに合わせて、ソロモンさんやアタマリまで悔しがり出した。

 

「生き神様の素晴らしさを皆に伝えるチャンスが……!」

「私は自分の不甲斐なさが申し訳ないです!」

「そ、そんなに真剣にならなくていいですからね……」

「さあ! フィギュアの量産体制を早く整えましょう!」 

「「おおお~!」」

 

 結局、すごい勢いでフィギュア製作が始まってしまった。

 


◆◆◆(三人称視点)



 王都に戻ったブレイブたちは、晴れ晴れとした気持ちだった。

 デサーレチという豊かな土地のおかげで、無事に王宮へ帰ってこれたのだ。

 もしユチたちに出会わなければ、彼らは死んでいたかもしれなかった。

 魔王領の様子を探ってくるという、重要な任務も達成できなかっただろう。


「僕たちも、もっと修行しないといけないな」


 ブレイブの言葉に〔キングクラウン〕も頷く。

 彼らは任務報告とともに、デサーレチとユチの素晴らしさを国王と王女へ事細かに話す。

 どこから漏れ出たのか、彼らの話はサンクアリ家の耳にも入るのであった。

 そしてその夜、王女がこっそり城を抜け出したことは誰も知らなかった。

お忙しい中読んでくれて本当にありがとうございます


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