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鬱は甘え。


 病室のドアを開けると親がぎゃーぎゃー姉を問い詰めていて姉が青白い顔して小刻みに震えながら蚊の鳴くような声で答えてた。「新庄さんは」「会社は」「なんでそんなことに」「鬱なんて気の持ちようなんだから」「しっかりしなさい」母親から飛んでくるマシンガンみたいな質問が姉を蜂の巣にしている。あー……、うん。俺は母親とその横でかかしみたいに突っ立ってる父親の首の後ろ掴んでぐっと持ち上げた。「げあうと」そのままぐいぐい引っ張って病室の外に追い出す。母親は抵抗したが小柄だから引きずっていける。意外にも父親の方は逆らわなかった。「なにすんのよ」「いいから出てけ」普段へーこらしてる俺に言われたことに驚いて母親が一瞬黙る。病室の外に出てから俺はちょっとキレる。

「なんなのよ?」

「その言い方、姉に絶対よくないからやめろ」

「は? あんたに何がわかるの」

「とりあえずだいたいの事情は知ってる」

 ざっくり姉の上司がやばいやつでパワハラ関連の話しと会社やめる方向にもってけねーか説得してるとこだったことを話した。父親が眉間に皺を寄せた。当然母親が「あんたなんでそんな大事なこと黙ってたの!?」食って掛かってくる。「こうなるからだよ」答える。「仕事やめるっつったらいい顔しねーだろ」「あたりまえでしょ」「かあさん」父親がとんとんと母の肩をたたく。

「ぼくたちにはわからないこともあるから一度冷静に話しを聞こう?」

 窘められて、母親がようやっとワントーン声を落とす。

「あんたもしかして最近外泊してたのって」

「姉のとこ泊まってた」

「っ、あんたがついていながらなんで」

「ぼくらがいてもなにもできなかったかもしれないよ」

 お? 昔からなにかと母さんに追従しがちなカカシみてーな父親だと思ってたけど、こっちについてくれるとは思わなかった。「ちょっと姉と話してくる」病室入る俺についてこようとした母親を父親が引き止めた。

 がらり。

 横開きの病室のドアをあけて姉の部屋に入る。姉は浅い呼吸をひゅーひゅーと繰り返していて体が震えててパニックを起こす寸前に見える。「さわっても大丈夫か」姉が顎だけかくかく動かして、俺がベッドに腰かけるとむしろすがりついてくる。姉の身体はプレステのコントローラみたいな震え方しててちょっとウケる。俺の胸に額を押し当てる。背中に手が回る。どうやら過呼吸気味になってて上手いこと息が吸えないらしい。「医者呼ぶか?」首を振って拒否する。じゃあまあいいかと姉の好きなように抱き着かせてやる。

 なんでああなんだろーなー、と母親の態度のことを考える。

 うちの母親は結婚して子供出来たのを機に仕事やめるまではバリバリのキャリアウーマンだったらしい。結構仕事が出来て破竹の勢いで昇進して高い給料貰ってて人を顎で使ってた、というのが本人談。精神病の類なんか経験したこともなくて想像もつかなくて「鬱なんか甘え」の考え方をしてる人の典型的なタイプだ。父親の方が理解あるのは父親の方が上司に恵まれなかったんだろう、たぶん。パワハラって聴いたときにさっと顔色変わったもんな。

 姉の肩をぽんぽんとたたいて背中をさすってやる。すこししたら落ち着いてきたのか呼吸がゆるやかになって体の震えも徐々に収まってくる。「すごくこわい」姉がこぼす。「会社でもすごくこわかった」あーあー、そうかそうか。

 自律神経失調症。とか。

 パニック障害。とか。

 いくつかの単語が思い浮かぶ。どれも姉とは無縁のものだと思っていた。

 姉の状態はそりゃべつにいいもんじゃねーんだけど練炭とか七輪のこと思い出して俺の胸の中で震えてるってのはまだまだ全然ましで、ほんっとに生きてるだけで丸儲けだなぁと思う。凍えてるならあっためてやりゃいいんだから。

 正直俺は「さぁ、これから平岡を社会的にぶち殺そうぜ!」って、相談をしたかった。でもいまの姉にそれを持ちかけるのはちょっとしんどそうだったからとりあえず黙っておく。

 つーかいま姉に必要なのはぎゃーぎゃーやかましい親やら俺の相手をするよりしばらくぐっすり寝て気持ちを落ち着けることだと思うんだけどそんなシンプルなことがうちの両親にはわかんねーんだろうか。わかんねーんだろーな。けっ。ドアがこっそり開いて父親がゆっくり足を踏み出して「はいっていい?」的な仕草をする。俺は唇に指あてて「いいけど静かにしろよ?」と返す。頷いた父親がなかに入ってくる。母親がそれに続く。

 軽く肩を二度叩くと姉が俺の胸の中から顔をあげて父親とか母親の方を見る。怯えた目をしてる。母親がまたぎゃーぎゃー言いかけて父親に視線で咎められて、言いかけたことを飲み込む。んで「あんたうち帰ってきなさい」言い直す。

「よくわかんないけど、疲れてるんでしょ? 好きなもの作ってあげるから」

 姉が小さく頷く。

 なにかと圧力かけがちで威圧感高いうちの母親だが、べつに俺や姉のことが嫌いってわけじゃないんだよな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] くぅ…! もやもやしますねぇ! こういうの、まじでたくさんあるんでしょうね…。 主人公の感覚も相当リアルで、今のところ真の意味で姉を助けられそうなのは、過去も含めて複雑な感情を持ってる主…
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