今日も料理
Twitterの殺伐百合投稿企画『殺伐感情戦線』様に参加させていただいたお話です。
お題は【冷蔵庫】
本作のキーワードは「百合 冷蔵庫 死体」です。そしてもちろん「殺伐」
いつものらぶらぶとは違うらぶらぶなので、苦手な気配を感じた方は、ブラウザバックをお願いします!ご協力ありがとうございます!
「ただいま」
私は帰宅すると必ず玄関で靴を履いたまま声を出す。
リビングは暗いが、ひと月前からそれが習慣になった。
照明を付け、ぺたぺたとフローリングを歩き、バッグを床に置くとまず服を着替える。私はストッキングを憎んでいるが、脱ぐ時の開放感は好きだ。
部屋着に着替えてオーデコロンを一振り。彼女と会う時にいつも付けていたもの。私はこの甘い香りが本当は少し苦手で、でも私に似合うと彼女が選んでくれたから好きだ。
二人きりになると、いい匂いだねといって、甘えるように抱きついてくれた。彼女の胸の柔らかな感触。私は私より少しだけ背の高い彼女の首にそっと唇を押し当てる。それが私たちの合図。あとはもう言葉はいらない。
鼻歌を歌いながら台所で手を洗う。彼女が好きなアーティストの新曲。バラードよりハッピーでポップな曲が好きな彼女はきっとこの曲を気に入るだろう。
さて、今夜は何を食べようか。
ハンバーグに、キーマカレー、ロールキャベツにピーマンの肉詰め。今日は疲れたし、シンプルにひき肉とキャベツの炒め物にしようかな。作り置きしてる肉そぼろをじゃがいもと一緒にチーズで焼くのもいい。
「ねぇ、何が食べたい?」
歌の合間にそうつぶやいてみる。私が作った料理を彼女はいつもおいしいといって食べてくれた。
「こないだ初めてチリコンカン作ったんだけど、おいしくできたんだよ」
リビングに置いた冷凍庫がブーンと低く唸る。部屋は狭くなったけど、ボーナスで業務用を買っておいてよかった。一人暮らし用の冷蔵庫だと、収めきれず棄てる羽目になっただろう。
できた料理をかわいいお皿に盛る。昔は洗い物を減らすため、フライパンから直接食べるようなこともしていた。だけど今はそんなこと、絶対にできない。
ランチョンマットを敷いたテーブルに料理をきちんと並べる。今日もちゃんとおいしそうだ。
ふうっと息を吐いて、手ぐしで髪を整える。そしてリビングの隅に行き、冷凍庫の扉を開けた。
「いただきます」
霜の付いた睫毛が折れてしまわないよう、重い扉をそっと閉める。
座イスに座り、食卓に手を合わせ、目をつむる。オーデコロンの甘い香りと香ばしい肉の香りが混ざりあい、私の中に落ちていく。
「ごちそうさま」
食べる前なのにすでに満たされた気分だ。とはいえやっぱりお腹は減っているので、目を開け、湯気の立つ皿へと箸を伸ばした。
2020/03/15投稿 #殺伐感情戦線 お題【冷蔵庫】