私の好きなもの
先日、親しい友人に指摘され初めて気づいたのだが、私はメガネ男子とゾンビ映画に目がない。
思い返してみれば本当にそうで、二次元であれ三次元であれ、好きになる人は眼鏡をかけていることがほとんどだったし、病める時も健やかなる時も、ゾンビ映画を観る。
そんな私だが、同期の森浦と映画を観に行くことになった。
森浦という男は、表情筋の動きこそ乏しいが、穏やかで人柄もよく、スプラッタホラーを好む。
そんな彼と水曜の残業中にリフレッシュスペースでばったり会い、最近観たクソ映画の話で意気投合した。そしてこの頃ごく一部で話題になっているB級ホラーを、一緒に観ることになったのだ。
スプラッタシーン満載で、ゾンビも出る。これはもう観るしかない。
話題とはいえ所詮はB級ホラー。車で一時間近くかかる隣県の映画館でしか上映していない。しかし森浦はそんなこと気にした様子もなく、我々の休業日である土曜に車を出してくれるという。
休日に人と出かけるのは久しぶりで、しかも相手は森浦で、金曜の夜はそわそわしてなかなか眠れなかった。
森浦はいいやつだし、仲のいい同僚だが、二人だけで休日に会うのは初めてだ。性別も人の目も関係なく、気の合う友達として仲良くやれたらと思うものの、それが難しいことはお互いに分かっている。
そして今、私はコンビニの駐車場で森浦を待っている。
ちなみに私はいつも通りの手抜きメイクで、カットソーにデニムパンツというなんの面白みもない格好だ。だって映画を観に行くだけである。
映画を観る前に昼ごはんも食べるがそれだけだ。これくらいでちょうどいいだろう。
ぼんやり立っていると、見覚えのある白い車がゆっくりと近づいてきた。フロントガラスが反射して運転者の顔がはっきり見えない。シルエット的に森浦だろう。軽く手をあげ合図する。
助手席の扉が私の正面にきたところで停車した。ウインドウガラスを見た途端、笑顔のまま私は硬直してしまう。
「川谷、早く乗れよ」
ウインドウガラスを下げ、森浦が動かない私に声をかける。私は何とか頷いて、助手席のドアを開けた。
「おい、どうした?」
「森浦こそどうした?」
「何が?」
私はシートベルトを引っ張りながら俯く。
「メガネじゃん……」
「俺、視力微妙なんだよ。運転の時はかける」
平然とした声が憎らしい。人の気も知らないで。森浦の表情筋は相変わらず仕事をしてないし、私ばっかりずるいじゃないか。
「川谷が髪下ろしてるの初めて見た」
「そんなのどうでもいいよ……」
よくねぇよ、という声が聞こえた気がするけれど、今は頭がまわらない。
だって、メガネだ。
森浦の柔らかな黒髪によく馴染むクラシカルなウェリントン型のブラウンフレーム。ああ、横顔いいな。鼻のラインがきれい。
土曜日、休日、昼下がり。私の隣にはメガネ男子。観に行くのはゾンビ映画。
友人に今の状況を話したら絶対に笑うだろう。あんたの好きなもんばっかじゃん、と。
ええ、私は認めよう。
メガネ男子が好きだし、ゾンビ映画も好きだし、森浦が好きだよ。
2019/10/03投稿 ♯メガネの日
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メガネの日は10月1日なので激しく間に合ってないです。