表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/23

九話 決着

 


『おい、起きろ』


 低い声がどこからか聞こえてくる。


『お前だ、起きよ』


 私を呼んでいる? 目を開けるが、そこには何も映らない。あるのは、ただただ真っ暗な世界。


『そうだ、貴様ほどの闇を持つものなど見たこともない。それほどの力を持った者を死なせるには余りにも惜しい

 存在だ』


 そうか……。


『ああ、だから少し力を貸してやろう』


 お前は胡散臭い。信用出来ない。


『ハハハ!! そうは言うがお前は妹を残してこの世から消えてしまうぞ?』


 頭の中を覗いたのか!?


『そうだが、なんの不思議がある。……私は初代魔王の武器、神器魔剣ハデスであるぞ!!』


 実績は充分と……。


『さぁ我が名を呼べ。さすれば力を授けん』


 魔剣……ハデス…………。



 すると真っ黒な装飾の身の丈はありそうな大きさの大剣が手に握られていた。

 やがて莫大な力が身体の内から溢れてきて…………。




 また意識が薄れていく。




『なっ! こ、これほどの闇かッ! ぐあぁぁぁぁ!!!』




 消えゆく意識の中、悲鳴が微かに聞こえた。







 ******





「やれやれ、手こずったな……」



 アルバスはため息を付きながら、意識を失ったぼろぼろのレーミュリアに歩いていく。トドメを刺すのだ。



「たまにこういうバケモンが表れるから困るんだよなぁ」



 すぐ近くに来て、足を停める。



「ホント、綺麗な顔してんのになぁ、中身があんなバケモンなのが勿体ねぇ。普通の人間だったら俺好みに育ててやったのによお」



 ゲハハハハと下品に笑う。



「まあ、それも終わったことだ。嬢ちゃん、あばよ」




 アルバスは槍を無防備なレーミュリアな降りおろした。




 ブシャァァァ








 アルバスにはそれが何の音か分からない。


 バランスが何故かとりづらくなって足元がふらついた。


 そこで気がつく。自身の右腕が無いことに。



「ああああああッ!」



 気づいてからアルバスを強烈な痛みが襲った。


 それだけではなかった。





「魔剣ハデスとやらに感謝せねばならんな……」



 聞こえる筈のない声がアルバスに届いた。


 そんなバカな。あれほどの傷を追ってこんなにすぐに意識が戻る筈がない。


 だが、あれはなんだ。


 全身ぼろぼろだったのに、傷どころか服すらも新品同様の目の前の少女は。


 あの手に握られている黒い細剣も、来ている黒いドレスも。あんなものはさっきまでなかった筈だ。



 奪われていた魔槍グレナードを握りつぶされた。




「は?」



 嘘だろう? あり得ない。あの槍を素手で破壊するなんて、悪い夢な違いない。


 だが、現実は夢よりも非現実的で、それでいてアルバスなとって酷いものだった。


 魔力が爆発的に放たれる。最早空間全てを飲み込んでいた。



「さて、仕切り直しといこうか……アルバス?」



 美しい少女が、美しい顔をこちらに向けて、美声でそんなことをそっと呟いた。







「あ、あいつを狙え!! 攻撃しろ!!」



 恐怖のあまり、一斉攻撃を命令する。



 魔獣たちが、それぞれの莫大な魔力わ込めた得意技をレーミュリアのいる辺り一面に炸裂させる。



 あまりの激しさに爆風と砂埃が立ち込める。



「どうだ! やったか!!」



 日本人がいれば、絶対にしないであろうその禁忌の言葉を。アルバスは発してしまった。



 砂煙の中から無傷のまま艶やかな黒髪を靡かせて、優美に歩いてレーミュリアは出てきた。



「なっ……! 分身たちよ、行けぇぇぇ!!! 魔獣を援護するんだ! あいつを今すぐな殺せ!!!!」



 蜥蜴の魔物が、鳥の魔物が、龍の魔物が、ライオンの魔物が、分身たちが幾ら攻撃しようとも、直前で何かに阻まれて一度も当たらない。


 レーミュリアは歩みを止めることなく、まっすぐとアルバスに近づいていく、着実にゆっくりと。



「はやく! はやく!! うわぁぁぁあ!!」



 先程までの威勢は見る影もない。みっともなく鼻水を垂らして、逃げ惑うことしか出来ない。


 それでもレーミュリアは着実に追い詰めていく。アルバスは逃げて逃げて、ついにダンジョンの壁に追い詰められる。


 分身たちや魔獣など、レーミュリアからすればあってもなくても変わらない存在と成り果てていた。


 しかし、ここから先、こいつらは不要だ。


 アルバスの本体には決して当たらないように、分身と魔獣たちに向けて、魔法を展開する。



「ダークネス・コンザレクション」



 純黒の魔力が出現し、分身と巨大な魔獣たちを羽虫のように押し潰した。



「ヒィィィ! く、来るな!!」



 警告を無視して近づく。


 男は懐から茶色に光る水晶を取り出してこちらに見せつけた。



「こ、これはなこのダンジョンのコアだ! それ以上近づいたら息埋めにす……ギャァァァ!!!」


「ほう、これで動かしていたのか」



 言い切らない内に、腕を切り飛ばして核を奪った。




「そういえば、貴様部下たちはどうした」



「ぶ、分身を手に入れてから殺してやったよ! あいつら、ヘマしかしねぇからな! あ、あいつらの死に様は最高だったぜ、『と、棟梁なんで、こんなに尽くしていたのに……』ってな! 今思い出しても笑えるぜ」


「そうか、別に死んでいるのなら興味はないな」


 レーミュリアにとってそれは本当な興味がないことだった。

 アルバスは必死に頭を働かせて、自分を生き残る為の行動を考える。考えを絞りだして言葉を発した。



「そ、そうだ分身の魔道書の居場所は……」


「もう見つけた」



 レーミュリアの手に確かに握られていた。



「うわぁぁぁあ!!」



 自暴自棄になって破れかぶれに殴りかかる。



 それが最後だった。



 キン

 流れるような動作でレーミュリアの剣が首を切り離した。



「く……そ…………」



 こうして勝負は決着した。





皆さん、違和感を覚えませんでしたか?


そう、なぜミュリアがアルバスを惨殺しなかったか。



それは彼が妹を狙っていたわけではなかったからです。妹ではなく、自分を狙っていた場合、武人として敵を敬い、痛みを感じさせないよう一撃で殺します。


もちろん、妹の場合は……まあここまでお読み頂けた方なら言わずとも分かると思いますが(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ