二話 事変
そろそろ過激化させたいところ……
エルステイン王国。その領地の一つレーミュリア達、アイギス家が治めるアイギス領の隣。そこはヘーベル領という場所があった。
そのヘーベル領のアイギス領からほど近い町の酒場に大勢のものが集まっていた。
「今日、ついにやるんだってさ」「うわー、流石屑領主。やることがえげつねぇな」「でもよ、相手はあのアイギス家だぜ? そんなことホントに出来るのかよ」「それがな……」
そこへ髭を顔中に生やした男が現れた。先ほどまでのざわめきが嘘のように霧散する。
「これより、我々はアイギス領への行進を開始する。これはアイギス家が国に反して禁術の開発を止めるためのものである! 既に国からの許可もでている! そして冒険者の方々に集まってもらったのは他でもない……とある任務をやってもらいたいからだ」
男はそう言って手のひら大の丸い水晶を懐から取り出した。
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私とフィアは両親と供に食卓を囲んでいた。
父親が音頭をとる。
「さぁ今日はシルフィアの誕生日だ。このアイギス家にこれ以上におめでたいことはないよ!! シルフィア6歳の誕生日おめでとう!!!!」
パチパチパチパチと皆が拍手をしたところで、ケーキの火をふぅーと息を吹きかけてフィアが消した。
可愛い。この一瞬を切り取ってしまいたい。あ、今度カメラを作ろう。絶対に。
そう思って口に手羽先を運んだ。
そこへ使用人の一人が青ざめた様子で、駆け込んできた。
「た、大変です!」
「アーテ、君は何の権利があってここに入ってきているのかな?」
「申し訳ございません、ですが一刻も早く旦那様のお耳に入れる必要があると考えた次第です!」
そしてこそこそと父に耳打ちすると、明るかった顔が一気に暗く変貌した。
「……それは大変なことだ。エルス、私は行かなければならないみたいだ。二人を頼んだよ」
「ええ、いってらっしゃいませ」
父は駆け足でその場を走り去った。
一体なにが……。
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レーミュリアの父ハミールが聞いたのは最悪な内容だった。
隣の領を治めるヘーベル家がここアイギス領に攻め込んできたというのだ。もう村々が攻撃を受けているようだ。更に悪いことに国が今回の件を容認しているとのことだった。国に戦力を求めることも出来なかった。恐らく上の一部が今回のことを国王に伝わる前にもみ消しているのだろう。
そして、もう一つ。ヘーベルには自分を恨む一つの理由があった。
「そうか……まだ君は。私のことを恨んでいたんだねぇ」
「とにかく出ないわけにはいかない。準備ができ次第、すぐに出陣する」
そう部下に伝え、武具を身に着けた。
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「おやすみなさい、ミュリア、フィア」
そう言って母親はフィアをしっかりと寝かしつけて私たちの部屋を出て行った。すーすーと眠るフィアの寝顔が可愛らしい。やはり同じ部屋にしてほしいと言ったかいがあった。
「おやすみ、フィア」
それから一時間程経ったころだろうか、私は奇妙な感覚に襲われて目が覚めた。
なにやら不気味な感じがしたのだ。そしてその勘は大当たりだった。
私の前に男がいる。それを感知した。姿は見えない、音もないが、確かにそこにいた。
その不埒者を殴りつけた。
「ぐはっ!」
すると何かの効果が切れたのか、闇から若い男が現れた。
「くそっ、俺のやつ壊れてたのか!? それにガキがこんな重いパンチを……」
待て、おれのやつ?
ハッと隣を見れば、そこはもぬけの殻だった。
瞬く間に私の心を業火が満たした。
「貴様、私の妹をどこへやった?」
「ぎゃぁぁぁ」
気が付くとその男の腕を握りつぶしていた。とうやら無意識の内に無属性魔法の身体強化を発動していたようだ。
「さあ答えろ!! 今すぐに!!」
「こ、このガキがぁ!!」
殴りかかろうとしてきたのをいなして、その頭蓋をがっとつかんで床に叩きつける。
「貴様はまだ力の差を理解していないというのか……ならば見せてやろう」
一歳の時、魔法の威力を上げるためや難易度の高いものを成功させるためには魔力が必要だと読んでから。
ひたすらに魔力増強のためにいついかなる時もフィアが生まれるまでの間、訓練し続けた。元から魔力が多いらしい私が訓練すれば、どうなるのかなど明白で。
「うそだろ……。なんだよこれ…………」
「吐け」
「わかったから、命だけは助けてくれッ!」
「いいだろう、さっさと吐け」
「隣の領主様が俺たちに姿を隠せる魔道具を配って、アイギス家の女子供をさらってこい、報酬は一千万ギルだすからって言ってきて、それで来たんだ。それで集合場所はヘーベル領近郊の村にある境界だ。なぁ、これでもういいだろう? 早く行ってくれ!!」
「ああ、そうだな」
そう言って私は男を手のひらから生み出した焔の槍で貫いた。
「がぽっ! ど、どうして……」
「何故お前のようなクズとの約束を守らねばならんのだ? 私が守るのはフィアとの約束。それのみだ」
男が倒れる音を聞く前に窓を突き破って外へと飛び出した。
そして近くにあった馬に跨がり、私が馬へと身体強化をかける。
「行けっ! 今すぐにフィアを取り戻す!!」
ヒヒーンと鳴いたかと思うと、まるで新幹線の如き速度で地を駆けた。
そして私は前を見据えながら、先程の事を思い出す。あの時、私が目を覚ました時、私は私の身の安全などというどうでもいいことの為に目を覚ましたのだ。なんて浅ましい。なんて愚かなことだろうか。
また一から鍛え直さねばならない。フィアに危険が迫ったことを完全に察知できるように。そもそも危機が及ぶことのないように。
私は馬に無属性の身体強化の魔法以外の付与を試みる。
この世界にある魔法とは、基本的に全員が使える無属性魔法と例外もあるが限られた者だけが使える属性魔法に別れる。
その属性魔法には火、氷、雷、地があるのだが、私の属性は更に例外の闇だった。
馬へと手をかざす。
「闇引き」
すると馬は苦しむようにもがき始める。それな反比例するように速度がぐんぐんと上がっていった。
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「ハハハハハハハハハ!! 素晴らしい!!」
ヘーベルの領主、ユーガスは笑いが止まらなかった。派閥間の争いの為、国王からは許可も得た合法的な侵略。
そしてなりよりあの憎きハミールを屈服させることか出来るのだ。そう考えただけで笑いは遂に止まらなくなった。
そして……。
今目の前で縛られている二人が更に彼の気分を高揚させていた。手を軽く持ち上げると、周りの部下たちが武器を卸した。
「なぁ、そうは思わんか? エルス夫人? そしてご息女のシルフィア殿?」
「くっ……」
「お、お母様……」
エルスはキッと睨みつける。
「何が目的てすか!?」
「いえいえ、別に殺したりはせんぞ。ガハハハハ! ただハミールの奴に全てを失ってもらおうというだけでなぁ!! ……だからエルス夫人よ、お前は今日から私の妻になってもらおうか」
「そんなことをすれば、即座に舌を噛みきります」
「ほう流石は夫人、肝が座っておるな……だが、その娘はどうなるじゃろうな? ハハハハハハ!!」
「なんて卑怯なッ!」
「そうじゃなあ今でこの美しさ、さぞ将来は楽しみじゃなぁ。さすれば儂好みに教育しようかの?」
ユーガスはゆっくりとシルフィアの髪に触れる。それがシルフィアにとってかつてないほど、不快てそれでいて恐ろしかった。
「やめて……」
うっすらと涙を浮かべながら顔を見上げるその顔はさらにはユーガスの嗜虐心をそそった。
その顔に触れようとした……その時。
パァンという破裂音が響き渡った。
ユーガスにはそれがどこから発生した音なのか分からなかった。
そしてその後に気づく、己の身体が猛烈な速度で後方へと吹き飛ばされていることに。
強烈な衝撃が彼を襲った。
意識が飛ぶ、その一瞬。
彼の目に入ったのは、見るだけで気絶してしまいそうな凄まじい怒りを表して、それでいて見たこともないほど美しい黒い死神だった。
「きさまらああぁぁぁぁぁあ!!!!」
死神は天へと咆哮した。
ちなみにTwitterなんかもやってます。時々頭の悪いツイートをしていますが、よろしければどうぞ。
@marushin3826