十四話 戦いの幕開け
「お前がいれば心強い」
「そういって頂ければありがたい」
アルメラ国王の言葉にハミールはそう返す。
「陛下、魔法を使用しましたか?」
「まだこの武器を出した一回だけだ」
「私も同様です。体内の魔力を使いきるまでが勝負。出来るだけ使用する魔力は最低限でいきましょう」
「あの敵を相手にか?」
「ええ」
「随分な無茶を言い寄る。それで勝機はあるのか?」
「もちろん」
そうハミールは言い切った。
「話し合いは終わったかな?」
剣を手持ちぶさたにぶらぶらと手で遊ばせていたボルテックスはこちらに向き直った。
「ああ……」
「……」
「そう……じゃあ行くよッ!」
最初に狙われたのはハミールだった。
凄まじいボルテックスの速度を目を動かす筋肉だけと神経の一部にのみ、身体強化をかけ、ギリギリのところで視界の端で捉える。
服を攻撃が掠めとるが、構わず前に出る。
アルメラがボルテックスの後ろから挟み込むようにして剣を一閃させる。
ハミールも反対側から剣を振った。
それをボルテックスは前に前転しながら悠々とかわす。
「へぇ、なかなかやるね……」
「それは……どうもっ!」
ハミールは護身用に持っていた魔法を施した釘を放った。
それは空中で電気を帯び、閃光となってボルテックスに襲いかかる。
それを見ることなく、弾き飛ばした。
そして上段に剣を振りかぶった。時間をおうごとにボルテックスの魔力が増大していく。
「あれは……まずいな、ハミールどうする?」
「やるだけやってみますよ。……《魔剣レヴィア》、私たちを守れ!」
持っていた蒼剣を天にかざした。
剣から空間が開き、中から膨大な量の水が吐き出される。
それは液体のまま空中に漂い、ハミールとアルメラを守るように厚い幕を張った。
ボルテックスの剣が動き出す。
「ウィンドミル・カッター」
不可視の風の斬撃が二人へと襲いかかった。
それは水をどんどんと突き破っていく。
「くっ! うぉぉぉぉぉ!!」
それでも諦めずに水を更にだし続け、なんとか防ぎきった。
多くの魔力を消費するのと引き換えに。
「はぁはぁはぁはぁ」
「キミ、ホントに何者? まさか今のが防がれるとは思わなかったよ」
口ではそういいつつも、何の動揺もなしにそう言った。未だに彼の優位は揺るぎない。
だが、ハミールの一言によってその態度は大きく変わった。
「はぁはぁ……ボルテックス。君のその剣、神器かい?」
「!?」
「いや、明らかに原料が不明な上、神秘性を感じる。そしてその剣の能力はたとえば味方の兵士に魔力を送るとかそういう能力のを持っている、そうかな?
神器は単独で魔力を作り出せる唯一無二の存在。精霊がこの場にいないこの場において、君達が魔法を使えている理由はそれしか思いつかないよ。
感覚を研ぎ澄ませば薄っすらと魔力の流れをその剣から感じ取れるしね……」
「いやぁ、そこまでキミには見抜かれ見抜かれちゃったかー、ホントにスゴいよ。こんなことは始めてだ。だからさ……」
「キミは早めに消しとかないとね」
一瞬で、ハミールの後ろに回り込み、何の反応も、とれていない無防備な背中へ剣を振りかぶった。
「ハミール!」
それを横から割り込んだアルメラが剣で受ける。
余りの威力に受け止めきれず、ハミールを巻き込んで壁まで吹き飛ばされる。
「げほっ、まったく……国王が貴族を庇うとか何をやっているんですか」
「ここでお前を失った方が痛手だ……」
「まぁ実際のところそうなのかも知れませんが……」
そこで言葉を切り、迫りくるボルテックスの追撃を地面を転がりながら命からがらという感じで避ける。
「さて、この化け物相手にどうするか……」
二人は徐々に追い詰められていく。
******
アルメラとハミールがボルテックスと激戦を繰り広げている頃。
レクス・フィン・ユンディアはたった一人で十体の岩の巨人を押さえ込んでいた。そしてもうその内の二体を破壊していた。
国王である父親から頼まれたのだ。民をよろしく頼むと。尊敬の対象である父親から頼まれて、彼は死力を尽くして戦っていた。
それは彼の天才的な戦闘センスと彼の持つ雷光を放つ三日月のような形の両刃剣によってその状況は成り立っていた。
彼の持つ剣の名前は《天剣ミカヅチ》。すなわち神器である。
単独で魔力を練ることが出来る神器により、恒久的に魔法を使用できる。
更に剣から発生した電流を身体に流すことで化け物じみた速度で活動することも可能だ。その速度はボルテックスのものよりも遥かに速い。
「グゥオオオ!!」
「…………」
巨人が手を振り回して、風圧とともに襲いかかってくるが、手がレクスの元いた場時に動いた時にはもう既に相手の顔の前で浮かんでいた。
「ライジング・ストライク」
雷が落ちたかのような轟音を轟かせて、雷を纏わせた剣の腹で打ち付ける。その衝撃で大きくのけ反るが、巨人の顔が砕け散る。
「……あと七体」
技の後の一瞬の硬直を狙ってか一斉に他の巨人たちがレクスを狙って拳をつき出す。その速度はかなりのものであったが、レクスに比べれば鈍いものだった。
今までであれば。
突如として、身体に纏わせていた電流が乱れる。
「!?」
動揺して、慌てて回避するが幾つかの拳の中の一つに当たってしまう。
「ぐぁっ!」
バキバキという嫌な音が身体から鳴った。
飛ばされるも、空中でなんとか体勢を立て直し着地した。
先程の電気の乱れ。
あれはまだ発展途上の身体にはこの魔力の過剰使用は無理がありすぎたのだ。
もうレクスの身体はボロボロで意識もかなり薄れてきていた。そもそもたった一人で食い止めるというのはほとんど不可能であった。
「……はぁはぁはぁ、くっ!」
胸が焼けるように熱い。呼吸がやがて風を切るようなヒューヒューという音へと変わっていく。
それでも彼は父親からの頼みを遂行したかった。父の期待を裏切るような真似は死んでもしたくはなかった。
部下たちから自分のことを天才だと聞かされて満足そうに頷く父親を落胆させたくなかった。
そして何よりユンディア王家の名を冠する者として、フィンの名を受け継ぐ者としてこんなところで負けるわけにはいかなかった。
「うぉぉぉお!!」
普段、無口な彼は喝を入れて、歯をくいしばり立ち上がる。
「グワァァァァ!!」
岩の巨人のはたき落としをジャンプすることで回避し、腹に雷剣を叩き込んだ。
「俺はまだ戦える!」
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