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十二話 変化

 


 国王が宣言して、いよいよパーティーが始まった。


 国王とフリッツ公爵の元に、取り入ろうと人が集まる。


 だが人が集まっているのは三か所だった。残りの一か所はそうーーアイギス侯爵家だ。



「ぜ、是非私の息子の妻に迎えたい」


「まだ婚約するような年ではないので、ご遠慮させて頂きたく存じます」



「私の将来の妻になっていただけないだろうか?」


「申し訳ありませんが、娘の意思を尊重したいと思っています」



 シルフィアの元へ押し寄せる人々をハミールとエルスがばっさばっさと捌いていく。


 ハミールにはこうなる未来は予測できていたことだったのだ。……まさかここまでのものになるとは予想していなかったが。


 何よりも一番驚いたのが、シルフィアの態度だ。大勢の人々に怯えてしまうかと思っていたが、芯が強いのか肝が据わっているのか、驚いた顔をしつつもしっかりと婚約を断っている。


 娘がしっかりと成長している姿を見て、ハミールにとっては喜ばしい限りだった。





 フリッツ公爵はあらかたの下級貴族たちとの挨拶を程々に終えた後、国王アルメラの元へと出向いた。


 目が合った瞬間、周囲の雰囲気ががらりと変わる。まるで虎と龍の睨みあいだ。



()()()()殿()、ご機嫌麗しゅう。国に仕える者としてこのパーティーにご招待いただき誠にありがとうございます」


「元気で何よりだ。フリッツ()()。国全体では出来ない、隅々まで治められる領政治はどうだ?」


「ええ、どうすれば領が繁栄出来るのか、そればかりに時間を費やす日々を送っております。その経験と知識は国の政治でも役立つものばかりだと思いますよ?」


「ははは、また異なことを。いずれ考えておこう」


 アルメラ国王が見ているだけで背筋の寒くなるような愛想笑いをする。


「お願いいたします。それにしてもレクス殿はご立派になられましたな」


 後ろで立っていたレクス皇子を見ながら、フリッツ公爵はそう言った。レクス皇子は何の反応も返さずただただ無関心なままだ。


「おお、お前から見てもそうか。是非儂の跡継ぎに……そう考えておる」


「そうですかそうですか、彼が国を治めればこの国は安泰ですなぁ」





「生きていれば……の話ですが」




 天井から吊るされていたシャンデリアの火が突如として消える。


 突然のことに「なんだ、なにが起きた!」「見えないぞ!」といった声が次々とホールに響いた。


 その騒ぎを聞きつけてか、即座に国王の元に騎士たちが駆けつける。



 その時、カッ!とスポットライトがいつの間にか二階へと移動していたフリッツ公爵に当てられる。



「私、()()()()()()()()()()()()()()はあなた方の身柄を拘束させて頂きます」


 その声で後ろに立っているボールドが大きな鏡を壁に立てかけた。


 すると鏡だったものが草原を映し出し、やがて大勢の兵士たちを映す。一兵団ほどはありそうだった。そしてそれはこちらへと足を伸ばし……するりとこちら側へと通り抜けて侵入してしまう。それに続いて次々と兵士がこちら側へと現れる。



「あれは隣国のドールド共和国の兵士! あの魔道具をすぐに壊すんだ!!」



 隣国ドールド共和国とこの国ユンディア王国は数十年前から何度も戦争が勃発するほどに仲が悪かった。あの鏡の向こうにいる兵士が全てこちらに来てしまえば大変なことになる。


 それを阻止しようと、皆があちらに向けて魔法を打つが、どこからか飛んできた大勢の魔法群が撃ち落としてしまう。打たれた方角を見れば、それはフリッツの派閥の貴族たちだった。



「何を考えているのだお前たちは!? 売国奴にでも成り下がるつもりか!!!!」


「お前たちの方がばかげている。フリッツ様が売国奴のはずがなかろう。フリッツ様は元々王位継承権第一位のお方。国王の座につくのは当然の帰結である。それにあのお方はドールド共和国と和平と条約を結ぶとおっしゃられた。どちらが正しいか、言うまでもない」



 完全に取りつく島もなかった。魔法と魔法が真っ向から飛び交う。その間にも続々と兵士たちは増加し続ける。


 女子供はホールから抜けだそうと画策するが、分厚い扉で鍵を掛けられていて逃げ出すこともできず、ただ身を震えさせる。


 増加した兵士たちは抵抗できない人々をどんどんと拘束し始める。



「はぁっ!!」



 この悪い空気を切り裂くような掛け声とともに壮年の男が一人の兵士を切り裂いた。彼はこの国の最高戦力の一人だった。



 騎士長アルベール。



 王立学院を首席で卒業。数々の戦場を駆け抜け、輝かしい功績を認められこの国の武の頂点、騎士長へと抜擢された。



「せぁっ!」



 迫りくる兵士たちを刹那のうちに切り捨てる。貴族たちから「おおー!」という喜びの声が上がる。


 ガンッ!!

 もう一人、とアルベールが心臓を狙って振るった剣を何者かに受け止められた。それはフードを被った大剣を持っていた。


 剣を再び振るうが、それも防がれる。一合、また一合と剣をぶつけるが決定打を得られない。



「貴様……そのフードをとって顔を見せろ」



 無口な武人のアルベールが低い声音でそう言い放つ。



 相手はそれに反応せず魔法の刃を飛ばす。


 それを受け流し、距離を詰める。



「そちらがそのつもりなら、そのフードごと切り裂くまでだ!!」



 全身の魔力が活性化し、アルベールの身体が紅く光る。



「せあああぁぁぁぁ!!!」



 それは先ほどのものとは比較にならない速度、力だ。紅く光った身体と相まって一匹の鬼にすら見えた。



 フードの男も衝撃を受けきれず、身体を大きく仰け反らせる。


 その隙を見逃すようなアルベールではなかった。



「はっ!!」



 剣が深々とフードとその中を切り裂いた。



 一撃にして倒れる。ひと際大きな歓声の中、アルベールはその顔を見ようと歩み寄った。




「どうして……どうしてこんなところにいる? キーブ」



「どうされたかな? アルベール騎士長?」



 上から見下ろしてフリッツが、おどけるように言う。



「知っていますよ、アルベール殿。その男とあなたは戦友だったようですね。しかしその男はドールド共和国との戦いの中で敗走の時殿を務めてなくなった……そうですよね?」



「なにが……言いたい……」



 肩を震わせて、アルベールは言う。



「ええ、それでその男はドールド共和国に捕虜として捕まりました。ドールドの人体実験は知っていますよね? あれに使われたそうですよ、そして何でも兵士たちの訓練に大変役立ったとか……」



 キーブの身体には先ほどのアルベールのつけた傷以外に幾つもの……いや全身に様々な傷があった。無事なところが無いほどに。



「そしてその結果彼は耐えきれなくなってしまい、死んでしまった……。そして今回あなたと戦わせる為にネクロマンサーとしてここに連れてきたというわけです」


「貴様ああぁぁぁ!!!」



 激高したアルベールが再び紅く身体を光らせて、フリッツのところへと駆けた。




「ええ、彼は本当によくやってくれました。感謝しかないですよ」




 突如としてアルベールの身体から力が抜けていく。身体の発光は収まってしまった。


 変化が生じたのは彼だけではなかった。魔法を打ち合っていた貴族たちの魔法が消えていく。



「なにが起きている!?」




 それに答えられる者が敵にしかいなかった。




















明日の28日火曜日から30日水曜日まで毎日更新をお休みさせていただこうと思います。その代わり日曜日には4、5話程の連続更新を行う予定です。


金曜日からは毎日更新は再び開始しますので、よろしくお願い致します。


理由としましては、出来れば日曜日の連続投稿で一章を完結させたいなと思うからです。クライマックスですし、その方が最高に盛り上がるのではないかと。……まだ学園にも入っていませんしね(笑)

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