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十一話 開宴

今更ながらヨーロッパの貴族のパーティーがどんなものか全く知らずかなり難産でした。おかしいところもあると思いますが、そこは目を瞑って頂ければっ!

 


 ハミールたち、アイギス家は眠ったままのシルフィア、エルス、そして幾人かの信頼出来る部下を馬車に乗せ、護衛を配備して、3日かけて王都へとたどり着いた。

 馬車の中でシルフィアが起きて暴れられてはたまらないので、魔法をかけ続けた。これもアイギスの血が誇る魔力の高さ故に出来ることだ。

 流石に底をついてきて、身体がふらつくが王都までは気力で持たせた。


 レーミュリアに関しては、何らかの有力な情報を得られた場合直ぐに早馬を飛ばすように言ってある。



「ここが王都滞在中のアイギス侯爵ご一家のご自宅となります」


「案内ありがとう」



 案内された屋敷は王都の中心部にあるからか、本領のものと比べれば少し小さい。


 入る前に念のため探知魔法で危険物や人が隠れていないか確認。それから皆を入れた。


 内部は細部にまで掃除が行き届いているようで、埃らしきものは一切落ちていない。こんな情勢の中でも王宮に仕えている者たちはしっかりと仕事しているらしい。



「旦那様、王都の空気。……少しピリピリとしていましたね」


「ああ、王都の市井の人達も薄々気が付いているのだろうね。貴族間で緊張が高まってきていることに。もういつ爆発してもおかしくないところまで来てしまっているし……」



 王都は以前ほどの活気はなく、大通りも所々に隙間があって淋しさを感じた。田舎に逃げた人も多いのだろう。


 やはり今回のパーティーからは危険な香りがする。そう思っても第一皇子の誕生日パーティーへの出席を断れば、国への忠誠を疑われる。それだけは避けたいところだ。


 パーティーは明日。それまでに親交のある人への挨拶廻りなどはしておいたほうがいいだろう。そう思って椅子から立ち上がる。しかし思いとは裏腹にハミールの足元がふらついた。



「旦那様!」



 驚いた顔でエルスが駆け寄る。



「いい、大丈夫だ。なんでもない。少し挨拶廻りに行ってくるよ」



 身体に嘘に鞭打って、外へ出ようとするハミールの前にエルスが立ち塞がった。



「エルス……それは何の真似だい?」


「旦那様には身体を休めてもらいます! 私は魔法のことは詳しくないですが、それでもここにくるまで……いやミュリアがいなくなってからずっと魔法を使用していることを知っています。……どうかどうか、ゆっくりと休んでください。お願いいたします」



 謝られるように目に涙を浮かべながら妻にそう訴えられれば、ハミールにはもう選択肢はなかった。



「ごめん、今日はゆっくり休むよ」


「ありがとうございます」



 ハミールは妻にここまでさせてしまった自分が情けなくて、何だか無性に泣きたくなった。









 ********








 その日の晩。シルフィアが目を覚ました。簡易的な拘束をかけていたので、それを解こうとする間に寝ていたハミールを部下が起こし、なんとか落ち着かせることに成功する。



「ここは……王都なの? なんでお姉様がまだ見つかっていないのに、こんなところにいるの! ねぇ! お父様!!」



 小さな身体から引き絞るように大きな声でそう叫ぶシルフィアが痛々しい。ハミールは見ていられなくなって、声をかける。



「フィア、ごめん。たとえミュリアが見つかっていなくても明日のパーティーには出ないといけないんだ」


「お姉様がいないのにパーティーなんて出れない! お披露目は一緒だって決めてたの!! お姉様が一緒じゃなきゃ……」



 ベッドの上で叫ぶフィアに腰を落として目線を合わせ、諭すような口調でハミールは言った。


「…………フィア、賢い君ならわかってくれると思うからちゃんと話すよ。明日のパーティーに出なかったら他の貴族たちから狙われるかもしれないんだ。私やエルス、フィア、それにミュリアまで被害が及ぶかもしれない。どこかに一人でいるお姉様の命がいつの間にか狙われることになるかもしれないんだ。大好きなお姉様にそんなリスク、負わせたくないだろう? だからお願いだ、フィア。明日のパーティーに出てくれ」




「…………うん」



 少しの間が空いて、シルフィアは不承不承といった様子でうなづいた。なんとか参加はしてくれるようだ。



「それと、何の解決にもならないけど、ミュリアのことは何かわかり次第、直ぐに連絡が入るようにしているよ」


「その情報、私にも頂戴……」


「そうは言っても流石に言う訳にはいかないかな~」


「言わなかったら一生口聞かないっ!」


「……ごめんなさい。ちゃんと言いますからそれだけはホント勘弁してください」



「ふふっ」



 反射で謝罪をすると、エルスが笑いを零した。



「ごめんなさい。なんか嬉しくって。ほら……こんな風に家族で喋ったのって久しぶりですから」



 言われてみれば確かにそうだ。

 あの日以来、いつもその日の出来事を語り合った食事では誰一人として口を開かず、重苦しい雰囲気の中、空席が目立っていた。




「そうだね……次はミュリアも一緒にこんな風に話をしよう」


「はい!」「うん!」



 エルスとシルフィアは元気な返事を返した。










 *******











 次の日の晩。

 沢山の豪華絢爛な馬車で王宮への道が溢れかえっていた。貴族たちは出せる財産を尽くしておめかしをして、パーティーへと参加する。


 国王に取り入ろうとする者が多いのはもはやお決まりだが、今回は国王以外にも取り入ろうとする先があった。


 それは国王派と熾烈な継承争いを繰り広げている国王の叔父、つまり前国王の弟に当たるフリッツ・ロドリゲス公爵だ。そして彼はそれを歓迎していた。それを国王派は大変憂慮していた。



 パーティーは司会が貴族を序列の低い順に紹介していき、最後に王家を登場して、王座に座ってから始めるという伝統的な方法が取られた。



 そして次々と貴族が呼ばれてパーティー会場へ入場する。全ての貴族が参加しているらしく一時間近くかけてようやくアイギス侯爵家の出番となった。どうやら侯爵の中ではかなり最後の方であるらしい。


 ハミールは少し緊張気味のエルスの肩をポンポンと叩く。



「もっと力を抜いて……。パーティーではずっと僕の後ろにいるだけでいいから」



 そうすると幾分か緊張がほぐれた気がした。



 会場の入り口の扉にたどり着くと、司会者が魔道具をもって大きな声で紹介する。



『続いてのご紹介です。古来よりこのメルジニア王国に仕えていらっしゃいます。アイギス侯爵家のご登場です。現当主のハミール様は王立学院で大変高い評価を得ており、その実力から神童と呼ばれていた方です。皆さん拍手でお迎えください!!」



 入り口が開き、揃って前へ出てお辞儀をする。


 するとほぉという溜息が貴族たちから零れた。


 彼らの間ではハミールの整った顔立ちとエルス夫人の美しさは元より有名だった。だが、その娘はそのさらに上を行く可愛らしさと気品に溢れていた。目の色と同色の水色の長いドレスがシルフィアの金色の髪と白磁のような肌にあっていた。


 化粧をしている女性たちからはもう七歳とは言え、もはや立派な嫉妬相手となっていた。



「あのご息女の名前はなんというのだ。是非我が息子の妻としたい」「いや我が家は貿易においてアイギス家と協力している。私の家に……」



 などという声がいくつも上がる。きっとレーミュリアがこの場に居れば、激しい拷問の末、惨殺していたことは想像に難くない。






 そして公爵の紹介の最後。フリッツ・ロドリゲス公爵が登場した。今までの拍手と違い、『ロドリゲス様! 万歳!!』と歓声が上がった。



「ボールド君、カーテンを」


「はっ」



フリッツ公爵は後ろに控えていたこげ茶色の髪の、長身の男に小さく命令する。彼は使いの者が持ってきた青い布ーーブルーカーペットをレッドカーペットの()()()敷いた。


素晴らしい!!と言った声が上がる。

それは明らかに異常な光景だった。

 その上をフリッツはまるで自分が国王であるかのように手を振って応えた。


 司会は『お静かにお願いします! お静かに!!』と何度も注意するが、焼け石に水だった。何分か経ってようやく収まりを見せ、上から敷かれたブルーカーペットを取り払ってから、国王の紹介となった。



『最後のご紹介となります。王家並びにアルメラ・フィン・ユンディア国王陛下のご登場です!』



 ロドリゲス公爵の時よりも大きく、会場を包み込むかのような大歓声の中、金色の偉丈夫が現れる。赤いカーペットを歩き、王家の者が胸を張ってついていく。


 そして国王は一番上へと設置された最も豪華な椅子へと腰掛けた。手を前に翳し、もうよいという手ぶりをするとピタリと歓声は止む。



 その合図で国王の後ろから、まだ幼さが色濃く残る少年が前へと出てくる。金色の髪にその力強い朱い眼が将来、この国を引っ張っていくカリスマ性を醸し出していた。



「皆の者、この私の息子、レクスの誕生日パーティーに集まってくれて感謝する。長々しい挨拶はここではしない。存分に楽しんでいってくれ」



 執事が横からグラスを国王に差し出し、ワインを注ぐ。それから下の段にいる貴族たちにも同様に振る舞われる。



「行き渡ったか……それではこの国の更なる発展を願って、乾杯!!」



 こうして長い夜が幕開けた。









感想が欲しい今日この頃。もちろん応援も嬉しいです

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