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十話 脱出

今回は初の別人物の一人称視点です。

 


 あの日、お姉様がいなくなった日。


 初めてお姉様に膝枕をした。

 あの時の身体に感じた温もりは決して晴れた日の光のせいなんかじゃなかった。


 私とお姉様の体温は溶け合っていたんだ。それに身を任せるのは本当に気持ちがよかった。


 いつまでもこのお姉様と一緒にいたい。そう心から思った。



 でも……。




 その日の夜、お姉様は失踪した。




 もうそれから一週間経つ。







「みんな、今日の報告を聞かせてくれ」


「市街地に聞き込み、実地捜索を行いましたが、情報はありません」「地下道の可能性を思い立ち、捜索しましたが、それらしき姿は確認できず……」「その他、隣接する領地の関所の者に黒髪の少女を見たか、通ったかを聞きましたが、成果は得られませんでした」


「そうか……ご苦労」



 兵士の人たちが部屋から出ていってからお父様は頭を抱えた。



「くそ……」



 お父様がお姉様を真剣に探してくれているとお母様は言っていた。

 お父様は凄い人だからきっとすぐに見つかると言い聞かせられて、もう一週間が経とうとしていた。






 早くお姉様に会いたい。そうだ、人に任せて見つからないのなら、自分が探しだせばいいのだ


 最近、夢に見るのだ。

 お姉様が何かと戦っていて、そして……負けてしまう夢を。


 でも、それはあり得ないことだ。あんなに強いお姉様が負けるわけがない。



 しかし、その夢は毎晩続いた。次第に私の中で不安が募っていく。本当にお姉様は無事なのか。早く早くお顔が見たい。会いたい。


 お姉様に会えないことで、余計に感情の抑えは効かなくなっていった。






 そして、今夜。



「バレてないよね……」



 ベッドから物音を立てないようにそっと抜け出した。

 最初の関門は部屋の前。お姉様がいなくなってしまってから、部屋の外扉の前に監視が配置されるようになったのだ。


 しかしこの程度の試練を乗り越えられない私じゃない。 ここから脱出するための案は既に考えていた。


 お姉様が教えてくれた。目に見えているものは物が光を反射した光であると。だからその光を見当違いのところにずらしてしまえば、相手の眼には映らない!!


 後は音の問題だ。



「ふぅー」



 静かに扉の前で深呼吸をする。



「よし!」



 慎重に慎重に扉を開ける。監視の背中に当たらないようにゆっくりと。そして僅かに空いた隙間から身体を外に出して、閉める。



 キュー



「なんだ!?」



 その時に扉が僅かに音を鳴らしてしまった。幸い、扉は締め切った後で、魔法を発動していたので気づかれることはなかった。


 そのまま忍び足で見えなくなるところまで距離をとってふぅと、一息ついた。



「あ、あぶなかったー」



 お姉様が見つかったらあの扉を修理してもらおうと、私は心のメモに書き込んだ。


 一階へと続く階段を一段一段丁寧に足を運ぶ。靴が大理石との相性の問題で音が鳴りやすいが、ゆっくりと進むことで最小限に抑えられた……と思う。


 階段を降りきってしまえば、ここから屋敷の出口まではもう少しだ。だが、廊下に敷かれたカーペットをオレンジ色の灯りが薄っすらと照らして、実際よりも遠くに見えた。それと同時に心細さが胸を突いた。


 いつもいつも私の隣にはお姉様がいた。なんでも完璧にこなすお姉様が。一緒にいればどんな不安も悲しみもなくて、なんだって出来るような気が湧いてくる。でも、ここにはそんな人はいない。自分一人だ。


 自分に負けるな負けるなと言い聞かせて、懸命にそれでいて慎重に足を前へと動かす。


 そしてついに、玄関を出た。監視はこちらにはまったく気づいた様子はない。その事実が私に大きな自信を与えた。



「お姉様がいなくても、私は出来る!」




「何を出来るんだい?」




「え?」



 お父様が私の前にかなり怒った……いや悲しそうな表情を浮かべ、腕を組んで立っていた。



「な、なんでここに……」



「僕はあの日からずっとこの地域に探知魔法をかけ続けているんだ。そういう魔道具がうちにはあってね。フィアの魔力が不審に移動していることに気がついたんだよ」



 すぐに姿を消して逃走を図る。



 しかし……。





「なんか……ねむ……い」


「たとえ姿を消して、少し移動しただけではこの魔法の範囲からは逃れられないよ」



「そ……れでも、私は…………」



 お姉様を探しに……行くんだ…………。


 それを最後に意識は無くなってしまった。



「ごめんフィア。僕たちがミュリアを見つけられないばかりに……」



「旦那様! どうしたのですか!!」


 屋敷の方から寝間着のままエルスが走ってくる。


「ごめんエルス、起こしちゃったか……」


「そんなことはどうでもいいのです! フィアがどうしてこんな所に……」


「ミュリアを探しに行こうと部屋から抜け出て来たみたいだ。それを僕が止めた」


「あそこには監視がいたはずですが……」


「光属性の魔法を使って姿を隠していたみたいだ。仕組みはよく分からないけどね……」


「フィアが……そんなことを……」


「ああ。フィアもミュリアに劣らず天才だ。……だからこんなことがまた起きれば次は僕が気づかないかもしれない。もうこのままフィアを王都に連れて行こう。あそこまで行けば、ミュリアみたいに行方不明になることはないだろうし……」


「旦那様がそう仰るなら私はそれに従います!」


「うん、ありがとう」



 そう言ってハミールはエルスの頭をそっと撫でた。







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