鏡よ鏡、85
誠は道路に出て手をあげた。ハザードを点滅させたタクシーが停まった。
「ひとみ!早く乗って」 「どこ行くのよ」
「おれの部屋ちらかってんだよ。とりあえず乗って!」
ひとみは車に乗ると何もしゃべらずに寝たふりをした。行き先なんか相談して決めたくない。子どもじゃあるまいし。わたしは女なんだから。あんた、なんとかしなさいよ。
「ひとみ、起きて」
いつの間にか本当に寝てしまっていたひとみは服を着たままベッドにいた。誠はシャワーを浴びてきたところみたいだ。
「何よ、あんた。どういうつもりよ」
ひとみはジャケットを脱がされた。
「やっぱりさびしかったんじゃんか」
「あたりまえだろ」
「カッコつけんな、バカ」
「お前もやりたかったんだろ…」
ひとみはそれには答えなかったが、ボタンを外していく誠も咎めなかった…