たぶん二枚目
傷の手当は終わったが、新田さんはぴくりとも動かず、死んだように眠り続けている。刀傷自体は、軽症とはいえないまでも、割と浅手であった。
「坂之上の道場で一番の腕前だという男に斬りつけられたことで、この男自身が致命傷を受けてしまったと思い込み、意識を手放してしまったのだろう。こうなってしまっては、目が覚めるかどうかは、この男自身の気持ち次第だ」
と、三好先生は新田さんの道場仲間達に説明した。
養生所の診療室がある建屋には、入院が必要な患者が寝かせられている部屋が三つある。隔離が必要な病人がいれられる部屋と、それ以外の男部屋、女部屋だ。どの部屋もさほど広くはなく、入院できる患者の数は、合計でせいぜい十人程度だろう。
ちょうど隔離部屋が空いていたため、新田さんはひとまずそこに移された。道場仲間二人は、それぞれ新田さんの妻女や、剣の師である秋月左馬之助殿に連絡をするため、いったん養生所から離れた。
見習いとして養生所に置いてもらえることとなった私は、養生所の敷地内にある、長屋の一室を与えられた。
「もともとは、養生所の中間が使っていた長屋だ。昔は中間も五、六人おってな。皆、ここで住み込みで働いていたのだ。
今いる中間は、先ほど門のところにいた男だけだし、そやつは住み込みだが夜は診療室の横の詰所で寝ておる故、今、その長屋を使っているのは、この数馬だけだ。近くに男手があったほうが、何かと便利であろう。わからぬことがあれば、数馬に聞きなさい」
そう言い残して、三好先生は養生所を後にした。
若先生と診療室で二人きりになる。
「すっかり名乗りそびれてしまったが、俺の名は乾数馬だ。ゆき殿、これからよろしく頼む」
若先生が、人懐っこそうな笑顔で、軽く頭を下げる。不思議な人だ。三十歳前後のはずなのに、どこか無邪気で人ずれしていない雰囲気を漂わせている。背は、源太にぃや小平太さんよりも少し低いから、五尺九寸くらいかな。成人男性の平均よりは、十分に高い。藍色の小袖と小袴という質素な服装だ。養生所の手当は少ないというし、この人は見習いだからなおさらだろう。この時代、医者になるための医学校のようなものはない。医者に弟子入りして修行を積むのが一般的だ。でも、わざわざ手当の少ない養生所に弟子入りするとは、よっぽど奇特な人なのか、それとも何か理由があるのか……
「乾殿、こちらこそ、田舎育ちで江戸では右も左もわかりませぬゆえ、よろしくお願いいたします」
深く一礼をしようとしたところ、若先生は押しとどめるような手振りをして、
「おっと、堅苦しいことは抜きだ。窮屈でしょうがない。俺のことは数馬でいいぜ」
と、くだけた口調で言った。おお、意外に軽いノリだな。一回り以上年長の、初対面の相手に敬語を使わないってのは、自分でもどうかと思うけれども……まあ、本人がいいと言っているなら、いいか。様子を見ながら、ちょっとずつ言葉遣いを変えていこう。
「それでは、私のことも、ゆき、と呼んでください」
「そうさせて貰おうか。ところで、ゆきさんは春日井の国から来たと言ったな。五ノ井のあたりは女武芸者が多いときくが、ゆきさんも武芸を?」
私のなりと、腰の大刀を見て、興味津々、といった様子で数馬さんが尋ねる。
「父から手ほどきを受けて、いくらかは。育ったのが五ノ井から離れた山里ゆえ、足腰には自信がありますが、所詮女の身、大した腕ではありません」
私の返事に、数馬さんは益々興味をそそられたようだ。人好きのする笑顔に、好奇心があふれ出すような眼差しが……なんだか眩しい。うーむ、この手のやつは要注意だ。これ、きっと女たらしだわ。いや、桐生の里は源太にぃを除いては皆、いわゆる高齢者だし、源太にぃはあの通りの人だから、いわゆる軟派な人種には、この世界ではお目にかかったことがない。小平太さんが昔は遊び人だったっていっても、今は昔、の話だしなあ。
偏見かもしれないけれども、たぶん二枚目、愛想がいい、話術が巧み、の三拍子揃うと、どうも疑ってしまうよ。ちなみに、『たぶん二枚目』の『たぶん』はなにかというと、私は、世間の女子の視点から見た、顔の良し悪しの基準がよくわからないのだ。前世での高木さんや、今の源太にぃが世間的に美男子と言われていて、本人が望む望まないに関わらずモテモテなのは知っているけれども、私としては、ふーん、かっこいいかなあ……って感想だ。見慣れすぎているから、よくわからないや。まあ、女好きかどうかは置いておいて、数馬さんは女性にもてそうだ。
私がそんなことを考えている間も、数馬さんの質問は尽きない。
「ゆきさんの父君は、ずっと春日井に住まわれているのか」
「いえ、春日井に来たのは十年ほど前です。それまでは、諸国を旅していた、と聞いています。なぜ、そのようなことを?」
数馬さんは、視線を床に落とし、頭を掻きながら
「いや、ちょっと気になったんでな。すまん」
と、謝る。んんん? なんだか気になる反応だ。もしや、父とどこかで会ったことがあるんだろうか。
「ときに、数馬さんも剣を遣われるのですか?」
私がそう聞いたのは、数馬さんの小袖から除く両腕に、いくつもの浅い刀傷がうっすらと見えたからだ。刀傷を見慣れていない者なら、見逃してしまうくらいの古く、淡い傷だ。神経や腱は痛めていないようだけれども、この朗らかで軽い雰囲気の見習い医者に、このような傷があるのは、いかにも不自然に思えた。
「ん? いや、俺はそういう物騒なことは、からきし駄目な男でな。書を読み、薬草を育て、薬を調合するのが、心底性に合っているのさ」
おどけたような口調で、数馬さんはとぼけた。
――これは、嘘だ。いくつもの傷は、真剣での立ち合いを繰り返している証である。そして私が見るかぎり、四肢の機能に支障があるような深手は一度も負っていない。皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を断つ、といった戦い方が思い浮かぶ。小袖から除く腕の筋肉は鍛え上げられているし、ひょうきんにおどけているようでいて、佇まいにも隙がない。明らかに、剣を遣い、今も鍛え続けている人間の身体だ。
なぜ、数馬さんはそれを隠すんだろうか。いろいろと気になることはあるけれども……人には人の事情があるし、今、私が問い詰める必要はまったくない。今は、数馬さんの様子に注意しておくくらいでいいだろう。
「そうだ、ゆきさん、最近江戸を騒がせている医者殺しの話は聞いたことがあるかい?」
話題をそらすかのように、数馬さんは医者殺しの話を持ち出した。
「ええ、今日、瓦版売りの口上を聞いただけですが。なんでも、名医と評判の先生が、二人も斬られたとか」
「うん、中井亮雲先生と、田崎玄信先生の二人だ。二人とも、人柄も腕も申し分がないし、うちの三好先生とも親交があった。いい医者というだけで、斬られる世の中さ。物騒なもんだ」
数馬さんは、大げさに肩をすくめた。
「三好先生も狙われる可能性はありますか?」
下手人の狙いはわからないけれども、標的の共通項が、人柄も腕も申し分がない医者というのであるならば、三好先生も十分に対象だろう。
「さあな。でも、見習いとはいえ、一緒にいる俺やゆきさんも、巻き添えをくう可能性がないわけじゃない。なにせ、瓦版によれば、目撃者も一緒に斬られたっていうぜ。俺たちも、十分注意しておくほうがいいな」
数馬さんがそう言い終えたとき、養生所の門を叩く音がした。日が暮れると、養生所の門は閉じられる。受付の役人も帰宅するから、夜間の急患は、中間が取り次ぐことになっている、と先ほど数馬さんが教えてくれた。
中間が診察室に案内してきたのは、新田さんの妻女と、呼びに行った道場仲間の侍だった。
「御新造さん、新田殿はいつ目を覚ますかもわからん。手はつくしたが……」
と、数馬さんがあらましを説明した。新田さんの、まだ若くて可憐な容姿の御新造さんは、悲しそうに目を伏せたが、取り乱すことなく、何度も何度も礼を述べて、死んだように眠り続ける夫を引き取って行った。
その後は、数馬さんから養生所の日常の仕事について説明を受け、一通り終わる頃には、すっかり夜も更けていた。
「さあ、明日に備えて、そろそろ寝るか。明日は、朝から薬草園を案内するよ。薬草の栽培も、養生所の重要な仕事だからな」
数馬さんの案内で、敷地内の長屋に案内される。時代劇でいうところの裏長屋、つまり居住スペースが四畳半に台所と土間、という作りを予想していたけれども、それよりは少し広い。六畳間に一畳半の土間、という、独り暮らしには十分すぎる広さだ。長屋には部屋が五つあって、養生所から見て手前から二つ目が数馬さんの部屋で、奥から二つ目が私の部屋だ。部屋には、古びた布団が置いてあった。ちょっと埃っぽいや。しかも、どことなくカビっぽい。げほんげほん。明日、しっかり日に干さなきゃなあ。
この状態の布団を使うのはさすがに抵抗があったから、旅装束のまま部屋の片隅で膝を抱えて眠る。里の自分の家では、ちゃんと布団で眠っていたけれども、どんな状態でも眠れる訓練は受けているよ。
今日はいろいろなことがあった。数馬さんて、なんだかいろいろ怪しいなあ。それに医者殺しか……誰が何のために、事件を起こしているんだろう……そう考え始めて、呼吸を二十回ほどしたところで、私は眠りに落ちた。
私が目を覚ましたのは、真夜中だった。
数馬さんの部屋の戸がそっと閉まる気配を感じた。そして、何者かが足音を忍ばせて、私の部屋の前を通り過ぎて行った。
――数馬さん? こんな夜更けに、いったいどこへ……
私はそっと部屋を出て、数馬さんの後を追った。
数馬さんらしき人影は、ほんのりと赤い闇に紛れて、薬草園がある養生所の裏手に向かう。今日は下弦の月だ。わずかな月明かりが、ときおり月の前を通り過ぎる雲にさえぎられる。見失わぬよう、やや歩調をはやめて数馬さんの後を追う。
忍びの修練を積んだ私は、夜目が効く。遠目だが、背丈と肩幅のある体格は、数馬さんで間違いないだろう。藍色の装束は、たぶん、昼間来ていた小袖と小袴だが、脛には藍色の脚絆、腕には同色の手甲を巻き、頭にも頭巾をかぶっている。全身藍色の装束に包まれており、忍び装束そのものだ。ただ、背負っているのは忍び刀ではなく、定寸の大刀だ。
数馬さんは薬草園を抜けて、養生所の敷地と通りとを隔てる、六尺ほどの板塀に耳を当てた。通りの向こうに人通りがないことを確認したのだろう。塀から二間ほど距離をとり、助走をつけて跳躍し体をひねりながら背を丸めて塀を飛び越える。塀の向こう側に着地するかすかな音が聞こえ、そのまま間を置かずに右手に走り去る音が聞こえた。
驚いた。剣術を遣うだろうという確信はあったけれど、跳躍力や身のこなしが忍び並みじゃないか。名倉の忍び連中の跳躍力は、ざっとあんな感じだ。おっと、感心している場合じゃないや。追いかけなきゃ、な。
耳を澄ませて、あたりに人の気配がないことを確認して、一気に塀を飛び越える。忍び装束じゃなくて旅装のままだから、衣擦れの音を立てないよう、十分に注意しよう。養生所の裏通りに着地し、地面に耳をつける。予想どおり、この時間帯にこの辺を歩いているものはいない。かすかに、数馬さんが走り去る足音だけが聞こえる。
足音を忍ばせているけれども、生粋の忍びのそれではない。これならば追跡は容易だ。
数馬さんに近づきすぎないように注意しながら、その後を追う。養生所の裏通りをしばらく進んでから、数馬さんは角を左手に曲がった。むむむ。土地勘がないから、自分がどこを歩いているのかさっぱりわからない。まあ、帰り道を見失うことはさすがにないけれどもね。明日、地図を買わなきゃ。
数馬さんが、また右に角をまがり、私が後を追おうと角を覗き込んだ刹那、進行方向から刀が肉を裂く音と――男の悲鳴が聞こえた。
「せ、先生! ひ、だ、誰か……っ」
助けを呼ぶ声は、悲鳴にかき消された。血振りの音に続き、その場を走り去る音がかすかに聞こえ、再びあたりは静寂に包まれた。
素早くあたりを見回し、悲鳴が聞こえたほうに急ぐ。数馬さんの姿は、どこにも見えない。
悲鳴の主たちは、躯となって地面に伏していた。一人は剃髪に羽織姿の老人で、風体からすると、きっと医者だ。すぐ脇には、薬箱を持った供のものが倒れていた。少し離れたところに落ちている提灯が、メラメラと炎を上げている。二人とも、正面から袈裟懸けに、一太刀で斬られており、血がとめどなく流れ出している。この太刀筋は、人を斬りなれている者の仕業だ。今、世間を騒がせている、医者殺しに違いない。
この医者は、きっと、急病人の往診の途中だったのだろう。いくら良心的な医者でも、こんな真夜中に貧しい者の家へ往診するとは思えないから、この医者を呼び出したのは、それなりの家柄の武士か、それとも大店の主か……
これを、まさか数馬さんが?
いや、斬った現場を見たわけではないから、そう結論づけるのはまだ早い。現場を走り去る足音は、数馬さんのそれではなかったような気がするけど……うーん、自信ないや。
「どうした!」
「悲鳴が聞こえたのはこっちだぜ!」
どうやら、悲鳴を聞きつけた江戸の町の人たちが、こちらへ向かってくるようだ。面倒に巻き込まれるまえに、この場を離れるとするか。
人目につかないよう注意を払いながら、養生所の裏手に戻り、塀を越える。
数馬さんはまだ、長屋に戻っていないようだ。私は自分の部屋に戻り、ふたたび膝を抱えて眠りについた。
戻ってきた数馬さんの気配で目が覚めたのは、それから半刻ほどたった頃だろう。数馬さんは、私の部屋の前で立ち止まり――多分、聞き耳を立てて、私が寝ていることを確認し――それから、自分の部屋に戻っていった。
本当に……今日はいろいろなことがあったなあ。
数馬さんは、いったい何者なんだろう。忍びの術の心得はあるけれども、私のように子供のときから仕込まれた訳ではなさそうだ。何しろ、走りかたからして基本がなっていない。剣術遣いが、何かの理由で、忍びの術の手ほどきを受けた、ってところだろう。
そうだとすると、塀を飛び越えたときの跳躍力や身のこなしは驚異的だ。忍びならば、幼少時から厳しい訓練を受けているから、あれくらいできても、おかしくはない。だが、ある程度成長してから訓練を受けたとするならば、元々の身体能力がよっぽど高いんだろうな。
忍びの訓練を受けているということは、公儀や諸藩の隠密か。だが、それにしても、ここの――養生所の医者というのは、情報収取には向いていない職業のような気がする。慢性的に人手不足だもん。夜中に出歩いている最中に、急病人が来たり、入院患者が急変したらどうするんだ。人のことは言えないけれど。
まあ、医者と名乗れば、不審死の死体をあらためることができるそうだから、事件に首をつっこむ足掛かりにはなるか。だとすると、公儀の手のものか? 村上主膳の息がかかっているならば、十分気をつけなきゃな……
そんなことを考えながら、私はいつの間にか眠りに落ちていた。
翌朝は、まだ薄暗いうちから目覚めた。空気が湿っていない。今日もいい天気になりそうだ。あとで布団を干しておこう。でも、まずは稽古だ。
愛刀を持ち、長屋の外に出て、胸いっぱいに空気を吸い込む。昨日、江戸の町中を歩いているときは、食べ物のにおいとか、厠のにおいとか、そういう雑多なにおいがしたけれども、ここは意外に空気が澄んでいる。養生所自体は、大通りからさほど離れていないが、周りに一般庶民の長屋や商家はないうえに、敷地内が薬草園の中にあるからだろう。
長屋と薬草園の間に、三間四方くらいの空き地があったので、そこでひとり、朝稽古をする。いつもどおり、父の姿を思い浮かべ、その姿に向けて剣を振るっているうちに、明け六ツの鐘が鳴った。
稽古を終え、長屋と養生所の建物の間にある井戸で水を汲み、顔を洗っていると、数馬さんも部屋から出てきた。
「ゆきさん、おはよう」
「あ、おはようございます」
顔をあげて、数馬さんの顔を見る。何事もなかったかのような、爽やかな笑顔だ。うーむ。まだ数馬さんが医者殺しに関係があるかどうかわからないけれども、ここまで素知らぬ顔をされると、疑いたくもなるなあ。
「朝から剣の稽古か。さすがに、五ノ井育ちの女子は違うなあ」
なんだか、数馬さんの脳内では、五ノ井の女はみな武芸をたしなんでいることになっているようだ。実際には、そんなことはない。春日井藩では、武芸に秀でた子女は性別にかかわらず重用されるから、女武芸者が他所よりも多いだけだ。
しかも、数馬さんには確か、私は五ノ井から離れた山里育ちって言った気がするんだけどなあ。うっかりさんなのか、わざととぼけているのか。むむむ。読めん。
なんて答えようか、考えている隙に、畳みかけるように数馬さんが話しかけてきた。
「ゆきさん、朝餉はどうする? もし何も準備がなければ、飯が多めに炊きあがるところだから、一緒に食べないか」
うっ。昨日は、落ち着いたと思ったらもう世も更けていたから、米も薪も炭も買っていないんだ。数馬さんの正体も気になるし、こちらの正体に深入りされてない程度に、親交を深めておくのは悪くない考えだ。せっかくだから、お言葉に甘えるとするか。
「差し支えなければ。かたじけのうございます。あっ」
うっかり敬語になりすぎちゃったよ。でも、数馬さんは気にする様子もなく、小袖の腕をまくり、すっかり張り切った様子だ。
「よし、そうと決まれば、さっそく飯だ。さ、入ってくれ」
朝餉は、玄米ご飯と青菜の漬物だった。はっきり言えば、米には芯が残っていた。男の一人飯は両極端だからな。凝りまくる人と、我流で適当な人と、はっきり分かれる。数馬さんは、どうやら後者らしい。まあ、江戸の町は外食文化が発達しているから、独り暮らしの男が自炊しようってだけで、褒められていいレベルなのかもしれない。
うーん。いや、だが、しかし。玄米だろうが白米だろうが、米の質が多少悪くても、炊き方さえよければびっくりするくらい美味しくなるのだぞ。これは捨て置けん。田舎育ちだから、せっかくの米は大事に、美味しく食べたいのだ。
「あの……明日から、私が朝餉の支度をしましょうか? 食材も二人分で買ったほうが無駄がないですし」
数馬さんの表情が、ぱっと輝く。
「本当か? まあ、さすがに悪いから、一日交替でやるとしようか」
美味しいご飯を食べるためには、いっそ私が毎日……とも思ったが、結局は一日交替案で落ち着いた。
こうやって喋っていると、数馬さんの人となりや、夜中に見た数馬さんの身のこなしや忍びの技が、どうも頭の中で繋がらないよ。本当に、得体のしれない人だ。
やれやれ、なんだか妙なことになっちゃったなあ。




