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不闇月と黒薔薇のアポカリプス  作者: 春野寒月
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~怪奇の集まる町~

 初めての投降となりますので、お手柔らかにお願いします。ちなみに固定キーボードのスクールラブは序盤には書かれていませんが、途中から始まりますのでご了承ください。

プロローグ 『血に染まった赤ずきん(ブラッディ・ロートケープ)』

 人とは儚く脆い生き物だ。

 憎悪や怨嗟からは争いが生まれ互いを殺し合う。もし戦場の中で友人の命が奪われそうな局面と遭遇したら、貴方ならどうする?

 俺なら自己犠牲を払ってでも助け出すね。

 自分の命なんて価値のないものと、ずっと思ってきたことだから。

 そんな考えを彼女の言葉によって改めて考えさせられることになるなんて、思いもしなかったけど……。



 ここは怪奇が多く集まると噂されている、(ろく)(よう)(ちょう)。六つの通りに分けられているこの町で怪奇現象は日常茶飯事だ。

 怪奇とは妖怪や悪霊といった部類に当てはまるものだが、もっとも恐れるべき存在は不闇(ふみ)(つき)という人間から生み出される存在。

 貪欲や負の感情……言い換えるのなら人間による闇から創り出される化け物、それが不闇月。

 これは、そんな怪奇現象を解決していく者たちの物語……。

遥斗(はると)、そっちに行ったっすよ!」

「……言われなくても分かってる」

 深夜零時過ぎ三伏(さんぷく)(どお)りの商店街裏路地にて、胸に桜の代紋を掲げている深紅色のフードパーカーを身に纏った二人組が周りからは見えないなにかを追っている最中だった。これこそが怪奇、いま追っているのは日常においていたずらを施す程度の悪霊だが。

 上手く路地裏の行き止まりまで追い詰めたところに同じ桜の代紋を掲げた深紅色のフードパーカーを身に纏い、腰を据えて刀を構えた男が素早く抜きさり悪霊を斬り捨てた。

「任務完了。署に戻って報告しに行くぞ」

 光に包まれて消えていく霊を見送り、刀を鞘に納める。そして深紅のフードを脱ぐとそこには濡羽色のウルフカットに加えての美形、長身で細身ではあるもののがっちりとした体をした男が悪霊を追い詰めるために走っていた二人組と合流する。

そんな彼に続いてフードを脱ぎさる二人の素顔も晒される。。

「えー! もう遅いんだから明日にしようよー」

「そうっすよ、遥斗! 俺も限界で……」

 ハーフアップにねじれを組み合わせた鳶色の髪、すらりと華奢な体つきではあるが見た目よりか体力はある。そして若さゆえの張りのある肌が彼女の美人顔を引き立てている。

 大きな口を開けて欠伸をしている長身に銀髪で、耳にピアスを刺している穏やかな目の男が口を尖らし駄々をこねている。そんな二人を見据えてか、遥斗と呼ばれていた男は呆れて言葉も出ないらしい。

「じゃあ、先に帰ってもいいぞ」

「本当に⁉ やった、これでねむ……」

 美人顔の彼女が喜んでいられたのも束の間、即座に言葉を遮り条件を突き出した。

「そのまま帰るのなら、明日の朝飯はピーマンの野菜炒めと青汁にするけどな」

「「それだけは、勘弁!」」

 帰る許可が下りて、天にも昇る気分から一瞬で地獄へと突き落とされた。青汁が苦手なのは銀髪の男も含めてだが、ピーマンが苦手な美人顔は正直子供だと思った。

 朝から苦手なものを食べるのは、気が引けるというもので必死に抗議するも聞く耳を持たず一人歩いて行ってしまった。このままでは地獄の苦しみを味わうことになってしまう。

 そうならないためにも、今取るべき行動は……

「わ、分かった! 一緒に行くから、ピーマンは……ピーマンだけはやめてー!」

「嫌なら別にいいんだぞ?」

「そんな、嫌なわけないっすよ!」

 作りものの笑顔でなんとか取り繕い、野菜地獄を味わわずに済んだ二人はそっと胸を撫でおろす。幸いにもここから紅桜警察署まで歩いて数分だ。

 この場にいる三人の年はまだ高校二年生程度、どうして若者が深夜零時過ぎに出歩いているのか、警察署に報告しに行こうとしているのかはかれこれ十年前に遡る。



̶̶あれは、どこか分からない山奥の孤児院で暮らしていた頃の話だ。親に捨てられ孤児となってしまった彼らが送り込まれた孤児院の名は「ゆりかご」、初対面の子供が多くて初めは戸惑っていたもののそれは時が癒してくれた。

周りに馴染んできた頃合いを見計らってか、とうとう「ゆりかご」の化けの皮が剝がれる。当初はにこやかな雰囲気だった老夫婦や子供たちだったが、一風変わって地獄へと早変わりした。

食料調達や家事全般は子供たちで行う決まりらしい。けれど食料調達するには山のふもとの町まで下山しなければならない。ここから山のふもとにある町まで歩いて五時間以上はかかる上に、子供の足ではそれ以上の時間がかかってしまう。

よって食料の調達では山に生息しているウサギや鹿、見つからない、仕留め損ねた場合は熊と対峙することもやむ得なくなる。

「ゆりかご」のスケジュールは起床し朝食を食べたあと成人男性との戦闘訓練、昼では食料調達後に昼食を摂り夜まで自由時間、そして再び夜に食料調達へと駆り出される。これを毎日繰り返される。

それから三年が経ったある暑い夏のことだ、自由時間の子供たちが山の中で遊んでいると滅多に来ない客人の姿を目にした。ここへ来るということは、何かしらの理由があるということだ。

「ねえ、君たちに聞きたいことがあるんだ。隠れてないで出てきてくれないかな?」

 この時声をかけられた子供たちは皆、こう思った。

̶̶おかしい、と。

「ゆりかご」に住んでいる子供たちは夜に行われる狩りのおかげなのか、平均以上に眼がいい。施設からかなり遠い場所から自分たちがいる場所を特定することなんて、まず不可能だ。

まぐれだと決めつけた子供たちは叩き込まれた戦闘技術を駆使して、客人であろう男を試すことにした。

「やっと、出てきてくれたか。いやはや、最近の子供は活発だね」

「……おじさん、何者?」

 殺さない程度に加減をするつもりの子供たちが背後から襲いかかろうとした瞬間、体が思うように動かなかった。

それもそのはず、襲いかかった全員が地面に押さえつけられ手足を紐状の何かで縛られ、身動きが取れないのだから当然だ。

身動きが取れないまま、恐る恐る男に何者かと問いかける。

「僕は警察だ。君たちを保護しに来た」

 相手が格上だと知り、大人しくしていると手足の拘束を解きながら素性を明かした。

 袖をまくっている男は警察と言うが、これまでに沢山の警察がここへ訪れてきた。その度にこの地獄から解放されると、期待を胸に膨らませていた。でも、その期待を裏切られてきたことを忘れはしない。

 どうせこの人もすぐに帰ると知っている子供たちだが、諦めた暗い顔ではなく勝者の笑みを浮かべている。

「ねえ、おじさん。今行っても無駄足だよ」

「そんなの、行ってみないと分からないだろ?」

 結末は分かっている。「ゆりかご」の大人たちは必ずほらを吹いて警察を追い返してきたのだから、今回も同じだ。

̶̶でも、これはチャンスと言ってもいい。

次はいつ警察が来るか見当もつかないし、二度と来ないかもしれない。

「じゃあさ、今夜の夜九時にまた来てよ。本当に保護してくれるのなら……ね」

「……君の名前は? 僕は葛城(かつらぎ)だ」

「俺は、遥斗。黒田(くろだ)遥斗(はると)。よろしく、葛城さん」

 この地獄から脱走を企てている首謀者の名前でもある。一歩間違えれば大人たちによって独房に入れられ、半殺しにされるだろうがそんなことを言っている場合ではない。

 一ヶ月前の夜のことだ。熊を狩るのに少々手こずった遥斗が就寝時間に遅れて帰ってきたとき、調理場で老夫婦が話している声を耳にした。その内容を壁に隠れ細心の注意を払って盗み聞いていると、とんでもない内容だった。

「なあ、そろそろガキどもに打ち明けてもいいんじゃねえか? 人ならざる力を持ってるってよ」

「ばかなのかい、死んでも言えるわけないだろう。そんなこと聞いたら能力で私たちの命を奪いに来る」

 どうやら酒に溺れているようで、子供に聞かれるという心配をしていない。幸いにも話している場所は調理場、ついさっき調達してきた熊を何食わぬ顔で持って入れば問題はないだろう。もう少し老夫婦の言う「能力」について聞き出せないだろうかと、聞き耳を立たせる。

「そういえばよ、ガキどもの能力って分かってんのか?」

「いや、私にも見当がつかない。けど、知る方法はある」

「本当か⁉」

「ただ、単純に黙禱(もくとう)してもらうだけさ。何かしらの映像(イメージ)が浮かべばそれが能力、浮かばなかったらまだ覚醒してないってわけさね」

 これだけでも、十分な情報だ。そう判断した遥斗は何食わぬ顔で調理場に熊を運び込み、肉をさばき始める。」老夫婦は驚いていた様子だったが「ご苦労」とだけ労いの言葉を送り、酒やつまみを片付け始める。

 有用な情報を会得したことにより優越感に浸っていた遥斗は、自室に戻り早速黙禱を始める。すると、そこにはもう一人の自分が立っていた。狩り最中だろうか、人間ではありえないスピードで移動している。けれど、それだけではないようにも思えたが気のせいだと自分に言いつけた。

 翌日、老夫婦には秘密ということで子供たち全員に包み隠さず話し、就寝時間に黙禱をしてもらい次の日に内容を教えてもらっていた。

 そして脱走する計画を企て、決行日は来るかも分からない警察が訪れた日に決定し今に至る。今夜、決行する計画の進行具合ですべてが決まる。

「よし、始めよう」

 大人が寝静まった頃合いで作戦が始まる。まずは寝室で眠っている老夫婦を鎖の能力者一人とコピーの能力を持つ三人で身動きが取れないように繋ぎ留める。戦闘訓練での成人男性二人は幸いにもこの施設にはいない。朝だけこの施設に派遣されているようだ。

次に転移の能力者二人が施設の柱全てを山の中へ転移させ建物が崩れるように仕込む。

そして老夫婦の動きを封じ込めている四人を再び転移の二人に動いてもらい回収、遥斗は動けるようになった老夫婦を外に逃がさないよう翻弄し崩れるギリギリまで寝室から出られないように足止めした。

「これは……驚いたな。ここまでやってのけるとは、思ってもいなかった」

「あっ、葛城さん!」

 瓦礫の山と化した「ゆりかご」の上には遥斗と、英雄の誕生を祝うかのように満月が彼を照らす。約束通り来た昼間の葛城とその部下に保護してもらった「ゆりかご」の子供たちは地獄から脱することに成功した。

 しかし帰る場所もない子供たちは、これからどう生きていこうか悩んでいるところに葛城が手を差し伸べてくれた。

「俺のところに来るか? 歓迎するぞ」

 帰る場所を与えてくれた葛城は恩人だ。そんな恩人が仕事を手伝ってくれないかと、協力を申し出てきたものだから即答で頭を縦に振った。人ならざる者となった子供たちには、怖いものなどなかったのだろう。

 今では何不自由のない生活を送れるようになって、あの頃に比べたら笑顔になる者も多くなっている。


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