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喪女、家を買わされた

「で、どうするわけ?」

 元住人が置いていったという、リビングに鎮座するダイニングテーブルを囲んでよし子が私に聞いた。

 当然私としてはこんなへんちくりんな家はごめんだ。

 オカマの幽霊三体に、交通の便がめっちゃ悪い立地。

 広いのはいいが誰がこんな広すぎる家を掃除するというのだ。元々掃除嫌いな私がやれと言われたら、これは逆ナン以上の拷問でしかない。

「う~ん、考えたけどさ……」

 断ろうと口を開くと、連れてきたヒモの方々プラスオカマ幽霊が割って入ってきた。

「姉ちゃん、この家いいな! 幾分かボロだけど直し甲斐があって燃えるぜ! ここなら俺も住んでいいぜ」

「アルテミスさん、ここ住みましょうよー。広くて何もなくて落ち着きますー」

「あ、あの……。新参者が言っていいのか分かりませんが、ここの幽霊さん、僕の悩みを解決してくれそうなんです。出来れば暫くここに住みたいなぁ、って……」

「「「もーぅ、龍玄君ったら可愛いー!! お姉サン達が手取り足取り腰取り相談乗っちゃうー」」」

 ……。何このノリノリ加減は。

 何かの呪い!? オカマヒューマンの呪い!? 私、聖杯に殺される前に、この家のオカマに憑りつかれて精神的に殺される!?

「あらー、みなさんお気に入りのご様子で。多数決でいったら七対一でご購入って事になるわねー」

 ホクホク笑顔でよし子は再び書類を取り出す。

「ちょ、多数決って。七っておかしくない? ヒモ三人に私一人よ?」

「あらー、幽霊三体と私入れて七よ」

「大家も数に入れんな!」

 ってか何故幽霊まで入れる。幽霊反対したらここには住まわせないってルールがあるんか!?


 幽霊含め総勢八名でギャーギャーと話し合いした結果、ここに住む事に決定した。

 よし子の厄介物件を押し付けられたと言っても過言でない。

「はーい、ではではこちらの書類にサインと実印お願いしまーす」

 うきうきとペンと朱肉を鞄から取り出し、目で『さっさと書けやゴラァ』と訴えてくる。

「あー、はいはい。書きます書きます」

 一同がじっと見守る中、書きづらいなぁと思いつつ名前を書いていく。と……

「えー! アルテミスさんって本名がアルテミスじゃないんだ」

 バカが一人雄叫びを上げた。それに続けと言わんばかりに、

「姉ちゃん、いい名前してんな。……ぷぷっ!」

「え? あー……、ゴッド姉ちゃんですね! ふふっ」

 予想どおり笑われた。

 この名前のせいで色々あったから、あまり本名教えてなかったのもあったのに。

「アルテミスさんの名前って、和田……、何て読むんですか?」

 言いたかない。私の口からは言いたかない。誰か代わりに言ってくれ……。

「姉ちゃんの名前は『あきこ』だ。お前『亜樹子』って漢字も読めないのかよ」

「すいません。本とか読まないし、勉強も嫌いだったんで、出席してればいいような高校しか出てないですー」

 何だその高校。本当に高校として機能していたのか?

 シンヤに突っ込みを入れてやりたいが、今はターンが自分ではなくヒモ達にあって無理な状態だった。

「へー、和田亜樹子、かー。ふーん……、って!? ぶふっ!」

「お前気が付くのおせーよ。この威勢の良さはまさに……。ぷーっ!」

「ねぇ! ねぇ! モノマネ出来ます!? この名前だからネタとして持ってますよね!?」

「ちょっとシンヤ君、それじゃ亜樹子さんに失礼じゃないですか。持ってたとしてもシラフじゃやりにくいでしょう」

「えー、だってこんなおいしいネタ持ってるのに、やらない手はないでしょ! いいでしょー、やってー」

 こっちの思いなんてお構いなしに、ヒモ達はめっちゃ盛り上がっている。

 だから名前言いたくなかったのに。こうなるって分かってから言いたくなかったのに。

 この名前のせいで、学生時代どんだけからかわれてきたと思ってるんだ。

「やーりーまーせーん!!」

「けちぃー」

 けちでも何でもいい。もうこの話題から離れてくれ。


 名前から離れるために、話題を逸らせた。

「それよりさっさと契約済ませちゃいましょうよ。よし子、この家の値段いくらなのよ。破格って言ってて買えない値段吹っ掛けてこないでしょうね」

「大丈夫。あーちゃんの懐具合は常に把握してるから」

 この女どこまで私の事調べてるんだ……。

「で、値段は?」

「こんだけ。やっすいでしょ?」

 そう言って人差し指を立てた。

「え、これって……」

 まさか一千万!? いや、ここまで大きいんだもん一億とか!?

 懐把握してるって言ってたけど、ローンで返していけるとしても一千万もかなりキツイんですけど。

 なにせこれからヒモを百人養わなくてはいけないのだから。

「よ、よし子さん? 一千万でもかなりキツイんですが……」

「えー、何言ってるの。そんなに取るわけないでしょ。もっと安いわよ」

 一千万じゃないって事は、百万かしら。それだったら払える。

 しかしよし子から出た言葉は予想をはるか上をぶっ飛んでいた。

「千円よ。せ・ん・え・ん」

「はぁ!? 千円!?」

 既視感に襲われたのは言うまでもない。

 そう、こんな事になった原因の聖杯。あの値段も千円だったのだ。

 千円に呪われてる……。

 いや、聖杯の呪いが千円にさせているのか?

「だって、この屋敷、さっさと手放したかったんだもの。タダであげちゃうと贈与税掛かっちゃうみたいだからさー」

 よし子さん、そんな理由で千円にしたのかよ。利益より面倒事を片付けるのを優先するのね。

 まぁ、私でもこんな物件ずっと持ってるの嫌だもの。オカマ幽霊ごと熨斗付けてあげたい気分分かるわ。

「さらに!」

 よし子はさらに驚き発言をしてのけた。

「今年と来年の固定資産税も払ってあげちゃう。通知きたら教えてねー」

 どんだけ手放したかったのか、熨斗どころかとんでもないオマケをつけて寄越した。

「よ、よし子さん?」

「てことで、返品したらどうなるか分かってるわよね?」

 にっこり笑顔が笑顔に見えない。

 闇しか感じない。こんな可愛いのに、闇で黒でダークマターだ。

 彼女が喪女なのって、こじれ過ぎたブラコンってだけでない気がものすっごくする。


 半ば脅しで屋敷を購入させられ、ダメ押しでその場で引っ越し屋まで契約させられた。

 私以外の面々はホクホク顔で喜んでいるが、この先がもの凄く不安でしかない。

 絶対まだ何かある。

 こんなんで聖杯の呪いが終わる訳ない。百人集まる前にまだまだ何か起きる予感しかない。

「なーに仏頂面してんのよ。ブスがもっとブスに見えるわよぉ」

 フーっと私の耳に息を吹きかけてくる。

 ぞわわわーっとして、振り返るといつの間に現れたのかゼフォンがいた。

「ちょっと! 何すんのよ気持ち悪い。それに今までどこ行ってたのよ」

「やだぁ。それくらいの事されて気持ち悪いとか、女じゃないわねぇ。あ、喪女だったから経験ないもんね。ごめぇーん」

「ごめぇーん、じゃないわよ。あんたが手伝ってくれないからこんなとこ契約しちゃったじゃない!」

「こんなとこって。いいお屋敷じゃない、大きくて。ちょっと汚いけどさ」

 わざとらしくテーブルを人差し指でなぞって、指先を見る。まるで姑か小姑だ。

「あれ見てもいいところって言える?」

 龍玄君を囲んでキャピキャピやってるオカマ幽霊達を指さす。

「何あれ。幽霊でオカマって。気持ち悪いんですけどぉ。こんな幽霊とは一緒に住みたくないわぁ」

 気持ち悪いという言葉に反応したのか、一斉にオカマ幽霊達がゼフォンに視線を寄越す。

「「「誰が気持ち悪いですって!」」」

 さすが長年一緒に幽霊やってるだけに息がぴったり。

 表情を変えて一目散にゼフォンの元へと飛んできた。

「あんた達に決まってるでしょ。そんな厚塗りオシロイなんて今時流行らないしぃ。いいジジィなんだからBBクリーム位使って染みシワ隠しなさいよぉ。みっともない」

 オカマしてるのが気持ち悪いと言うのかと思いきや、肌のお手入れ・化粧の仕方が気に入らないらしい。

 そういえばゼフォンもオカマといえばオカマになるのか?

 オネェ言葉だし、よく見ればメイクもしてるし。

 そんな私の気持ちを読み取ったのか、オカマ幽霊の一人(?)がゼフォンに言ってのけた。

「あんただって気持ち悪いオカマのくせに。中途半端に男の格好してさ。オカマならオカマらしくしなさいよ!」

「イケメン捕まえといてオカマですってぇー! 僕は女の子にモテモテなんだから!」

「女にモテても嬉しくないわよ! 大体あんたそんな喋り方でオカマじゃないって方がおかしいわ!」

 キーキーとオカマとゼフォンはオカマとオネェ系の違いについて騒ぎだす。

 私にとってはどうでもいい。どっちもどっちで理解出来ない人種としか言いようがない。

「あなた達、それくらいで止めときなさい。悦ちゃんが言うようにこの人はオカマだけどオカマじゃない。でも、そんな事はどうでもいいのよ……」

 中でも落ち着いた方のオカマが割って入ってきた。

 うるさいのを止めてくれるのはありがたい。と、思ったら違った。

「この人も私達同様、美を求める追及者ってことなのよ!」

 この一言でオカマもゼフォンもピタリと口を止めたが、次の瞬間三人で手を取り合って泣き始めた。

「そうなのよぉ! 分かって貰えるのねぇ! 僕は自分を一番美しく魅せていたいのよぉ!」

「私だってそうよー。女だもん、いつまでも綺麗でいたいのよ!」

 ……理解し合えちゃった。てことは、もうあれだ。私に味方は居ないってことだ。


 それぞれのグループで和気藹々としている中、私はぽつんと離れてそれを眺めていた。

 こんなとこで私何やってるんだろうという気持ちが拭えない。

 ボッチ好きの喪女が、こんな集団の中で。

「自業自得なんだから、諦めて集団に馴染みなさい。聖杯の呪いさえ解いちゃえばまたボッチに戻れると思ったら大間違いよぉ」

 いつの間にオカマグループから離れていたのか、私の耳元で囁いた。

「うぉあ!」

「大体さぁ、やり逃げでなく処女捨てるって彼氏作るって事よぉ。そっから彼友とかの付き合いが広がって……。ほーらボッチも喪女も卒業!」

 な、何て落とし穴が! たかが処女を捨てるだけで!

「やり捨てでいいなら僕が不本意ながら相手してあげてもいいわよぉ。聖杯に願わなくても叶っちゃうから、こっちとしても仕事が早く片付いて楽でいいわぁ」

「ちょ! 不本意って何よ!処女って男の人って嬉しいものじゃないの!?」

「それは若い娘よぉ。ババァの処女なんて貰っても後々メンドクサイだけだもん。責任取れ打の何だって」

 私はそこまで求めないが。

 ボッチ卒業も嫌だが、見知らぬ相手に処女捧げて音信不通になってそれでオシマイも嫌だ。

「処女捨てられたらもう思い残す事ないでしょ? だったら僕として命捧げて終わりでオッケーじゃない」

 くねくねと体をくねらせて、ゼフォンは自分の考えに『あったまいいー』と喜び踊る。

 冗談じゃない。まだまだやりたい事はあるんだ。……すぐには思い浮かばないけど。

「だけどさ」

 くねっていたゼフォンが動きを止め、真剣な眼差しでこっちを見て言った。

「まだ命捧げるには早いと思うわ」

「ゼフォン……」

 元天使だけに命を粗末にするなと言いたいのか。見かけによらずいいヤツなのかも。

「だってぇ、あのオカマ達、僕の知らない美容法とか髪のお手入れとかいっぱい知ってるのよぉ。全部モノする前にあんたに死なれたら困るのよぉ。天界に帰ったらここに来れないもの」

 前言撤回。

 こいつはやっぱり堕天使、自分の事しか考えてなかった。


「じゃあ今日はかいさーん。明日の朝にあーちゃんのアパートに引っ越し屋さん行くので、みんな手伝ってあげてください」

 よし子が落ち込む私をよそに引っ越しの手順なんなりを打ち合わせていたらしく、ヒモの面々に打ち合わせ終了を告げた。

「はーい、僕帰る家がないでーす。龍玄君も一緒でーす。どうすればいいですか」

「じゃあ、あーちゃんの……」

「断る!」

 よし子が私の家に泊めろと言うのを、最後まで言わせず断った。

 当たり前だ。狭いのにこれ以上人が入れると思ってるのか!? ゼフォン一人でもうぎゅうぎゅうだ。

「何のためのこの屋敷なんだ!?」

「えー、アッコさん冷たいー。あったかいお布団に寝たいよー」

「アッコ言うな! ここにもベッドがあっただろう! 少しの埃くらい我慢しろ!」

 落ち込む暇を与えない、この天然アホは拾ってきたのが間違いだった。

 ああ……、前途多難。

 まだまだこんなヒモが増えていくというのか。

 こいつらと聖杯の願いを叶えるか、呪われて命を捧げるか。

 まさに究極の選択になってきた。

読んでいただきましてありがとうございます。

がっちり体調不良で更新がされてませんでした。

「おせぇ」と思っていた方々、お待たせして申し訳ございませんでした。

やっとここまで来ました。

次話あたりで新たなヒモを召喚させたい気分でいっぱいです。

さてさて喪女さんの願いはいつ叶うのでしょうか。

願う前に喪女さんの処女は堕天使に奪われてしまうのでしょうか。


もっと変なキャラ出したいなぁ。

そんな思いの元に、またぽちぽち執筆させていただきます。

また次話でお会いしましょう。


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