表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/19

喪女、家を内覧する

 よし子の『善は急げ』に従い、早々に件のいわくつき物件を見る事にした。

 来週末からの公休を合わせて五日間、有給休暇もぎ取ってやったわ。

 私がどれだけお前らの仕事代わってやってた思い知るがいい。部署変わるからもう知らんわ。


 件の家は公共交通機関がない辺鄙な場所に建っているので、車じゃないと行けないらしい。

 私、免許はあるが車はない。

 そもそも車が必要な場所にアパートも建ってないし、職場も電車で行けてしまう所にある。

 うーん、レンタカーするにも些か運転に自信がない。

「こんな時は!!」

 とっ捕まえたヒモ二人のうち、どっちかに運転させてしまおう。

 多分出来るだろう。出来ると信じている!


『引っ越し候補の家見に行きます。車持ってれば出して貰えませんか?なければレンタカー借りるので、代わりに運転して欲しいです』


 両方のラインの流してみた。

 あとは返事が来るのを待つばかりであるが、二人とも夜の仕事。

 今は平日の夕方。起きてはいるかもしれないが、仕事に行っている可能性は高い。

「まぁ、今週末まで少し時間あるし、気長に待つしかないか」

 その間にも逆ナンしに行かなくてはいけない苦行も待っているんだが。


 お気に入りの芋焼酎を味わいつつ、趣味のサイトをチェックしているとライン着信を知らせる音がした。

 ヒモ達なのか、金曜日(正確には土曜日)以降姿を見せないゼフォンなのか。

 画面を見るとコガネムシ君からだった。

 平日だから余計に暇なんだろうなぁ……。


『おはよーございます! 土曜日ですね! 行きます、行かせていただきます。もう追い出されるところです。大家さん怖いよー。言ってた友達も連れていきますね』


 あー、そういえば会った時に『来週アパート追い出される』って言ってたな。物件良ければ即入居で、コガネムシ君先に住まわせてしまおう。

 車持ってるとか書いて寄越さなかったけど、あるのか?

 無くて、さらに荷物ごと来るっていうなら、それなりに大きい車借りなきゃいけないぞ。

 コガネムシ君に返信がてら聞こうと思った時、今度は工事のおっさんから来た。


『興味があるので行かせていただきます。丁度工事も一段落したので、休みになるそうです。車でしたら自分が乗っているハイエースあります。それでよければ出します』


 ナイスタイミングだおっさん! レンタカー借りる手間もお金も節約出来た。

 これで内覧に行けるし、荷物があっても大丈夫だ。

 早速おっさんに車で来て欲しい旨と待ち合わせ時間と場所、コガネムシ君には荷物持って友達と待ち合わせ場所に送れずに来いとラインしてやる。

 両方から間を開けずに『了解』との返事が来た。

「よし! 人を集める以外は順調!」

 順調過ぎて、頭の中から幽霊の件がすっかり消え去っていたのは言うまでもない。


「おはよー」

 待ち合わせ場所に少し早めに行くと、もうおっさんは車の前で待っていた。

 普段着のおっさんは作業着の時と違ってさほどおっさんには見えなかった。ワイルドでガタイのいい、私よりちょっと上に見える男性だった。

「姉ちゃんおはよう。もう二人来るってあったが、まだ来てねぇな」

 少し周りを見回して、それらしい人物がいないのを確認すると時計に目をやった。

「まだ待ち合わせ時間まで10分あるからな。そんなには早く来ないか」

「まあ、時間にルーズそうには見えました。なんでやつらには待ち合わせ時間を本来より30分早く伝えてますよ」

 私の読み通り、コガネムシ君達は遅れている。

 どうせ追い出される際の荷物の多さにどう運ぼうか戸惑っているに違いない。


 おっさんと雑談をしていると、駅の方から大きなスポーツバッグやら段ボールやらを抱えた二人組がこっちに向かってきた。

「あー、あれっぽい」

「何だ? 家出人か?」

「いや、追い出され人です」

 本人が来てから紹介しようと説明しなかったから、おっさんは些か呆れた顔をしている。

「随分変なのが来たな。服装はともかく、あの頭は何なんだ?前見えてるのか?」

 おっさんが言うのは多分コガネムシ君の事だろう。

 仕事ホストがないから髪をセットしないで、上にツンツンに立てていた部分が全部前に下りてきている。

 前髪うざったい派の私としても、おっさんが言うように前見えるのかも気になるが、顔とか目とか刺さってかゆくないのか不思議である。


「おーい、アルテミスさーん」

 人の目を気にすることなく、大声で私のHNを呼ぶコガネムシ君。

 ただでさえ大荷物を目立つ風貌の二人が運んでいるのに、さらに目立つ。

 そしてその余波は呼ばれた私達にも降り注ぐ。通りすがりの人々の視線がこっちへ集まっているではないか。

「アルテミスさんってばー! 荷物落ちそう、手伝ってー」

 更に呼ぶ。

 注目浴びてるって意識はないのか? このコガネムシ君には。

「姉ちゃんは待ってな。俺が手伝ってきてやるよ」

 おっさんは私の思いを察したのか、小走りにコガネムシ君のところまで行って大きい段ボールを肩に担ぐと、空いてる手で友達が持っていたボストンバッグを取り車に戻ってきた。

「え? え? 僕の荷物……」

 コガネムシ君はあっさりと持ち運ばれていった荷物に呆然としていた。

 追剥とかそういうのを思い浮かばなかったのか、おっさんが車に戻ってくるまでの数分、騒ぐでも追いかけるでもなく、その場に止まっていた。

 荷物が私のいる側の車に運ばれて、漸く我に戻って二人で車まで走ってきた。

「あれ?ドロボウさんじゃなかったんですね。びっくりしちゃいましたよ」

「いや、むしろこっちがビックリしたわ。大声で呼ぶし、荷物を見知らぬ人に持っていかれても騒がないし」

「あー、あはははは」

 何だこの反応。どっか抜けてる……。

「とりあえず揃ったから行きましょう。先方を待たせちゃ悪いし。運転は車の持ち主でいいかしら?」

「当然俺でいい」

 色々不安が残るが、これ以上こんなことで時間を潰しているわけにはいかない。よし子も待っていることだし。

「じゃあここに行って貰えますか?」

 おっさんにそう言って住所を渡す。

「随分な郊外だな。本当に車でなきゃ行けないな。住んだら大変なんじゃないか?」

 おっさんに言われるまでもなく分かっている。でも今はそんな事を構っている場合ではないのだ。

「それは見てから色々考えるわ。出発しましょう」


 おっさんの運転で件の家へ向かう途中、お互い面識がないので軽く自己紹介をする。

 そこでおっさんが今林、コガネムシ君がシンヤという名前だと判明した。コガネムシ君に至っては本名なのかホストの時の源氏名なのかいまいち分からないが。

 そしてシンヤの友達、こいつが曲者だった。

「僕は龍玄と言います。本名は捨てました」

「「はぁ!?」」

 今林さんと私は同時に発した。

 どこをどう見ても出家した坊さんには見えないし、外見草食系男子だ。

 どういう事? と聞こうと思った矢先、龍玄君が先に言葉を発した。

「あ、強い霊がいる」

「「!!!」」

 私以外の二人が言葉にならない声を発した。

 そこで向かっている家が幽霊屋敷だった事を思い出した。それを伝えなかった事も。

「あ、忘れてた。向かってる所、いわくつき物件なのよ。持ち主言うには幽霊いるって言ってたけど……」

「ま、ま、ま、マジっすか! そんなトコ俺怖くて住めないっす!」

「幽霊とか信じちゃいないが……。いわくつき物件ってどうよ。大丈夫なんだろうな……」

「ま、ま。行ってみて考えましょう」

 ここで引き返されても困るし、ナビは到着までもうすぐだと告げている。

 ヤバければ契約しないで帰ればいいだけの話だ。


「待ってたわー。さぁ契約書よー」

 到着するな否やよし子は契約書を目の前に掲げて、サインを迫った。

「ちょ、ちょいよし子! まだ内覧すらしてない!」

「えー、いいじゃない。とっとと契約しちゃいましょうよ」

 怖い怖い怖い! よし子どんだけこの物件手放したいのよ!?

「まぁまぁ姉ちゃんの友達さんよ、中身くらい見せてやれよ」

「そうですよぉー。幽霊物件なんでしょ」

 そんな今林さんとシンヤの援護射撃でよし子は『え~』と言いつつも内覧をさせてくれる事にはなった。

 その間龍玄君といえば明後日の方向を見てぼんやりしている。


 よし子の案内で屋敷の中を見て回る。

 部屋数もかなり多く、キッチンもどこかの旅館にでもありそうな感じのものだった。

 まさにお屋敷だ。

 今のところ問題はない。

 あるとしたら『いわくつき』の部分だけだ。

「で、幽霊はどこよ。いないじゃない」

「あー……」

 よし子は困ったように視線を泳がせ、言葉を続けた。

「…… どっかに居るわよ。あいつら屋敷の中を自由に動き回ってるから」

「あいつら?」

 聞き間違いでなければよし子は複数系で言った。一体ではなく二体以上いるってことなのか?

 そのことをよし子に聞いていると、内覧中に姿が見えなくなった龍玄君がトボトボ歩いてこっちへやってきた。

 しかも誰かと一緒だ。

「やーねぇ、そんな悩む事ないじゃなーい」

「そうよぉー。男の子はくよくよ悩んじゃダメ」

「でも悩むところがまた可愛いのよねぇー」

 龍玄君が連れてきたのは背後の透けて見える方々。紹介されなくても分かる、これが件の幽霊なんだろう。

「でも、僕全然役に立たなくって……」

 龍玄君は幽霊相手に何普通に話しているんだろう。こいつも大丈夫じゃなさそうだ。

「あ、あれあれ。あれがこの屋敷に住み着いてる幽霊たち」

 よし子は幽霊を確認するとまだ居た、と溜息をついた。

「あの幽霊ね、かなり強力な幽霊らしくお祓い出来ないんだって。そして分かると思うけど、霊能力あるとかでなくても見えちゃうのよ。それにね……」

 言いにくそうによし子は続けた。

「三体の幽霊、みんなオカマで、お節介焼きで干渉好きなの。住む人が何かやるたびアーダコーダ言ってくるんだって。思い通りにならないとポルターガイスト起こしてるんだって元住人達は言ってたわ」

 そして現段階で幽霊たちは龍玄君の悩みを解決すべく談笑中である。

お久し振りです。

なかなか書きたいように進まないのって精神的にきますね。

生活面でも色々あってイライラはかなりのレベルに達しています。

うまいこと解消したいんですが、時間がないのでなかなか……


そんな愚痴はさておき、また不思議なメンバーをヒモに迎え一歩進みました。

この先喪女さんはどうなるんでしょう(笑)

では次話でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ