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喪女はヒモを飼うことは出来るのか  作者: 伊吹咲夜


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喪女、逆ナン成功?する

 あれから逆ナンすること数時間。

 一体何人の男に声を掛けたんだろうか。自分がここまで声を掛けれた事が不思議でならない。

 ここまでやっていると、これは何のためであり、何の目的でやっていたのか分からなくもなってくる。


 立て続けに声を掛けまくっていたので、ある男からは『あの~』と言った瞬間に『オレ宗教興味ないっすわ』と言われ立ち去られた。

 宗教といえば宗教に近いのか?

 神の子の聖杯のために動いているのだし……。

 いや、違う。呪われない為だった。

 願いを叶えられなければ私は呪われて死ぬ。それを回避するために動いていたのだ。


 それにしても何なの!?クソ役に立たないアドバイザーの堕天使。

 役に立たない堕天使様は今、まさに私が必死に行っている苦行の逆ナンをされている。

「えー、どうしよっかな」

『どうしよっかな』なんて言っているが、めっちゃ顔、にやけてますよ。もう付いていく気満々でしょう。

 こんなの見ていても逆ナン成功率が上がる訳でもない。

「こ、こうなれば奥の手を使うしかない……」

 使いたくはなかった。しかし、今使わねばいつ使うというのだ!

「す、すいません!ヒモになって下さい!!」

 今日の作業が終わったばかりという感じで、道路工事現場から去ろうとしていたガタイのいい、ひげ面の汚れた作業着のおっさんに声を掛けた。

 秘技『DOGEZA』を使って。

 日本人にしか許されないとまで言われる秘技。

 これをされた相手は、無下には願い事を断ることが出来ず、承諾もしくは交換条件を提示してくるとまで言われる。

 しかも私は高等奥義『ジャンピングDOGEZA』を繰り広げてやった。

「……。ねぇちゃん、どうしたよ。いきなり変な単語が出てきたが、変なモンでも食ったのか?」

 当然ではあるが、おっさんは一瞬固まった。

 そして物珍しいものを見る目つきで私の(脳ミソの)心配をした。

「ぇ、いやぁ、変なモノは食べてないんですが、変な物買っちゃって」

「そいつぁ、頭ん中おかしくする菌でもまき散らしてるんか?」

 頭の中というより、全てがおかしくなる呪いをまき散らしてますよ、おっさん。

 しかしこれをどう説明するべきか。

 一般の人に『キリストの聖杯』と言ったところで通じるものは何もない。良くて『伝説上の遺物』くらいだろう。


 あれこれ悩んでいると、おっさんはどう解釈したのか『よし!』と大きな声を上げた。

「何か言えねぇ理由があるんだろう。言わなくていい!俺には分かった!ひと肌脱いでやる!」

「え?脱ぐ?」

 『脱ぐ』だけの単語が聞こえてしまい、まさかこの場で襲われる……?という有らぬ脳内変換が行われてしまった。

「おう、俺がねぇちゃんの言う『ヒモ』とやらになってやる。どんな条件なのかは知らないが、困ってるヤツは見捨てられねぇ」

 おっさん、何が楽しくなったのかガハハと笑い、私の背中をバンッと叩いた。

 さすが肉体労働者だけあって、力が半端ない。

 叩かれて一瞬息が出来なくなった。

「でもよ、ねぇちゃん。こっちも一個条件出していいか?」

「条件?」

「俺、見ての通り今ここの工事現場やってるんだ。工事終わるまで辞めれないし、辞めるのは工事依頼した人間や、俺の労働力を充てにしてたやつらに迷惑がかかるってもんだ。仕事は続けさせてくれ」

 おっさんの言う事は最もだし、分かる。

 ただ、ヒモって働かないで女のサイフにぶら下がって生きてるような人間の事言うんじゃないの?

 どうなんだろう?何が定義なんだ?

「うーん。多分大丈夫だとは思うんだけど、一応審判みたいなのがいるんで聞いてみるわ。急に来いって言われてもアレだから、連絡先教えて貰っていい?」

 まずはゼフォンに聞いてみよう。

 連れて行って『ダメ』って言われたら、このおっさんをその後どうすればいいのか分からん。

 おっさんは持っていたリュックサックから、これまた作業着同様に薄汚れたカバーの付いたスマートフォンを取り出した。

「ラインでいいか?」

 おっさんのくせして(は、失礼か)使い慣れているらしく、サクサクとラインの友達登録を開き、サクっと私の連絡先を登録させ、私にメッセージを送り込んできた。

「じゃ、あと連絡くれ」

 軽く手を上げるとおっさんはさっさと私に背を向けて現場を離れていった。


「……あれ?これって逆ナン成功?」

 おっさんの背中を見送ること数分。

 今自分がやった所業が成功していたことに実感がわかなかった。夢ではなかろうか?

 でもラインのお友達欄には見慣れない名前がひとつ追加されてる。

「ぅ、うおぉぉぉー!ナンパしたったどー!!」

 感動のあまり叫んでしまった。

 ここが工事現場であり、人気が少ない場所であり、かつ、すっかり日付も変わってしまった夜中だったのが幸いだ。

 振り返って見ていく人もいないし、見ていくのは大抵酔っ払いのおっさんだ。

 ひそひそもされなければ、通報もされない。

 この喜びを誰かに伝えねば!そうだ、まずは小馬鹿にしてきたゼフォンに言わねば!

 そう思いスマホを見るとゼフォンからのメッセージが来ていた。


『さっき逆ナンされた子とお泊り決定。頑張って捕まえなさいよー』


 一気に喜びがイラつきに変わっていく。

 この堕天使、人をイラつかせる才能が物凄くあるんじゃないかしら。

 帰ってこないで欲しい。むしろこのまま帰ってくるな。

 アドバイス等は全部スマホでいい。

 願いを叶える時にだけ帰ってきて欲しい。


 こんな役に立たないアドバイザーは放っておいて、そろそろ帰ろう。気付けばもう2時になろうとしている。

 夜更かしは慣れているが、こう精神的ダメージが大きいと眠気だって襲ってくるもんだ。帰って寝よう。

 さすがにバスも電車も終わっている。歩いて帰れない訳ではないが、今日は無理だ。

 タクシーを拾おうと繁華街を抜ける。

 客やお店の従業員も帰る時なのか、空車がなかなか見つからない。

 ようやく見つけて停めようと手を上げかかった時、ダルそうな声が背後から聞こえた。

「そこのモテそうにないお姉さん、モテる気分味わってみない?」

 確かにモテないが、その声の掛け方、すっごい失礼過ぎる。

 疲れてるしゼフォンの件でイライラしてたから、文句の1つでも言ってやらなくては気が済まない。

「最初っからモテないって決めつけんな!」

 振り向いた先には、これまた声と同じくダルそうで格好良いとは程遠いチャラ系の男がいた。

「えー、そのダサい服からしてモテないでしょ」

「そのまんま返すわ!お前も似合ってないわ、そのチャラ系の格好と髪型」

 そのラメった緑色のスーツ、どこで売ってんだ。コガネムシか。

 そしてそのモヒカンなり損い頭、何がどうしてそうなった。

「えー、パイセンが似合うって選んでくれたのにー。センスないなー、あんた」

 いやいや、センスないのは先輩の方では?そのままお笑いの舞台に立てる可笑しさはあるよ?

「もう帰るんだから、モテる気分は味合わないくていい」

 そう、さっさと帰って寝るのだ。

「お願いー、一緒にお店来てよー。パイセンに怒られるよー」

「はぁ!?知ったこっちゃないね。コガネムシに同情はない」

 こいつ、こんなんでホストか?

 もっと低姿勢で来れば初回お試しご来店ナンチャラってシステムで行くことも考えたが、こいつでは絶対に嫌だ。


 拾い損ねたタクシーを捕まえに、踵を返す。

 コガネムシ君は私を連れていくのを諦めたのか、他を探すために歩き出したようだった。

「今夜お客連れてけないやぁ。クビだなぁ。アパートも来週で追い出されるし……。誰かのヒモだったら良かったのに……」

 ヒモ!?

 そうだ、私はヒモになってくれる男を探していたのよ!

 早く言ってくれコガネムシ君!

「ちょい待て!そこのコガネムシ君!ヒモになりたいと言ったな!」

「はぃぃーい!?」

 突然の私の大声にビビったコガネムシ君。キョドりながら振り向いた。

「来週アパート追い出されるんだよね!?それまでに準備するから連絡先教えろ!」

 スマホを目の前に突き出され、さらにびくつくコガネムシ君。

 しかし余程私の形相が怖かったのか、びくびくしながらも大人しく連絡先を表示させてきた。

「よし!これで二人目!」

 呆然とするコガネムシ君をそのままに、私はちょうど来たタクシーに乗り込んだ。

「あ、あの……」

 コガネムシ君が何か言おうと声を掛けたが、丁度のタイミングでドアは大きく音を立てて閉じてしまった。

 気付きはしたが、閉めたばかりのドアを開けてというのも面倒臭くなり、後でラインで用件聞けばいい事だし、とそのまま家へとタクシーを走らせた。


 が、家まであと少しの所まで来て気付いた。

 私、二人に名前名乗ってない。

 ラインの名前、ハンドルネームになってる。

 リア友なんていないから、本名にしていない。


 喪女の私のハンドルネーム、


『穢れたのアルテミス』

読んでいただきましてありがとうございます。

色々あって、色々でして、サクサク書いてはおりませんでした。

スマホでぽちぽち書いてたのもありますが。

無理しちゃいかん、って思っても時間も身体も融通って利きませんね。


そんなこんなで4話きました。

いつになったら100人集まるんでしょうね。


では次話までまた開いちゃうかもしれませんが、気長にお付き合いくださいませ。

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