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喪女はヒモを飼うことは出来るのか  作者: 伊吹咲夜


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喪女、起動します!

 早速私はこの『変身』を利用して逆ナンに繰り出した。


 ダッサイとオカマ幽霊に言われた服は、普通の感覚を持つ今泉さんと龍玄君に付き合ってもらい、先週のうちに調達しておいた。

 オカマ幽霊が仕上げたのがいわゆる可愛い系だったので、それに合わせて薄いピンク色のフレアスカートのスーツを買ってみた。


 こんなふわふわな感じの服なんて着たことがないから、違和感バリバリ。

 お尻がむず痒くなってくる。

 ゆるふわ乙女たちはよくこんなのを着ていられると感心すらしてしまう。


 話し方は、参考になる人間が誰もいなかった……。

 よし子はおっとり天然系だが、何となく男を騙すのには向いていない感じがした。

 あとはうちには男しかいないし、男だというと『やだぁ』と否定するのが四人ほどいるが、あれは参考にするだけ無駄というもの。

 虫唾が走るが、元部署のぶりっ子後輩の真似をすることに決めた。


 ターゲットは頭の軽そうなやつと、可愛い系が好きそうなヲタクに絞る。

 堅実派なサラリーマンに『ヒモになりませんか』なんて言ってしまったら、絶対に怪しまれるし(そもそも怪しいのには変わりないんだが)、言わなくても逆ナンってだけで逃げられそうだ。


「よっしゃ! まずはあれを逆ナンしてみよう!」


 変な勇気と強気が出てきている。

 まさに内気な魔法少女が変身した途端に強気になり、よく分からない正義感に燃えてしまうアレと一緒な気分だ。

 まぁ私少女じゃなくてアラサーだけど。


 私の前を歩く少し茶髪の、会社帰りと思われるがスーツをかなり着崩した兄ちゃん二人をロックオン。

 可愛い子の皮を被って背後まで小走りで近寄っていった。


「あのぉ~、お兄さんたちってお暇ですかぁ~?」


 自分で言っておきながらかなり痒くなってくる言い方だ。

 もう一人自分がいたら今喋ってた自分を蹴飛ばしたい。


「ん? なに? 俺達に何か用?」


 くるりと振り向いた兄ちゃん二人は、私を見ても嫌な顔せずにこやかに答えてくれた。


「えっとぉ、そこで見かけて『カッコイイなぁ』って思って声かけちゃったんですぅ~。よければお茶でもしませんか? お話したくってぇ~」

「きみ一人?」

「そうなんですぅ。友達にドタキャンされちゃってぇ」


 後輩がよくお局相手に繰り広げる『週末の私』をまるまる真似てみた。

 最初は逆ナンなんて知らなかったから、あやつが何を語ってるのか意味不明だったが、こんな時に役に立つとは思わなかった。


「そうなんだー。可哀想だね。俺達で良かったら慰めてあげるよ。そこの居酒屋でも行ってぱーっと飲んで気晴らしする?」


 兄ちゃんの片割れがニヤニヤ顔で言ってきた。

 こうもあっさり成功すると気が抜けるが、お持ち帰りしなくては意味がない。

 相手の酒の強さは分からないが、ザルでなければ酔わせてしまえばこっちのものだ。

 多分相手も同じことを思っての居酒屋なんだろうが。


「いいんですかぁ~。嬉しぃ~。私そんなにお酒強くないんで、あんまり飲ませないでくださいね?」


 ちょっと可愛らしく首を傾げてやったら、兄ちゃんたちは顔を見合わせてニヤッとした。


「だいじょーぶ。そんなに飲ませないから。さ、行こう」


 両脇から兄ちゃんに挟まれ、すぐ近くの居酒屋へ連行された。


 ここから可愛いフリをしながら飲むのは大変だった。

 そこそこのザルな私とはいえ、飲めば少なからず緊張が解けてしまう。

 気を抜いた時にぽろっといつもの雑な言葉使いや、つっけんどんな言い方にならないかひやひやしながら酒を飲んで飲ませた。

 いつも焼酎派な私が、女の子が好むような甘いお酒を飲むのも結構きつかった。


 が、その甲斐あって兄ちゃんたちは二時間弱で潰れてくれた。

 意識はあるがべろんべろんで、何喋ってるんだか分からないくらい。


(よっしゃ! 私の勝ちだ!)


「やだぁ~。ここで寝ないでくださいよぉ。寝るんだったら私の家に行きましょう?」

「ん~? いくぅ~」


 兄ちゃんは酔っ払いながらも『私の家』という単語に反応して、ニヘラと笑って抱きついてきた。


(うぎゃぁぁぁ! 離れろおおお! お前なんざに抱きつかれたくはない!)


 払い除けて足蹴にしたい気持ちを抑えて、そのまま龍玄君にラインを送る。

 実は今日の逆ナンは成功する予感がしていた。

 なので予め駅近くの駐車場に龍玄君を呼んでいて、逆ナンした男をお持ち帰りできるようにしていたのだ。


 すぐさま近くまで向かうとの返信がきた。

 さすがに一人でこんな大人二人を抱えて外に出る事も、歩くことも出来ないので、駐禁とられないような場所に停めたらここに来てくれと送り返した。


 * * * * * * * * * *


「ちょっとぉ。何そのお兄さんたちは。やだぁ、あっちゃん逆ナン成功したのぉ?」


 家に着くと龍玄君を出迎えに来たオカマ幽霊が、私と逆ナンされた兄ちゃん二人を見て驚いた。


「成功しましたとも。持ち帰ってきましたとも。見事に騙されてくれましたよ、この変身っぷりに」

「やだぁ、このお兄さん私の好み。あっちゃん、一晩私に貸してくれない?」

「いいけど、何する気? こいつらべろべろに酔ってるから、何しても起きないだろうし、話し相手にもならないわよ?」

「いいのよぉ。起きない方が」


 うふふ、と笑うとオカマ幽霊三人で二人の酔っ払い兄ちゃんを、オカマ幽霊の住処としている部屋に連れ帰ってしまった。


「しっかしまぁ、よく逆に持ち帰られないで済んだな。あっちゃんもかなり飲んだだろう、結構酒臭いぞ」

「飲んだといえば飲みましたね。飲みなれない甘いお酒を」


 オカマ幽霊の騒ぎ声を聞きつけて、部屋で休んでいた筈の今泉さんまでもが玄関に降りて来た。


「あんまり心配させんなよ。何だかよく分からない呪いのためとはいえ、連れ去られたりしてとんでもない目に遭ったら、本末転倒だぜ?」

「デスヨネ。ちょっと対策が甘かったかもしれない」


 言われるように、もう少し何か考えてから逆ナンすればよかったかもしれない。

 これといって今のところ何も浮かばないが。


「今日はもう寝ちまいな。今泉のヤローには『あっちゃんがしじみの味噌汁をご所望だ』って、朝に言っててやるよ」

「あはは……。よろしくお願いします」


 甘い酒というのはどうも体質にも合わない。十中八九、二日酔いになるだろうな。

 ならなくても酒を飲んだ翌朝のしじみの味噌汁ってのは旨い。

 やっぱり酒飲みには酒飲みの気持ちってのがよく分かるもんだ。ありがたい。


 * * * * * * * * * *


 翌朝、軽く二日酔いで重い頭に『やっぱりか』と苦笑しながら食堂へ降りると、今泉さんが言ってくれていた通りにしじみの味噌汁の香りがしていた。


「ああ~、いいわ~。これぞ『家庭』って感じ」

「だれがお母さんだ」


 味噌汁を貰いにいこうと厨房に入る前に、新井シェフが持ってきてくれた。


「誰もお母さんなんて言ってませんが? 新井シェフはお母さんになりたいの?」

「お母さんになれるか! 俺は男だ。なるならお父さんだろ!」


 言って、何かまた勝手な妄想をしたらしく、顔を真っ赤にして厨房へ走って逃げていった。

 新井シェフは思い込みと妄想が激しいんだなぁ……。

 でもしじみの味噌汁は旨い。さすがシェフ。


 ひとり味噌汁を堪能していると、食堂に具合の悪そうなギャルが二人入ってきた。

 ギャル? 何でギャルがここにいる?


「おっはよー。あらいい匂い。この子達にも食べさせてあげてぇ~」

「いいけど、このギャルどこから拾ってきたの?」

「やだぁ~。これ、あっちゃんが拾ってきたお兄さんたちよぉ。可愛く仕上がったでしょ?」

「え……。貸してって言ってたのは……」


 がっつり遊ばれていたということだったのか。

 まぁ、変ないたずらされて逃げられるよりは……、いや、これも逃げられておかしくないいたずらだ。

 せっかく一回の逆ナンで二人も捕まえたというのに、逃げられたら損ではないか!


「ちょっと、この仕打ちでこの兄ちゃんたちに逃げられたら、あんた達責任取ってくれるんでしょうね!?」

「大丈夫よぉ? お兄さんたち、変身願望あったみたいだから」


 まさかの女装願望!?

 酔ってて適当な事言わせたんじゃないの!?

 でも今何聞いても、がっつり二日酔いの人では曖昧な返事しかこないだろうな。

 ここは治るのを待ってからにしよう。


「それよりさ、オカマ幽霊。このゆるふわ以外の髪とかメイクって出来るの?」

「当然でしょう~。ゆるふわだろうがツンデレだろうが、ギャルだって出来ちゃうわよぉ。資料があれば」

「それ本当ね。オカマに二言はないわね!?」


 オカマ幽霊達は当然『は?』な顔をしてお互いを見合わせた。


「あっちゃん二日酔いでおかしくなった?」

「んなわけあるか! この旨いしじみの味噌汁を飲んで、頭がシャキッとしたら思いついたのよ。ゆるふわだけじゃなく別なのにも変身できたら、もっと早くヒモがあつまるんじゃない? って」


 何をいまさらな感じだが、見栄えが違うと中身がどうあれ、こうも簡単に逆ナン出来るんだと実感してしまった。

 ゆるふわだけでは早々に手詰まりになる。

 かといって元の私ではかなり効率は悪い。


「だーかーらー、最初から言ってたでしょ? 女は見た目が大切だって」

「ねぇー。あっちゃん全然話聞いてくれないし、拒否するし」

「最初はこのゆるふわだって嫌々だったけどねぇ~」


 ほらご覧、と言わんばかりにオカマ幽霊は口々に文句を言い出した。

 正論すぎて何も言い返せない。


「悪かったわ。ごめんなさい! オカマ幽霊、お願い、実験台でもなんでもいいから、いろんなパターンの女に変身させて」

「「「願ったりよ! 私達にまかせて! あれこれ弄らせてもらうわよ!」」」


 キラーンと目の光るオカマ幽霊。

『実験台』までは言い過ぎたかも。何かトンデモナイ感じにも仕上げられそうな予感がする。


「じゃあ早速資料と道具を揃えるわ! 龍玄君借りるわよぉ~! あ、あとお金ちょうだい」


 龍玄君に女性物の化粧品や何やら買わせるのって酷くないか?

 龍玄君がいいなら別にいいんだけど。


 その夜、買い物から帰ってきたオカマ幽霊を見てびっくりした。

 資料と道具とは聞いていたが、何でここまで買うんだってくらいの買い物の山。

 ブランドものは混ざっていなかったが、化粧品や服やよく分からない店の袋がわんさか。


 翌々月のクレカの支払いが怖い……。

 何か副業始めようかしら。


読んでいただきありがとうございます。


喪女さんは変身して、変なスイッチが入ってしまったようです。

まだまだ何かやらかす予感……(笑)


しかし、喪女さんの収支がどうなってるのか。

普通なら絶対破産してますよね。

ま、コメディーなんで細かいことは(笑)


それではまた次話お会いしましょう。

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