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喪女はヒモを飼うことは出来るのか  作者: 伊吹咲夜


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12/19

喪女、慌て落胆する

 びしゃっ、と顔に何か乗せられた衝撃で目が覚めた。

 絞ってない雑巾……? いや、タオル?


「あ、気付いた!」

「本当だ! 僕、新井さんと今泉さん呼んでくるね!」


 息が出来なくなりフガっと変な声を上げたところで、シンヤと龍玄君がバタバタと動き出した。

 これ乗っけたのはシンヤな気がしてならない。

 あいつは人を窒息死させる気か!? 顔全体に乗せやがって。

 ていうか何でそんな事をされたんだ?

 記憶を辿っていくと、最後に覚えているのはキッチン。

 何かワー、とやって、ギャー、と騒いだような気がするが。


「姉ちゃん、大丈夫か!?」


 今泉さんがノックもせず(こっちもいつものことだが)、部屋に飛び込んできた。

 滴る雑巾もどきのタオルを顔から避ける私を見て、『あいつら……』と顔をしかめたが、また真顔に戻ってベッドの横に座った。


「私……、何かあったんですか?」

「何かって、倒れたんだよ。台所で急にな」

「ああ、なるほど」


 だからベッドで寝てたのか。

 キッチンでワーギャーしてたのは、夢でも妄想でもなかったのか。

 しかし倒れるとは……。徹夜くらいでもそんな事はなかったのに。

 私ももう年ってことか。


 そんな自己解析をしている間も、今泉さんは心配そうな表情を変えず、じっと私の顔を見ていた。


「姉ちゃんさ、あれこれ頑張り過ぎなんじゃねぇか? 仕事も夜遅くまでしてる事あるし、最近じゃ新井のヤローに早朝特訓させられてたらしいじゃないか。あの肉じゃがってそうなんだろう?」

「まぁ、否定はしません」


 仕事が忙しいのは時期的なもので毎日遅い訳ではないし、新井シェフの特訓も別に無理矢理って事ではない。

 偶然が重なった結果がこれなだけで、頑張り過ぎてはいない。

 私は喪女のうえ出来れば楽して生きたい人なので、命に関わるような事以外は努力しようとも思わない、はず。


「なぁ姉ちゃん、こんな変な事してないで普通の生活に戻らないか? 独りが寂しいっていうなら俺が側にいてやるし、お金がないっていうなら俺が助けてやるよ」

「はい? 今泉さん、私、前に説明しましたよね? ヒモを集めないと呪われて死んじゃうって」

「ああ聞いた」

「じゃあ何で普通の生活に戻れと? 私に一年後死ねと?」


 今泉さんは私に過労死のフラグでも見えたのだろうか。

 同じ死ぬならもう少し人生楽しんでから死ねと?

 確かにまた攻略してないゲームもあるし、気になる不思議サイトの更新もチェックしてない。

 ここで死んだら間違いなくあのオカマ幽霊の仲間入りを果たしそうだ。


「心配していただいてありがとうございます。まだやることが残ってるので、過労死しない程度に仕事します」

「いや、そういう……」


 今泉さんが何かを言いかけた時、どこからか何かが湧いた。


「やだぁ。この子鈍ぅいー。ホント根っからの喪女よねぇ」

「ホントだわ。これだから処女捨てれないのよ」

「やぁねぇー。折角のモテ期を不意にしてるわよぉー」

「でもこの話に乗っちゃったら呪われるじゃない」

「「「「あはははははは」」」」


 オネェ堕天使プラスオカマ幽霊はひそひそではない声で私達の背後で話し始めた。


「あははじゃない! このオカマども! いつ私が告白されたってのよ!?」

「だってぇ、あんまりにも面白すぎるんだもん。ホントに鈍いわねぇ。二人から言い寄られてるっていうのに」

「はい? 二人?」

「二人。ここにいる今泉さんでしょー、あとはぁ、ドアの外で隠れてる新井シェフ」


 ゼフォンがわざとらしく、くねくねしながら説明する。

 名指しされた新井シェフは観念したように、ドアの陰から仏頂面を引っ提げて現れた。


「もぉー、こんな喪女のどこがいいのよぉ。ここにこんなに素敵な堕天使がいるっていうのにぃ」

「そうよー。ここにもこんなにビューティフルな女子が揃ってるのに」


 いや、オカマ達。お前らは女子じゃない。立派なおっさんだ。

 心の声が飛び出しそうになるのを抑え、このオカマ達の狂言の言質にかかる。


「いやいや、今泉さんは過労死の心配してるだけですよね?」

「……」

「新井シェフだって、何にも出来ない私を教えてるだけですよね?」

「……」

「お二人さん……?」


 変な沈黙。

 あれ? どうした? 何があった?

 神様通るから、この沈黙を誰か破ってくれ!


「……本当にこの姉ちゃん鈍いんだな。ここまでされて、ここまで言われて否定ってどんだけなんだよ」

「ああ、俺も何となく分かってくれてるものだと思ったら、これだもんな」

「だ、そうよぉ。鈍い喪女さん」


 ウフフ、とゼフォンが背後から抱きついてくる。


「もういっその事どっちかと思い出作って逝っちゃう? まだヒモの数も全然だしぃ。元々あんたの願いは処女捨てる事にあるんだしぃ」

「はわゎゎ! ゼフォン! こんなとこでバラさなくったっていいでしょ!?」

「やだぁ。みんなに隠してたのぉ?知らなかったわぁ」


 すっとぼけるゼフォン。

 お前、絶対私の反応を楽しんでるだろう。

 新井シェフなんてポカーンとしてるし、今泉さんなんかは驚いてるのか退いてるのか分からない顔してる。

 恥ずかしい! 恥ずかしい! 恥ずかしい!

 穴があったら入りたい。

 未来の猫型ロボットがいるならゼフォンがバラす前、いや聖杯を売りつけられる前の時間まで戻りたい。

 布団を引き寄せ、顔まですっぽりと被って潜り込む。

 お願いだから一回みんな部屋から出て行って欲しい。


 そんな願いは届くことがないのは知っている。

 少しの沈黙の後、今泉さんが口火を切った。


「まぁ、処女だっていいんじゃねぇか? 若いうちに捨てとくのが当たり前みたいな風潮になってるが、好きでもない男と無理矢理したっていい思いでにも何にもならねぇしな」

「……それは言えるな。経験がないからと馬鹿にする男もいけないが、それを間に受けてホイホイと尻軽になってしまう女もどうかとは思う」

「あらぁ、お二人とも意外と固いのねぇ。新井シェフなんてチョーいい男だから、やりたい放題してきたと思ってたわ」

「そういえば新井シェフって、有名店のシェフをクビになってここにいるんですよね? やっぱり原因ってソレっすか?」


 シンヤが思い立ったように口を挟んできた。

 私から話題が反れてありがたいが、今それ話す状況でもないと思うが……?


「あらそうよねぇ。どうなのよ、新井シェフ」


 ゼフォンまで気になって、そっちへ方向転換。

 急に話を振られた新井シェフは、気まずそうに『今はいいじゃないか』と逃れようとしていたが、皆に迫られ遂に口を割った。


「その逆だよ。オーナーから『あの奥方はお得意様だから挨拶してこい」とか『どこどこの有名企業の会長のご家族だから、今後のお得意様になっていただけるよう顔を出してこい』って言われて挨拶しに行く度に、怪しいカード渡されるんだよ」

「怪しいカードって?」


 興味津々のシンヤ。それくらい察しろ! てか水商売してたんだから知ってるだろう!?


「ホテルの名前と部屋番号書かれたカード。『何日の何時に』とだけ書いてるアレだよ」

「出張シェフでもして欲しいんですかね?」


 今度は龍玄君。イメージ通り、そういう事には疎いらしい。


「いやいや。奥様方は俺と体の関係を持ちたいって暗に言ってるんだよ。そういう事してくれたら今後贔屓にしてあげるわ、って裏取引」

「じゃあ新井さんはお誘いを断ったって事なんですか? でもご主人は料理目当てで行く訳だから……」

「奥さんが嫌だっていう店に、夫婦で行くと思うか?」


 今泉さんの一言でシンヤも龍玄君も『ああ、そうか』と納得する。

 新井シェフのクビは、色欲に塗れたマダムの逆恨みってことなのか。気の毒に。


「でもさ、でもさ、オーナーはそんな変な事してるオバサン、横で見てるんですよね? 旦那さんにチクったりしなかったんですかね?」

「言う訳ないだろう。こっちが嘘ついたって言われてあげく名誉棄損だとかって訴えてくるようなやつらばっかりだ。旦那にそんな事言ってまた来てもらうリスク考えたら、俺をクビにして別なイケメンシェフでも雇った方が建設的だってことだ」


 結果、今に至る、と。

 何だかなぁ……。大丈夫かその店。

 新井シェフがいてもいなくてもって、味じゃなくてルックスで商売なのか。そのうち潰れるんじゃないのかしら。

 まぁ知ったこっちゃない。


「で、話は戻るんだが、そんな連中と関わってつくづく実感した。男も女も誠実なやつがいいと。喪女だろうが何だろうが、ホイホイと股開く女でないだけよっぽどましだ」


 何かいい事言ってるように聞こえるが、ひねくれた私の耳には『喪女も普通の女に比べればましではない』と遠回しに言ってる風にしか聞こえない。

 新井シェフの『普通の女』の基準は何なんだろう?

 自分がその基準に入っていないのは承知だが、そのことが心の奥でモヤモヤを渦を巻く。

 何だろうこの心の矛盾。


「あっちゃんはそんな不誠実な女達とは違う。真面目に働き、俺の料理を真面目に習い。ここに男がいっぱい集まってきているのには理由があると聞いたから、まぁそこは目を瞑るとして。まさに理想の女じゃないか」

「お前何先に告白してんだよ。俺が姉ちゃんに言おうと思って先に喋り始めたっていうのによ!」

「こういうのはタイミングだろう。丁度俺に話を振ったあのボウヤに文句言いな。あっちゃん、俺と一緒にならないか? 結婚するまで処女でいるつもりだったんだろう?」


 何か新井シェフの解釈がおかしい方向に行き出した。

 もしかすると、もしかして?

 がばっと布団を剥いで起き上がり、今泉さんと一緒にこっちを見ている新井シェフに向かって聞いてみた。


「あの、新井シェフ? 私がここに男達集めてる理由って知ってます? その理由も。そんでもって『喪女』って意味、知ってます?」

「いや、全く知らん。今聞かれた事については全く知らない」


 デスヨネー。

 喪女にありがちな勘違いラッキーですよね。

 こんなに喪女がモテる訳ないんですから。


「……では、改めてここにいる皆様に、私が何でこうやって男を集めて、変な集団生活を余儀なくしているか説明しましょう」


 これできっと今泉さんの勘違い告白も無くなると言う訳だ。

 ホッとしたような、残念なような。

 まぁ、こっちが勘違いして迷惑かけるよりはよっぽどいいのかも。

読んでいただきありがとうございます。

単なるコメディーで終わらせる予定が、しっかりラブコメになってきました。

当初十話程度で終わらせる予定も、がっつりここまで書き込んでおります(笑)

プロットも当然無いと等しいものに。

ラストも現在二択の状態です。

そこに行きつくまでまだ過程があるので、ゆっくりと悩みます。


もっと登場人物増やしたいけど、な現在の悩み。

まずは次話を早めに書くことを優先に考えてはいきたいと思っています。


では次話でお会いしましょう。

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