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三話 神様の匙加減 ~出会いの前触れ~

 ギルドが成立してから数ヶ月が経った。

 六花のギルド運営は順調だ。パーティー職は現在冷遇職と言える。それを率先して募集したことにより、頭数を揃えることに成功したのだ。

 リアルでも色々とあった。大学生活が始まったのだ。

 初めての一人暮らし。料理は上手く行かなかったが、親に監視されていない生活というのは優雅なもので、すっかりと怠け癖がついてしまった。

 大学の授業も、サボることがしばしばある。


 歌世はパーティー職が集まる中でのソロ職だ。ダインと遠距離通話システムで会話をしている時間が、増えた。


「実験的な試みだね」


 六花の運営方針を、ダインはそう評した。


「パーティー狩りは今はまだそこまで力を入れてるギルドは少ないから、色々と試せるんじゃないかな」


「試せると言っても、私はソロ職だから混じれないんだけれどね」


「誘われないのかい?」


「護衛役に誘われることは数回あったけど、経験値の吸い取りみたいでね」


「気分転換になると思うけれどなあ」


「そうだよねえ。ギルドの皆と交流しなくちゃいけないよねえ」


「大学の方はどうだい?」


「そっちも交流が全然。イグドラシルにのめり込んでて二の次になってる。友達はできたんだけどねー」


 嘘ではない。顔と名前が一致する人は数人だけれどいる。

 外に一緒に遊びに出たこともある。

 けれども、生活の中心にはイグドラシルオンラインがある。


「程々にしとこうね」


「うん、ありがとう」


 ありがたくないことに、ゴルトスにも忠告を受けた。


「歌世さ、俺がいる間ずっとログインしてない?」


「暇なのよ」


「確かに歌世ちゃんはログイン時間が長いわよね。レベルもそれに比例して上がってる。歌世ちゃんとシフ君と黒井君はいつもいるよね」


 そう、ゴルトスの疑念を後押しするのは六花だ。心配しているのかもしれない。


「大学もきちんと行ってます。大体ゴルトスと六花さんはインしたら後衛誘ってどっか行っちゃうじゃない。私なんて気にしなくていいんじゃないのー」


「私は毎回歌世ちゃんも誘ってます」


「そりゃまあ、そうだけど……邪魔じゃないかねえ」


「邪魔なんかじゃないよ。護衛がいるだけで助かる。狩人の人や武闘家の人に今はその役をやってもらってるけれどね」


「そんなもんかぁ」


「何より歌世ちゃん、支援職を作れば?」


 六花が詰め寄ってきた。

 大学の件は何処かに行ってしまったので、歌世は少し安堵した。


「支援って、味方にバフかけたりヒールかけたりする役?」


「それ以外に何があるんだ」


 ゴルトスが憎らしい一言を挟む。歌世は眉間にしわを寄せた。


「そうだよ。やってみたら案外楽しいよ」


「私は前に出てるのが一番楽しいから。敵を倒せない職はちょっとな」


「引っ張りだこになるよー。今は支援不足だからね。うちのギルドにも、私を含めて二人しかいない」


「考えてみる」


 と言ったものの、歌世には敵を狩ることにしか興味がない。味方への支援スキルなんて興味が無いのだ。


「私もたまには後衛キャラ出したいんだ。歌世ちゃんが支援職を作るってなったら、皆手伝うと思うなあ」


 いつの間にかゲームの話になっている。三人共、結局はゲーム好きなのだ。


「考えとくよ。今日は、狩りに行く」


 そう言って、歌世は溜まり場を後にした。

 狩場に移動して狩っていると、六花の話に出てきたシフが狩っていた。矢を放ちながらも、敵にたかられて、回復薬を叩いている。

 彼も、そう言えばログイン時間が長いのだった。

 歌世はシフの周囲の敵を倒して、挨拶することにした。


「や」


「ああ、どうも歌世さん」


「何してるんだい? 遠距離攻撃職が無茶して」


「ここは美味しいから……普段の狩りで回復薬を貯めて、狩りに来るんですよ、たまに。今はスキルが使えなくなったからちょっと手間取りましたが」


「それじゃあ、私が護衛してあげようか」


 歌世は、パーティー狩りに興味が無いわけではなかった。

 ただ、経験値泥棒になるのが嫌なだけだ。


「本当ですか?」


 シフが表情を緩める。


「ああ、本当だよ。同じギルドの仲間じゃないか」


 そう言って、歌世はシフにパーティー申請を送る。シフはそれを承諾した。

 そうして、二人は戦い始めた。

 歌世は四方八方を飛んで敵の急所を貫いていく。その隙間を、矢が埋めていく。

 その日のパーティー狩りは、快調に終わったのだった。


「上手いね、シフ君。パーティー狩りももっとやればいいのに。いつも一人でしょう?」


「一気に敵を殲滅できる魔術師の方がパーティー職としては優秀ですからね。引け目も感じるってものです」


 その一言で、歌世はシフに親近感を抱いた。


「また、一緒に狩ろうか」


「いいですね。回復薬もケチれるし。一緒に狩りましょう」


 こうして、歌世は新たな友人を得たのだった。

 そうしている間に、時間は過ぎ、リアルではイベントが訪れようとしていた。


「親睦会?」


 同期生に、思わず佳代子は問い返していた。


「そう。クラスの親睦会をしようって話が出てて。もうすぐ参加打診のメールが来るんじゃないかなあ」


「親睦会、かぁ」


 同期生の皆と仲良くしておくのは悪いことではない。友人は、増やすべきだ。

 その日は歌世になれないな、と心の何処かで思っている辺り、佳代子は重症だった。




 その頃、イグドラシルオンラインの世界では異変が起きつつあった。

 攻撃や防御の成否判定に影響を与えるキャラクターの技量の値。その技量の値が高い狩人の放った矢が、高確率で敵の急所に当たるようになったのだ。

 急所を貫かれば、敵は死ぬ。

 これは後に、狩人事件と呼ばれるほどのウルフソフト社の失態であった。

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