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二話 首都 ~心重ねて~

「四人でタイダルドラゴンを倒す?」


 歌世達の構想を聞いたダインは、引っ繰り返った声で言った。

 場所は、酒場の裏だ。酒樽の上に歌世は座り、その傍でダインは後頭部に両手を置いて壁に背をやっている。


「無理だよ。十人以上で倒す敵だ」


「けど、彼らは皆素早さ型だった」


「……確かに、ステータスによっては自由度は上がるかもしれない。けど、今の時代に耐久型の前衛なんて貴種だぜ」


「いるんだな、それが」


 ゴルトスの貢献度を認めるのは正直、面白くない。けれども、彼のお陰でパーティー編成の幅が広がっているのは事実なようだった。


「なるほど、タイダルドラゴンを押さえ込んでその間に急所を狙う腹か」


「そゆこと」


「上手く行くことを願うよ」


「ありがとう。それで、お願いがあるんだけどさ」


「うん、できることなら聞くよ。デスペナは嫌だけどね」


 タイダルドラゴン討伐を協力してくれるわけではないらしい。


「この辺りの金銭狩場を知りたいんだ」


「経験値狩場じゃなくていいのか?」


「うん。お金が必要なんだよ。早急に」


「それじゃあ適当にいくつか見繕うかね……」


 そう言って、ダインは腕組みして考え込み始めた。

 首都において、彼は頼りになる先輩だった。



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「皆、準備はいい?」


 六花が、檻に囲まれた扉を背にして言う。


「現状できる限りのことはした。これで無理なら助っ人募集だな」


「装備も整えたよ」


 そう言って、歌世は腰に帯びた片手剣を示す。重量ペナルティがある武器は柄ではない。しかし、今はそんなことを言っている場合ではなかった。


「矢の威力は向上してますよ」


 黒井は子供っぽく微笑んでいる。


「じゃあ、行こうか。二度目のタイダルドラゴン討伐」


「おう」


 六花の声に、三人の返事が重なった。

 檻が開き、扉が開く。

 ゴルトスが先頭に立って、前を歩いて行く。

 そして、それと遭遇した。

 タイダルドラゴン。

 その巨躯は、真っ直ぐに六花を狙って押し寄せてくる。

 それを、ゴルトスが阻んだ。


「歌世!」


「言われいでか!」


 詩世は飛びかかって、タイダルドラゴンの後頭部に剣を突き立てた。

 弾かれる。しかし、諦めずに二度三度と剣を突き立てていく。

 脳裏に蘇るのは、ここ暫くの間に敵を狩っていた貯金の日々。


「手の届く範囲で一番高い剣だ! 急所に届かなきゃ困る!」


 剣の半分が、敵の体に埋まった。しかし、その時、歌世はタイダルドラゴンの体に弾かれて、壁に叩きつけられていた。

 視界がぼやける。

 プレイヤーの佳代子にダメージが行ったわけではない。歌世の視界がぼやけているのだ。。


「しまった……」


 タイダルドラゴンの下方に魔法陣が浮かび上がる。

 負けるのか? 自分の失態で? そんなのは嫌だ。

 その時、六花が叫んだ。


「黒井君、ピンポイントショットでゴルトスの右手を狙って!」


「けど、ゴルトスさんを狙っても……」


「いいから、早く!」


 ゴルトスが、薄っすらと笑った。


「なるほどな」


 六花とゴルトスは通じ合っている。

 黒井と歌世は視線を交わした。

 歌世は、一つ頷いた。

 ピンポイントショットが放たれる。それは、ゴルトスの右手がそれまで支えていたタイダルドラゴンの口に命中した。それが、一時的にタイダルドラゴンを押したようだった。

 ゴルトスの右手は高々と掲げられている。

 その手には、斧が掴まれていた。


「喰らいやがれ!」


 斧が光り輝き、タイダルドラゴンに叩きつけられている剣を叩きつけた。まるで、釘をとんかちで打つかのように。

 タイダルドラゴンが苦しげにうめき声をあげる。しかし、まだ死なない。

 波が放たれる。ゴルトスも、黒井も、六花も、流されていく。

 しかし、歌世は跳躍して、それを回避していた。壁を蹴って、さらに跳躍する。


「しつこいよ、あんた!」


 鞘を、剣に叩きつける。

 何かが、ひび割れる音がした。

 タイダルドラゴンに刺さっていた剣が、音を立てて、ひび割れていた。

 歌世は真っ青になる。

 これで終わりか。

 そう思った瞬間、波が消えた。


 タイダルドラゴンは空中で身を捩り、苦しげに呻いている。その体が、ひび割れて消えて行った。


「……致命傷を与えたの?」


「ジャンプして壁を蹴って猿か、お前は」


 歩み寄ってきたゴルトスが、呆れたように言う。

 歌世は、眉間にしわを寄せる。


「凄いプレイですよ、歌世ねーさん。エッグの操作性でも壁蹴りで敵を狙うなんてウルトラテクだ」


「そ? やってみたら案外簡単にできた」


「どういう反射神経してるんだか」


「あー、ゴルトス。私の全財産かけた剣が折れたんだけど。弁償してくれるんでしょうね」


「とどめを刺したのはお前だ」


 その時、六花が、皆の前を通り過ぎて歩いて行った。

 そこには、タイダルドラゴンが消えた後、黄金の玉が浮いている。

 それが、六花の中に吸い込まれた。

 そのとたん、六花の体が勢い良く発光し始めた。


「選ばれし者よ」


 天から声が響く。


「資質を見せましたね。貴女は人を率いるに相応しい人間であるようです。その力を、けして悪い方向に向けないように」


 六花の体の発光が消えて行く。

 彼女は振り向くと、微笑んだ。


「帰ろっか」


「そうだな」


「帰ろうか、私達のホームへ」


 しばらく帰っていない港町。そこに思いを馳せて、歌世は頬を緩めた。

 そして、ふと思い出すのだ。


「あの長い道、また歩くの?」


「帰るまでが遠足だよ、歌世ちゃん」


 六花は飄々としていた。



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



 帰る前に、酒場の路地裏でダインと少し話をした。


「世話になったね、なんでもできることがあったら言ってよ」


「貸しにしとく」


「そうだね。今すぴんかんだし、できることは実はないんだ」


「四人でタイダルドラゴンを倒すような精鋭とツテができたんだ。それで良しとしておくよ」


 そう言って、ダインは去って行った。

 リアルサイドの佳代子としては、卒業式があった。

 なんだか、あっという間の出来事だったように思う。

 エッグとの出会い。刺激を得た日常。六花達との出会いに、タイダルドラゴンとの激闘。

 ゴルトスの言葉が、不意に脳裏に蘇った。


「出会いには二種類ある。一つは、終わった時に痛みしかもたらさないもの。もう一つは、終わった後も温かい記憶として残るものだ。今回は前者でしかなかったということだろう」


 温かい記憶が、今、一杯ある。

 六花達との出会いも、終わった後に温かい記憶として残るものになるようにしたい。

 佳代子は、強くそう思った。


 大丈夫だと思う。

 だってもう、佳代子は彼らのことを大好きだからだ。ゴルトスに関しては手放しに好きとは言い難いが、憎めない奴だと思っている。

 これからの大学生活も合わせて、充実した毎日が待っていそうな予感を、佳代子は抱いた。


次回、『神様の匙加減』

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