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二話 首都 ~色々な初めて~

「途方も無いなあ」


 二時間ほど歩いて、やっと森を抜けて荒野に出た。

 歌世は、思わず零すように言っていた。

 黒井が揶揄するように声をかける。


「歌世ねーさんもうギブアップですかい」


「歩くだけってのは退屈だ。風景が変わってやっと気分転換って感じかな」


「首都は遠いからなあ。そろそろショートカットの道が見えてくるはずだが」


 ゴルトスの言葉に、歌世は耳を傾けた。


「ショートカットの道?」


「トロッコがあるのよ。それを使えば一気に首都に近づける」


「なるほどねえ。六花さんは物知りだなあ……眠くなってきた」


「ここでログアウトしたら次にログインした時に敵に囲まれて死ぬぞ」


 そう言いつつ、ゴルトスは襲ってくる木の人形に斧を叩きつけた。


「旅ってのも不便なもんだねえ」


「アップデートで改善される予定らしいよ。何しろマップが広すぎる」


 ワープのような手段ができるのだろうか。六花の言葉で、歌世はそれを空想する。


「それも風情がないような」


「勝手な奴」


 呆れたように言うゴルトスだった。


「えー、自己中なんでね。悪いね」


「無駄口叩いてないで、見えてきたぞ」


 ゴルトスの言葉で、歌世は前を見た。確かに、トロッコが見える。そして、トロッコの周囲にたむろしている四人組も。

 嫌な予感がした歌世だった。


「トロッコ、使わせてもらうね」


 六花が、微笑んで前を歩いて行く。


「千五百払ってもらおうか」


 四人組の一人が、口を開いた。


「皆の公共物を独占するのか?」


 黒井が不快げに口を開く。その手に、短刀が握られている。

 一斉に四人組が武器を構えた。


「いや、いやいや、そういうクエストなんだよ」


「近隣のモンスター討伐の報酬としてしばらくトロッコの使用料金を徴収できる」


「俺達はクエストがリセットされるタイミングを確認するためにここにいるだけ」


「なるほど」


 六花は微笑んで、頷いた。


「とりあえず皆、武器をしまおう」


 六花の微笑みの圧力に屈して、黒井が短刀を鞘に収めた。それに応じて、四人組も武器を鞘に収める。


「一回で千五百かな?」


「一人千五百だ。良心的な値段だと思うがね」


 歌世は呆れてしまった。始めた当初の歌世の一日の稼ぎに比肩するではないか、と思う。

 六花は不可視のアイテムボックスから硬貨のつまった袋を取り出すと、トロッコに乗せた。硬貨が、消える。


「皆、乗ろう」


 六花の言葉に乗じて、皆、トロッコに乗っていく。


「では皆様、陸路の旅をお楽しみ下さい」


 四人組の一人が芝居ががった口調でいい、トロッコの傍にあったレバーを引いた。

 そして、ゆっくりと景色が動き始めた。

 風を切り、トロッコは進む。背筋が寒くなるような渓谷の上をも滑っていく。

 空を飛んでいるかのようだ、と歌世は思う。


「凄いなあ、まだまだ見てないものがあるのかなあ」


「まだまだ見てないものは一杯あると思うよ。首都がきっとその最たるものだよ」


 そう言って、六花は人差し指を立てた。

 まだ見ぬ首都。その期待感に、歌世は胸を膨らませた。


 しばし、間があった。


「そう言えば樟葉、インしなくなっちゃったんだって」


 歌世は、思い悩んでいることを打ち明けていた。

 樟葉がインしなくなったことと、自分の発言は、因果関係があったかのように思ってしまったのだ。少なくとも、それを語ったクロードはそうと言いたげだった。


「忘れることだ」


 ゴルトスは、淡々と言った。


「そう簡単に行くかよ。あんたは仲が悪かったからいいかもしれないけどさ」


「ざまあみろだ。悪は裁かれる」


 そう言ったのは、黒井だ。樟葉の評価はこちらサイドでは散々らしい。


「忘れることだ。出会いには二種類ある。一つは、終わった時に痛みしかもたらさないもの。もう一つは、終わった後も温かい記憶として残るものだ。今回は前者でしかなかったということだろう」


「二種類、かぁ……」


 歌世は小さくなる。

 終わった後も温もりを放つ出会いにする可能性はなかったのだろうか。


「慣れないと、辛いぞ」


 ゴルトスが言葉を続ける。


「オンラインゲームで引退する人はある日いきなりふらっと消えるからな。出会いと別れを繰り返す。それがオンラインゲームだ」


「先輩面しないでよね」


 歌世は鼻白む。


「事実先輩だ」


「ムカつくなあ……」


「ゴルトス、なんでそう歌世ちゃんには言葉を選ばないかなあ」


 六花が呆れたように言う。


「合わないんだ」


 ゴルトスが、溜息混じりに言う。


「溜息を吐きたいのはこっち」


「楽しくやろうよー」


「ねーさん達の喧嘩も見慣れたっちゃあ見慣れましたけどね」


「お前は喧嘩っぱや過ぎだ。さっき一番最初に武器を抜いたのは誰だ?」


 流れ弾が飛んできて黒井が思わず黙り込む。


「PKは?」


「もうしません」


「忘れないようにね」


 六花が、少し不安げに言う。

 黒井は依然として不安要素なのだった。



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



 首都の宿屋のベッドから道路を見下ろす。

 一面、人、人、人。首都の高い壁を見てからというもの、歌世は圧倒されっぱなしだ。

 この興奮を六花と分かち合いたいのだが、生憎彼女はクエストを進めに行ってしまった。


「歌世ねーさん。首都案内しましょうか?」


「あー……パス」


 黒井には未だに得体の知れないイメージがある。町がPKエリア外とは言えど、二人で歩くのは躊躇われた。

 かと言って、ゴルトスと二人きりというのも避けたいものがあったが。

 部屋には重い沈黙が漂っていた。


「ちょっと一人で首都観光してくるよ」


 歌世はそう言って、ベッドの上から飛び降りた。気分転換でもしなければやっていられない。


「迷子になるなよ」


 ゴルトスが言う。


「大通りに戻ってくれば看板でわかるさ」


 少し苛立ちながらも言い返して、歌世は部屋を出る。


「ゴルトスにーさん」


 黒井が早速ゴルトスに擦り寄っているのを背中に聞きながら、歌世は大通りに出る。

 人で一杯だった。物を売る人、買う人、通り過ぎる人、色々といる。

 ここがこの世界の中心。そんな、感動があった。

 弊害があった。小柄な歌世は、人混みの中では先が見えない。埋もれるようにして、四方八方を歩き、すっかり方向感覚を失ってしまった。


「ここは……何処だ……?」


 歌世は、思わず呟くように言う。


「おや、迷子かい」


 一人、気の良さそうな男が足を止めた。


「いや、迷子ではないよ」


「歩き方を見る感じ、ビギナーに見えたけれど」


 反論の言葉を失った歌世だった。確かに、歌世はビギナーだし、迷子だった。


「首都、案内してあげようか。何処に何があるかわかれば、小柄でも迷子にはならないだろう」


「本当?」


「本当、本当。よくやるんだ、俺。道案内。もう熟練の道先案内人だよ」


「じゃあ、城に案内して!」


「憩いの大樹とか噴水とか道具屋とか酒場とかすっとばしてお城? 変わってるね」


「友達が今、そこでギルド作成クエストを進めてるの」


「なるほど」


 男は、微笑んだ。


「じゃあ、友達に会いに行こうか」


「うん」


 上機嫌で、先を歩く男の後をついて行き始めた歌世だった。


「そこの看板が宿屋」


 歌世は背を伸ばしてそれを確認する。


「そこの看板が酒場」


「酒場?」


「パーティー募集する場所。今は閑散としてるよ。素早さ高めて一撃で仕留めれば良いゲームだからね、現状。ソロゲーさ」


「なるほどねえ。そういや、私の地元にもあったかなあ」


「あったと思うよ。ない町はないはずだ」


 そのうち、二人は大通りを抜けた。そして、大樹を見上げた。


「凄いでかいなあ」


「皆の憩いの場所、大樹だよ。デートスポットだね」


「ゲームでデート?」


「色々あるんだよ。ゲームの世界でもね」


 そう言って、男は苦笑した。

 そのまま大樹の横を抜けて、市街地を歩いて行く。

 そのうち、門が見えてきた。


「ああ、そうだ。城に入るにはクエストが必要なんだった」


「ええ」


 ここまで来ておいてそれはない。


「熟練の道先案内人だって言ったよね……」


「城に行きたいって人がそもそも珍しい」


「クエストの条件は?」


「敵のドロップアイテム収集」


「六花はどうやってクリアしてるのかなあ。水臭いなあ」


 少し憤慨してしまった歌世だった。


「前もってクリアしてたんじゃないのか?」


 それも尤もな意見だ。


「ありがとう。私は歌世。ギルドなしの、歌世」


「俺はダイン。フレンド登録しておくか。迷子になったら駆けつけられる」


「そのフレンド登録ってどうやるの?」


「相手を指差したら相手が枠どられて表示されるだろう? そこで親指ボタン長押ししたら、選択肢が出て来る」


 言われるがままに操作する。確かに、フレンドリスト追加の一文が出てきた。

 フレンドリスト追加の要請を送る。すぐに快諾された。


「よろしく、新しい友達さん」


「うん、こちらこそ、よろしくね」


 歌世は心が弾むのを感じた。新しい土地、新しい友達、新鮮な気分で一杯だった。


「あら、歌世ちゃん。こんなとこで何してるのかな」


 六花が門から出てきた。分厚い本を持っている。


「新しい友達ができたんだ」


「ダインと言います、よろしく」


「歌世ちゃんは社交的だねえ。まだビギナーだから、ビシバシ鍛えてあげてね」


「合点承知」


「それじゃあ、悪いけど行こうか、歌世ちゃん」


 そう言って、六花は心なしか硬い表情で歩き始める。


「? 何かあったの、六花さん」


「一番悪いクジを引いちゃったのよね……」


 そう言って、六花は顔を覆った。

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