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一話 ギルド結成 ~PKとの戦い~

 総勢八人が日差しを浴びながら歩いて行く。

 イグドラシルの世界はいつも昼間だ。それが変わることはない。

 ゴルトスは鎧と武器をアイテムボックスに移動させたらしく、軽装だ。

 どうなるんだろう、と思う。

 こんなややこしい状況、新参の歌世に対処できる範疇を越えている。


 そもそも、樟葉がどうしてゴルトスをそこまで嫌うのか歌世には理解できない。

 型の違いによる狩り方の不一致はあるし、歌世もゴルトスの主張を理解できているわけではない。

 ただ、そこまで嫌う必要性もないだろうなと思うのだ。


 ゴルトスは悪い人ではないと六花は言った。

 その通りだ。彼は歌世の為に武器を用意してくれたし、ギルド加入の原因も作ってくれた。

 ただ、マイペースなだけなのだ。


 そのうち、八人は洞窟の前に辿り着いた。


「出てくる敵の急所部位は額の中心部だ。人気のマップだから敵は次々に湧く。各々、乱獲しよう」


 ギルドマスターが気を取り直したように上機嫌で言う。

 この人はこの人で何処か呑気だなと歌世は思う。

 ギルドマスターがダンジョンの中に入っていく。湿った広い洞窟の景色が歌世の視界に広がった。

 全員に、移動力向上、攻撃力上昇のスキルが駆けられる。

 そして、五人が一斉に駆け出した。

 歌世も、慌てて後をついていく。


 目の前に敵が現れた。それを、一撃で屠る。新しい武器は伊達ではなかった。価格に見合った破壊力を与えてくれた。

 次々に敵が湧く。それを、ドロップアイテムを拾うのも後回しにして無我夢中で倒していく。

 敵の攻撃を次々に回避し、脳天目掛けて短剣を突き立てていく。

 そして、ふと思った。

 六花は、大丈夫なのか?

 こんな尋常な湧きではないダンジョンで置いて行かれている。誰かについて行っていれば良いのだが、素早さでついていける仲間達ではない。

 歌世はふと心配になって、六花を見に戻っていた。


 斧が一閃した。鎧に身を包んだゴルトスが、五体の敵を抱えながら、斧を振り回していた。強化されたその腕力は相手の肉体を粉々に破壊していく。

 ダメージを受けているが、それを白色の光が包んだ。

 六花のヒールだ。


「歌世ちゃん、支援スキル切れちゃった?」


 ゴルトスの暴れぶりを呆然として見ていた歌世は、その一言で我に返った。


「ううん、ちょっと、様子見に来ただけ」


「ここはゴルトスがいるから大丈夫だよ。歌世ちゃんも皆みたいに、駆け回って良いんだよ。それが素早さ型のメリットだからね」


「そっか、うん、わかったよ」


 なるほど、六花がゴルトスに味方していた理由がこれか。

 ゴルトスは、六花を守る騎士なのだ。その耐久力も、その攻撃力も、六花を守るために機能している。


(私はいても邪魔になるだけだなー……)


 そう思い、歌世は敵の探索に戻った。

 一時間ほど、会話をしながら狩った。敵の多さに疲弊してきたという声が増えてきて、解散しようかという声がちらほら出てきた。

 歌世は新しいダンジョンに集中しきっていたので、まだ余裕があるのだが、皆が帰りたいと言うなら仕方がない。

 ダンジョンを出て、皆、戦利品を地面に置いた。マスターがそれを拾っていく。


「一人だけやけに少ない人がいるね」


 樟葉が、嫌味のように言う。

 索敵も殲滅も素早さ型の方が速い。それが積み重なると、結構な差が出る。

 ゴルトスは、何も反論しない。面倒臭そうな表情をしている。


「そんなことばっかり言うなら、私、本当にギルド抜けるよ」


 六花が言う。


「蒸し返すなよ」


 ギルドマスターが面倒臭げに言う。


「いいえ、はっきりさせておきます。皆が散ってる間、私の護衛をしてくれてるのは誰? ゴルトスじゃない。ゴルトスがいなかったら、ギルド狩りだって成り立たないんだから」


「いなかったらいなかったで他の人が代役を担えばいいじゃない」


「いいえ、ゴルトスにしか出来ないわ。ゴルトスにしか無理よ」


「どうしてそんな鈍重な足手まといに拘るのか、理解に苦しむわ。好きなの? ゴルトスのことが」


 空気が強張った。


「ええ」


 六花は、堂々と答えた。


「友人として好きよ」


「あっそ。ヒーラー様様だね。依怙贔屓で足手まといを仲間に引き止めるなんて」


「それを言ったら、貴女は自分が満足できるように狩ってるだけじゃない。支援職を、ただの支援ロボットとしか見ていない」


 樟葉が表情を歪めた。

 その時だった。

 風を切る音がした。

 そして、歌世は自分のヒットポイントゲージが減少していることに気がついた。

 見ると、腕に矢が突き刺さっている。


 ゴルトスは盾をアイテムボックスから取り出して、装備していた。

 さらなる重量ペナルティ。ゴルトスの移動力はより鈍重になる。


「第二射、来るぞ!」


 ゴルトスが叫んだ。


「ヒーラーのもとに集まれ!」


 マスターが叫ぶ。


「逆だ、散れ!」


 ゴルトスが言ったが、遅かった。

 矢の雨が振ってきて、当たりどころの悪かった者は地面に倒れ伏した。

 そして、幾重もの声が重なって、見たこともないプレイヤー達が草むらから歌世達に向かって一斉に駆けてきていた。


「弓実装したって言ってたっけな……PKの良い玩具だ」


 ゴルトスが渋い顔で言う。


「PK?」


 歌世の問いに、六花が答えた。


「プレイヤーキラー。快楽殺人者の集団よ……」


 ヒーラーに向かって敵は一丸になって駆けてくる。

 ゴルトスの体が光を放ち始めた。

 盾を前に突き出して、ゴルトスの体が勢い良く前進する。スキルの補助を受けた高速移動だ。

 それに突き飛ばされて、四人の敵が倒れた。そのうち一人の顔面に、ゴルトスの斧が突き刺さった。


 後は、乱戦。

 歌世は六花を守ろうと、四方の敵を引きつける。

 味方を見ると、クロードとマスターが生きている程度で、他は地面に倒れ伏していた。


 素早さでは大体同格。しかし、相手は人間狩りに慣れている。パターン化された敵を相手にするのとは勝手が違う。戸惑いが、歌世の心を占めた。

 右腕が動かない。矢が刺さった影響だろう。慣れない左腕で、歌世は敵を相手にしていく。

 その時、白い光が歌世を包んだ。


「ヒールしたよ、歌世ちゃん!」


「ありがとう、六花さん!」


 矢が抜け落ちる。歌世は右手に短剣を持ち替えて、一撃で敵の首筋を断ち切った。


「強いね、あんた……」


 敵に、声をかけられた。まだ少年の声だ。


「レベル的には初心者だけど?」


「反射神経が卓越している。俺の仲間は、初心者にまぐれでやられるほど間抜けじゃない」


 そう言って、敵は短剣を構えた。


「皆、邪魔をしないでくれ。この獲物は、俺が倒す」


 そう楽しげに敵は宣言すると、歌世に躍りかかってきた。

 短剣と短剣がぶつかり合う。速度はやや相手が勝っている。けれども、そこまでの差は感じられない。

 弓を使うために新たに作ったキャラクターなのだろう。素早さ特化型との速度差は技術で補うと言う腹積もりか。

 短剣と短剣がぶつかりあって、火花を散らした。

 グローブを扱う佳代子の手が、いつの間にか汗で湿っていた。

 歌世は短剣を振るい続ける。

 その時、六花に敵が襲いかかっているのが見えて、歌世は硬直した。

 マスターとクロードは何をしているのだろうか。

 その敵を、ゴルトスの盾が弾いていった。

 安堵したのは一瞬。


「浮気すんなよ。寂しいじゃねえか!」


 敵が、叫んだ。

 敵の短剣が、歌世の胸元に吸い込まれていく。

 それが歌世には、スローモーションに見えていた。

 歌世は紙一重でそれを躱し、相手の首筋を断っていた。

 敵は、地面に倒れ伏す。


「うっそだろ? あこから負け?」


 敵が呆気に取られたように言う。

 ゴルトスはまだ他の敵と戦っている。歌世はその援護にまわった。

 残った敵が、体勢悪しと見て撤退していく。

 後に立っていたのは、歌世と、ゴルトスと、六花だった。


「やるじゃねえか」


 ゴルトスがそっぽを向いて、左腕を上げる。

 歌世はそれに、右腕をぶつけた。

 グローブを通じて、ゴルトスの腕の感触が佳代子に伝わった。

 こそばゆいような気持ちだった。


「耐久型も中々やるじゃん」


「狩りを潤滑にするために腕力にもかなり振っている。相手は弓を使うためにここ数日で作り直したキャラだ。まあ、順当にポイント差の勝ちだな」


「ばっかみたい!」


 場を凍らせる叫び声がした。

 樟葉の声だ。


「こんな無駄な戦闘にムキになって。逃げたクロードやマスターの方がよほど賢い選択をしてるわ」


 歌世は、思わず咄嗟に反論していた。


「逃げられたのだってゴルトスと六花さんが敵を引きつけてたおかげじゃないか!」


 樟葉は、呆気に取られたように黙り込む。


「そもそも何さ。型の違いぐらいで人を嫌って。樟葉の方がよっぽど子供みたいだ」


「歌世……あんた言ったわね。覚えてなさいよ……」


 そう言い残して、樟葉は消えて行った。セーブポイントに戻ったのだろう。

 成り行きを見守っていたギルドメンバー達も、襲い掛かってきた敵達も、姿を消していく。


「いいのか?」


 ゴルトスが、呆れたように言う。


「嫌われ者に味方して嫌われて」


「いいんだよ。今はとても良い気分なんだ。それに水を差したのが悪い」


「結局のところ、お前とは合わんな。俺と付き合っていけるのはこういう時に賢く立ち回れる奴だ」


「変なの。合わないって点に関しては同感だよ」


 二人して、笑っていた。

 六花が手を叩いた。良案を閃いたとばかりに。


「ね。私達でギルドを作りましょう」


「この三人でか……?」


 ゴルトスが、戸惑うように言う。


「仲良し三人組。良い案だと思うけれど」


「……私も今更戻れないなあ」


 自分の一時の衝動に任せた発言を、今更ながらに後悔した歌世だった。しかし、三人でギルドを作るというのは面白いかもしれない。

 ゴルトスは酷く嫌そうな顔をしていた。


「仲良し三人組って……こいつと俺が?」


「仲良く話してたじゃない」


 六花は呑気なものだ。


「まあ、それも良いかもな。責任は持てんが、六花ならギルドが崩壊しても拾い手はあるだろう」


「本当理屈っぽいね、あんた」


「合わんだろう」


「うん、合わない」


 なんだかおかしくなってしまって、歌世は声を上げて笑った。


「俺も入れてくれよ」


 足元から声がした。

 歌世とタイマンで戦っていた敵の声だ。

 まだ少年の可愛らしい声である。


「まずはギルドを作らないとな」


「ギルドの作り方ってどうやるの?」


「首都に行ってクエストを受ける必要がある。敵を倒す必要があったはずだ」


 ゴルトスと歌世は少年の声を無視して話を続ける。


「頼むよ。こんな実力派メンツが揃ってるなんて面白そうだ」


「人数必要かなあ」


「今時新規は珍しい。新しいギルメン募集は難航するだろうな」


「聞いてよ! 俺もギルドに入りたい! もうPKなんかしないからさ。今回だって、あんたらのギルメンに暴言吐く奴がいたのが悪かったんだぜ」


 六花が、少年のもとにしゃがみ込んだ。


「本当に、もうPKなんてしない?」


「しないしない!」


「六花……?」


「まさか……?」


「じゃあ、貴方も仲間に入ろうか。今日からは、PK無しだよ」


「ああ、約束だ!」


 六花が蘇生の呪文を唱えると、少年は立ち上がった。


「これで今日から俺も仲間だ、よろしくな!」


「ええ……」


「マジかよ……」


「一度仲間になったんだから、仲良くしてあげてね」


 六花は飄々としている。案外と、大物なのかもしれない。


「俺は黒井。PKギルドブラッククロウの元メンバー」


「私は六花。ヒーラーだよ」


 歌世とゴルトスは、互いの珍妙な表情を眺めて苦笑した。


「俺はゴルトス。タンカータイプの前衛だ」


「私は歌世。素早さ特化型の前衛」


「よろしくね」


 六花がそう言って微笑んで手を差し出した。

 そこに、黒井が手を重ねる。

 歌世も、ゴルトスも、仕方なく手を重ねる。


 こうして、先行き不安なギルドがここに仮発足したのだった。

 ギルド脱退の選択を問うパネルが浮かび上がる。

 悪いギルドではなかった。けれども、今日はお別れだ。

 歌世は、承諾ボタンに指を置いた。





次回、首都にて

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