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一話 ギルド結成 ~確執~

「ゴルトス? ちょっと浮いてるね」


「浮いてるねー」


 翌日、佳代子が起きたのは昼だった。深夜までギルドで会話を楽しんでいたのだ。それでも、食事を摂るとエッグに入ってしまうのだから、もう中毒症状にかかっているのではないかと思う。

 佳代子は歌世となって、イグドラシルの世界へと入って行く。


「浮いてる、ですか」


 気になっていたゴルトスの評価は、やはりと言った感じだった。

 話し相手になってくれているのは、クロードと樟葉。カップルらしく、寄り添って座っている。


「皆素早さに振って敵をサクサク狩ってるのに、耐久なんてステータスに振ってるからギルド狩りで足引っ張ってるんだよ」


「移動もノロマで、見てて苛々してくるね」


 これは素早さに振ったほうが無難そうだと歌世は考える。

 元々、素早さで劣勢を覆すキャラを作りたかったから既定路線に乗っただけとも言えるのだが。


「それにそもそもあの鈍重な外見と声が似合ってないし」


 樟葉は遠慮なくゴルトスの欠点を上げていく。

 どうも、樟葉はゴルトスが嫌いなようだ。

 歌世としては、そんな話を聞いていると、ギルド加入時の恩があるから彼に何処か後ろめたい気持ちを抱いてしまう。


「まあ、変な奴だよ。亜流なステ振りしてるのにギルド狩りには絶対ついてくるしな」


「ま、ギルド狩りは美味しいからねえ」 


「ギルド狩り、ですか」


「ギルドの皆で同じダンジョンに篭もるの。皆で敵をハイペースで倒してくから経験値はざっくざっく」


「ゴルトスだけは六花の周りをうろちょろしてて役に立たないけどねー」


 歌世は、ゴルトス批判から話を逸らそうと試みた。


「私も皆と組めるようになりたいなあ」


「すぐだよ、すぐ。キャラリセットが待ってるかもしれないのに廃人みたいな狩り方してる人は少ないし」


「レベル無茶苦茶高い人もいるけど、そういう人は別パーティーで組むかギルド狩りに来ないから」


「なるほど……そんじゃ、レベル上げに行ってきますかね」


「頑張ってー」


「がんばー」


 声に背を押されて、森の中に入る。

 町の出入り口を通りかかると、確かにギルドメンバー募集中の看板を立てた人々が何人か座っていた。

 βテストとは言え、結構な人数が参加しているようだ。


 歌世は素早さを上げた効果を早速実感していた。攻撃速度、振り返る速度、避ける速度、全てが上昇している。

 そのせいで、クリティカルヒットのタイミングがややずれたが、一撃も食らうことはない。

 念のために回復アイテムを買ったが、それも杞憂に終わりそうだ。

 次の武器は何を買おう、なんて考える。やはり短剣が良い。全てのスピードに対して重量ペナルティがかからない。


 まずは、貯金だった。敵を、一匹でも多く倒さなければならない。

 そんな中、ゴルトスを森の中で見かけた。

 鉄の鎧は、森に射す光の中で目立った。

 ゴルトスに敵が襲い掛かってくる。ゴルトスは、鈍重な動きでそれを回避、しなかった。

 噛みつかれながら、無理やり斧を振り下ろして敵を叩き切っていく。

 耐久力と腕力に任せた豪快な狩り方だった。


 ゴルトスは回復アイテムを飲む。


「勿体なくない?」


 歌世は、思わず声をかけていた。


「お前か。見てたのか」


 ゴルトスは、少し苦い顔になる。


「素早さを上げれば今の相手なんて簡単に避けれて、回復アイテムだって要らないよ。それなのに、武器と鎧の重量ペナルティと元々の素早さの低さで回避も出来なくなってる」


「クリティカルヒットさえ喰らわなければなんてことはないよ」


「なんでそんな変なステータスの伸ばし方をしてるの? 皆、変だって言ってるよ」


「俺はこれの他にもいくつかMMORPGやソシャゲをプレイしてきた」


 ゴルトスが、思いもしないことを言った。


「MMORPGもソシャゲも、至る所は一緒。敵の攻撃力も徐々にインフレしていくのがオンラインゲームだ。だから俺は、パーティープレイを考慮して耐久を伸ばしていくんだ。素早さ一辺倒のゲームは終わるよ」


 なんだか、面白くない。正論ではあるのだが、歌世のプレイスタイルを拒否されたような気分だった。


「けど、手数の多い素早さ型は、レベルが上がるのが速いしソロで生きていける」


「ああ、否定する気はないよ。俺はのんびり、その時を待つ」


 合わないな、と思った。

 耐久型が必要とされるようになるならば、その頃に別キャラで耐久型のキャラを育てれば良いのだ。

 それを、時代に逆らったことをやっている。

 この男とは、価値観が合わない。そう思った。


「合わないな、と思っただろう」


 ゴルトスは、ぼやくように言う。


「安心しろ。俺もお前みたいなビギナーのお嬢さんと合うとは思ってない」


 歌世は、彼に話しかけたことを後悔した。


「じゃ、勝手にしなよ! 私も、合わないと思ってるから」


 そう言って、歌世は踵を返してその場を去った。

 後には、感情を発露してしまったという気まずさだけが残った。

 溜まり場に戻ると、六花が暇そうに座っていた。


「こんにちは。さっきまでクロードさんと樟葉さんがいたんですけどね」


「こんにちは~。二人とも、私が苦手だから逃げてっちゃった」


「苦手?」


「私はゴルトスと仲良いからね。派閥みたいな感じになっちゃってるのね」


「なんであんなのと合うんですか?」


「私達支援職がパーティー職だからだね」


 そう、六花は穏やかに微笑んで言った。


「ゴルトスの狩り方は後衛の範囲攻撃、支援のヒールを前提にして組み立てられている。だから、支援職後衛職から見れば相性が良いんだよ」


「手間がかかるんじゃないですか?」


「手間がかかる子は可愛いって言うじゃない?」


 歌世には今一つ理解しがたい理屈だ。


「歌世ちゃん、レベル上げたいでしょう。支援してあげよっか」


「あ、お願いしますー」


 支援スキルの移動力向上スキルは快適だった。

 歌世は駆け回って、普段の倍近いペースで周囲の敵を殲滅した。


「ゴルトスのこと、悪く思わないでやって欲しいの」


 狼を軽々と回避しながら、ある時、六花が言った。

 歌世は、狼を倒して六花の安全を確保する。


「悪く思うなって言うか……拒絶されたんですが」


 あんな根暗男と仲良くする自信は歌世にはない。


「理屈っぽいけど良い人だよ、ゴルトスは。それに、優しいんだから。今はちょっと荒んでるだけで、ね」


 六花の語るゴルトスと、自身の見たゴルトスが脳裏で一致しない歌世だった。

 彼とはきっと、浅い付き合いになるのだろうな、とそう思う。


 六花とクロードと樟葉とは仲良くなった。

 そんな感じで、一週間は目まぐるしく過ぎていった。

 佳代子はある日、自習中に寝ていて、頬杖をついた肘が机からずり落ちて頭を打った。

 鈍い、鈍い音がした。


「大丈夫かー、佳代子ー」


「受験から解放された奴は良い身分だなー」


 やっかみ混じりのからかいが飛んでくる。

 自分が随分イグドラシルにはまっているのだな、とそう思わざるをえなかった。

 今日は、ついに新装備が買えるようになるタイミングなのだ。

 今までのペースで狩りをすれば、新しい短剣が買える。そうすれば、もっと難しいダンジョンにも挑戦できるはずだった。

 今の狩場は、敵がもう弱すぎる。強い武器を買えば、速度で撹乱して絶大な一撃で敵を確実に仕留められる。


 佳代子は、頭を打ったのも忘れて浮かれ気分で家に帰って、エッグを起動して、歌世となった。

 ゴルトス、六花、クロード、樟葉がインしていた。

 彼らは、大学生組らしかった。

 その時、歌世はゴルトスに声をかけられた。


「歌世さん、今、暇か?」


「暇ですけど」


「じゃあ、ちょっと用事がある。町の出入り口まで来てくれ」


「いいですけど……」


 自分から合わないと宣言しておいてなんだろう。そんなことを思いながら、歌世は足を進める。

 町の出入り口では、ゴルトスが待ち受けていた。


「これ、やるよ」


 そう言って、トレードパネルが表示される。

 ゴルトスの側に表示されたのは、あれほど欲しかった、新しい武器だった。


「クエストで敵のドロップを集めれば交換できるんだ。俺はもうそのクエストで必要な武器は手に入れたけど、あんたはそろそろ必要になるレベルだろう」


「そんな……貰えないよ」


「なんでだ? 合わないつったからか?」


「それも、あるけど……高いし」


「クエストでただで手に入れたと言ったが?」


 ゴルトスは面倒臭げに言う。

 それが、歌世の勘に触った。


「お礼用意できないし、いらない」


「初心者はありがたくもらっとけば良いんだよ」


「その初心者扱いが気に入らない。私だってもう結構ログインしてる」


「ああ、もう。お前とは合わんな。こういう時はありがとうで良いんだよ」


「私だってあんたとは合わない。なんでそんなに不器用なの? もっとスマートな渡し方があるでしょ。そうすりゃ私だってありがとうって素直に貰ってたわよ」


「面倒臭い奴……」


「その台詞、そのまま返すわよ」


 ゴルトスは面倒臭げにトレードパネルを消した。


「わかったよ。これは売って回復アイテムに変える」


「重量ペナルティなんてくらってるからダメージ受けるのよ」


「ふん」


「ふんっだ」


 結局、六花のとりなしがあっても、ゴルトスとは上手くいかないのだった。

 事件は、それから数日後に起こった。

 ギルド会議の時間のことだった。

 ギルド会議の後はギルド狩りだ。レベルも装備も、今の自分で出来る限り整えた。どんな楽しい狩りになるのだろうと、歌世は浮かれていた。

 待っていたのは、冷たい空気だった。


「私達、ゴルトスが参加するならもうギルド狩りに行きません」


 樟葉が言う。

 ギルドマスターは、渋い顔だ。

 六花が、立ち上がって言った。


「そういう心積もりなら、私はもうギルド狩りに参加しません」


 どよめきが起こる。


「それは困るよ。ヒーラーが参加してくれないとギルド狩りが成り立たなくなる」


「マスターもなんですか。あれだけゴルトスの重要性を話しておいてくれって言ったのに。こんな事態を招いて。それなら私、ギルド、抜けます」


「抜けるなら俺が抜けるよ」


 淡々とした口調で、それまで黙っていたゴルトスが口を開く。


「俺が抜ければ問題にはならないんだろ」


「ゴルトスが抜けるなら私も抜けるから」


 六花は強い意志を見せている。穏やかだった彼女の、強い意志。

 それに、歌世は戸惑った。


「お互い色々な気持ちはあるだろうけれど、ギルド狩りに一旦行ってみないか? 皆で楽しく狩れば、気分も変わるかもしれない」


「そんな、有耶無耶にして」


「私はゴルトスが参加するならついて行きません」


「だから俺が抜ければ良い話だよな」


「いいから!」


 ギルドマスターが、怒鳴るように言う。

 それで、皆、黙った。

 歌世は、戸惑うしかない。

 楽しみにしていたギルド狩り。それもどうやら一筋縄ではいかなくなりそうだ。

 主に、ゴルトスという異端者のせいで。





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