九話 神器の担い手 ~新天地へ~
ゴルトスは憔悴しきっていた。
新たに手に入れたアイテム、ミョルニル。その所有権を巡って、戦いに追われていたからだ。
ゴルトスは裏路地に隠れるように座っていた。
こうしていても事態が解決するわけではない。
いっそログアウトしてしまおうかとすら思う。
挑戦者がつめ寄せているのだから、それが賢明かもしれない。
「よっ」
声をかけられて、ゴルトスは肩を震わせる。
猫耳に猫のしっぽ、縦に細長いアーモンド型の瞳孔をした金の目が見えた。
「なんだ、歌世か」
そう言って、胸を撫で下ろす。
「自由に話せて誰も邪魔しない、ダンジョンがあって狩りにも行ける。そんな場所に行きたくないかい」
「行けるものなら行きたいね。雑魚を諦めさせようと固有スキルの雷光を使ってからと言うもの、めっきり挑戦者が増えた」
「導いてあげようじゃないか、私が」
そう言って、歌世がメダルをゴルトスの手に落とす。
ゴルトスは目を丸くした。
スピリタスの城への入場許可証だ。期限は三年後までとなっている。
「歌世!」
「おう」
「お前は親友だよ!」
そう言って、思わず歌世を抱きしめていた。
「ちょっとちょっと恵一さん。つーか固有スキル使ったのってかなりヤバかったからね。イグドラシルオンラインの録画機能が生きていたら危なかったとこだ」
「ああ、もう迂闊なことはしないさ! 行こう、スピリタスの城へ!」
「はい、これ貸したげるから。明日の昼にでも移動しなよ」
そう言って、歌世は顔を隠すフード付きのローブを貸してくれた。
「感謝するぜ!」
そうして、スピリタスの城に四人の珍客が増えた。
歌世、ゴルトス、ヤツハ、シュバルツ。
四人共、スピリタスの黎明期を影で支えた存在となった。
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「歌世さん、狩り、行かないんですか?」
ある日、ヤツハがそう尋ねてきた。
「あー、そうだねえ。最近は対人して満足って側面もあるしねえ。これでもちまちま狩りに行ってるよ」
「城内のダンジョンですか?」
「カラウッド」
「わざわざ外のダンジョンまで足を運んでるんですか」
ヤツハは呆れたように言う。
「私のステータスで最適な狩場はあこさね。私はゴルトスと違って追われてないからね。自由に行き来できるのさ。最近はイグドラシルオンラインもソロに甘い」
「いや、あこ普通ソロじゃ行けない場所ですからね。歌世さんが特殊すぎるんですよ」
「そうかな」
「そうですよ」
「まあ、私は私の好きにやる」
「一緒に狩り、行きましょうよ」
「ゴルトスシュバルツヤツハで十分に戦えるじゃないか。イグドラシルもある」
「それもそうですけどお……」
神器を使うことに抵抗があるのだ、とは言えなかった。
「それにしても、ヤツハもレベル伸びたねえ。私と組めるほどだもん」
「レベル高くなるほど公平圏も伸びますからね、このゲーム」
「追い抜かれないようにレベル上げに行くかぁ」
「歌世さーん。だから一緒に行きましょうってー」
「無理して誘わない」
現れたシュバルツが、たしなめるように言う。
「だってえ……」
「悪いね、シュバルツ。じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
「行ってらっしゃい、歌世さん」
シュバルツはいつから敬語になっただろう。それも、思い出せない。
それほど、四人は一緒にいるのが当たり前になっていた。
次回『そして世界は回っていく』
六花再登場回です。




