九話 神器の担い手 ~一対多の戦い~
傭兵は給料が出ない。消耗品代としてある程度の金額をもらえるだけだ。
歌世は、グリーンロッドというギルドに傭兵として所属して、スピリタスの城を攻めることにした。
城の正門を守る敵ギルドの守備部隊と、攻めようとする自分の攻撃部隊が接近する。
「五……」
魔術師が魔術の詠唱を始める。
「四……」
前衛部隊が槍の穂先を整える。
「三……」
弓部隊が矢をつがえる。
「二……」
歌世は銀色の短剣を、強く握りしめる。
「一……」
そして、盛大な魔術合戦で勝負は幕を開けた。
一瞬でヒットポイントが危険域に達する。
歌世は回復アイテムをがぶ飲みしてどうにか即死は免れた。
(まいったな……力の値がそんなにないから回復アイテムもそんなに持てないんだよな)
正門からの突破は早々に諦める。
そして、側面から攻めることにした。
自分を狙う矢を置き去りにして歌世は駆ける。
そして、地面を蹴って、壁を蹴って、矢を斬り払い、城の上層部に躍り出る。
「化物……」
怯えたように言う弓兵を、一瞬で斬って捨てた。
「傭兵が血路を開いたぞ! 遊撃部隊、進め!」
歌世はインターネットブラウザを開いて城のマップを解説したサイトを開く。
玉座の間。それが恐らく敵の大将がいる場所。
そう思った次の瞬間、太い両手剣に襲いかかられているのを察知して歌世は跳躍した。
「嫌な予感がしてたんだ。城の中にいて良かったぜ」
城の塀のギリギリに着地して、歌世は辛うじてバランスを整える。
その隙にも、自分の後を追ってやって来た味方部隊が斬り倒されていく。
歌世は再び跳躍して、相手に斬りかかった。
力の値が違いすぎる。歌世は跳ね飛ばされるしかない。
「俺の名は龍一! スピリタスに俺がいるうちはリヴィアに近づかせねえ!」
歌世は一旦、城の外に着地した。
落下ダメージが入る。ヒットポイントは再び危険域。回復アイテムをがぶ飲みする。
そして、再び壁を蹴って跳躍した。
龍一は前に出ている。そして、剣を振った。
その剣に、歌世は抱きついた。
ダメージが少し入るが、構ってはいられない。
「やる!」
龍一が、剣を振る。歌世はそれを手放して、城の上層部に着地した。
「お前さん、一体何者だ? その能力で無名ってのは信じられねえぜ」
龍一はそう言って剣を構える。
歌世も、短剣を構えて腰を落とした。
「猫耳、猫のしっぽ、そんな対人舐めた装備で参戦してる奴の名前も聞いたことがねえ。なんかの罰ゲームか?」
「これは、私のトレードマークだ。私には、速度さえあればいい!」
「スピード馬鹿か。嫌いじゃないぜ、そういうの」
そう言って、龍一は剣を振り上げて前進した。
その首筋に、歌世は狙いを絞った。
一瞬で歌世はトップスピードに乗る。そして、銀の短剣を喉元へと滑らせる。
しかし、回避された。
「リーチが短い。際どいが回避はできる。しかし反撃の術がないとなると……俺はここに釘付けか」
龍一は何故か楽しそうに微笑んでいる。
歌世は戸惑っていた。トップスピードに乗った自分の攻撃が回避されたことなんて初めてだ。
強い人間がこの世界にはまだまだいる。それが、実感として伸し掛かってくる。
歌世は、秘策を使うことにした。
懐から球を取り出し、地面に叩きつける。
とたんに、煙が舞い上がった。
煙玉だ。
「卑怯だぞ! かかってこい!」
そう言う龍一を尻目に、歌世は城の内部へと入っていった。
リヴィアはあれ以上に強いのだろうか。そう思うと、多少不安だった。
龍一に呼ばれたのだろう。城の中には敵兵が沢山いた。
その中に割って入って、銀の短剣を振る。
血飛沫が上がり、兵が倒れた。
槍兵部隊が隊列を整えて騎士スキルのチャージを使う。
それを、ジャンプして、天井を蹴ってやり過ごす。
しかし、落下の瞬間を狙われた。回避したつもりが、剣の一本が胴体に突き刺さる。振り返ると、龍一が剣を投じたようだった。
「おめえさんよ。一人じゃ流石に無理だよ、無理」
そう言って駆けて来た龍一に、歌世は首をはねられた。
そして、セーブポイントで完全回復した状態で復帰する。
「……やっぱ一人じゃ無理かあ」
そう言って、伸びをする。
龍一、尋常な使い手ではなかった。あれに一対多で勝負を挑むのは無謀だ。
「すまん、ゴルトス」
回復アイテムの使い過ぎで収支はマイナス。グリーンロッドはスピリタスに敗退した。




