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一話 ギルド結成 ~出会い~

「どうだ、面白かったか? イグドラシルオンライン」


「中々かな」


 東助との電話ははずみにはずんだ。

 エッグでの臨場感、細かい操作による敵の撃破の快感。着実に貯まっていくお金。それを語っているだけで、時間は飛ぶように過ぎた。


「ステータスって、どう割り振れば良いのかな?」


「技量か素早さだな」


 東助は、即座に答えた。


「素早ければ回復アイテムを使わずに敵を倒せるし、キャラの技量が高ければクリティカルヒットの判定や受け流しの判定に補正がかかる」


「やってみた感じ、技量は必要ないかなぁ……」


「クリティカルヒット、出せたら便利だぞ」


「大体の敵はクリティカルヒットでやっつけたよ」


「ステータス初期値のキャラでそんなことできるかよ」


 東助はまったく信じていない様子だ。本当なのになあと佳代子は思う。


「本当だとしたら、反射神経と動体視力の化け物だ。お前、化け物か?」


「一般人だよ」


「ほらな」


 スポーツでもやっていれば良かったかな。そんなことを今更ながらに思う佳代子だった。


「あと、ギルドに入れよ」


「ギルド?」


「友達同士の集団みたいなもんだよ。ギルドマスターに仲間に入れてもらって、ギルドのメンバーと交流できる。遠距離にいても会話ができて情報交換できるってメリットがある」


「へええ」


「俺のギルドに入れてやってもいいぜ」


「遠慮します」


 顔見知りのギルドというのは中々にやり辛そうだ。それも、相手が親戚となれば尚更。


「エッグを奢ってやったのに薄情なやつだなあ」


「それに関しては感謝してるよ。ギルド、探してみる」


 幸い、明日は休日だ。友達は受験勉強に大忙しだし、佳代子には時間がある。

 その日、佳代子は中々寝付けなかった。興奮しているのだ、と感じていた。

 そのまま、寝付けずに、エッグの中へと潜り込んだ。


 深夜でも、イグドラシルの世界は昼間だ。その眩しさに、一瞬目を細める。

 まずは、ギルドだ。

 道行く人を捕まえて、聞くことにした。

 捕まったのは、大柄で壮年のアバターをした男だった。鎧を着込んでいて、額に傷がある。将軍、だなんてあだ名が似合いそうだなと佳代子は思う。


「すいません、ギルド募集って何処でやってるんですか?」


「ギルド、探してるの?」


 豪快な外見に似合わぬ細い声だった。

 そのギャップに一瞬戸惑いながらも、佳代子は言葉を続ける。


「はい、そうなんです」


「なら、うちに来たらどうかしら?」


 将軍の連れの女性が声を上げる。


「本当ですか?」


「六花、ギルドマスターに案内してやってくれるか。俺は、適当にそこらをぶらついてる」


「ゴルトスも一緒に来れば良いのに」


「俺の紹介だって知られたら印象悪くなるだろ」


「もう、ゴルトス」


 六花と呼ばれた女性が、困ったような表情になる。


「それじゃあな」


 そう言って、ゴルトスと呼ばれた男は去って行ってしまった。

 六花が、そこには残る。


「じゃあ、私がギルドの溜まり場に案内するね」


 聞く者の警戒心を解くかのような、穏やかな声の女性だった。佳代子は、思わず表情を緩める。


「はい、お願いします」


「名前は? 私は、六花。漢字の六に花と書いてりっか」


「歌う世界と書いてうたよです」


「初めて何日?」


「初日です」


「あら、ビギナーさんなんだね。大丈夫だよ、なんでも教えてあげるから」


「じゃあ、聞いていいですか?」


「なあに?」


「ギルドってなんですか? どんな感じなんですか?」


「交流しやすいシステム、かなぁ。入ればギルドメンバー同士で遠距離で会話できるし、楽しいよ」


 東助の言っていた通りのシステムらしかった。


「ほら、着いた」


 そう言って連れてこられたのは、果物屋の前だ。地べたに、一人の軽装の男が座っている。


「六花さん。彼女は?」


「新しいギルドメンバーです。枠、まだ空いてるでしょ?」


「空いてるぜ。いいよ。募集する手間が省けた。我がギルド、ジャックポッドへようこそ」


 ジャックポッドからギルドのお誘いがありました。と書かれたパネルが目の前に浮かび上がる。

 佳代子は、そのパネルの承諾ボタンを押した。パネルが消える。

 軽装の男が、立ち上がる。口が閉じたままなのに、彼の声が響いた。


「皆、新しいメンバーだ」


「よろしくー」


「よろろー」


「よろしくねー」


「よろしくお願いします」


 周囲に人がいないのに、あちこちから声が飛んでくる。淡々としたゴルトスの声もある。これが遠距離会話システムか、と佳代子は理解する。


「よろしくお願いしますー」


 そう言って、佳代子は歌世に頭を下げさせた。


「歌世ちゃん、全体通話モードになってないなってない」


 六花が慌てて声をかけてくる。


「え? え?」


「全体通話モードは左手の小指のボタンを押しながら会話だよ」


「なるほど! すいません、全体通話モードがわかんなくて遅れました。よろしくお願いします」


「初心者さんなんだねー」


「皆ベテランだから安心して良いよ」


「ベテランも何も半年足らずだけどね」


 半年、か。と佳代子は思う。ゲームにおいては、長い時間だ。


「皆さんに追いつくまで時間がかかるでしょうけど、よろしくお願いします」


「気長にやろうー」


「ネトゲは人生狂うから危ない」


「まあ、言っても僕らこのゲームにどっぷりですけどね。βテストのアイテムやキャラクターって持ち越されるんですかね」


「持ち越しなかったらやめるなー」


「まあまあ」


「続けようよ。すぐだよすぐ」


 それは六花の声だった。

 賑やかで、あっという間に会話から取り残されてしまった。

 これがギルドか。この輪の中に入りたい。佳代子は、そう強く思った。


「それに、もうすぐ弓が実装されると聞くよ。別キャラ育成になる人も多いんじゃない?」


 六花が、続けて言う。


「弓かぁ……」


「遠距離攻撃だからね。バランス調整に期待したいね。初期魔術師みたいなぶっ壊れにならなければ良いけど」


「調整の煽りを食らって今や弱職ですけどね、魔術師。なんで詠唱なんてあるんだろう」 


「皆で素早さに振って斬れば良いじゃん」


 賑やかだ。

 そんな中で、ゴルトスは沈黙を保っている。黙々と狩りをしているのかもしれない。

 彼のことが、少し気になった佳代子だった。


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