9
魔法の発動には、魔力を一カ所に集め(例えば指先とか掌)呪文を詠唱しながら相手に集中して行う。集められる魔力の大きさで、威力も変化する。この長い呪文の中で、集中力を切らさないのだから、そこは凄く評価したい。
『魔力集めなくていいからね、呪文の内容が分かればいいから』
ミリパナが、長ったらしい言葉を唱え始めるのを、聞き逃さないよう俺も集中する。そもそもこの世界の言葉を、違和感なく自然に理解出来ている。日本語なのかそうじゃないのかの判断がつかない。だけど文字が読めるのかまでは分からない。
ミリパナが発する言葉を聞きながら、俺も集中して記憶していく。だけど、長すぎて途中で挫折。さすがに覚えきれない。こりゃだめだ。ミリパナよく覚えたな。
作戦変更。そういえば、雑貨屋のおっさんが、「本を見ながらでも……」とか、いってたよな。
『本は何処にある?』
「雑貨屋にある」
なんだ、振り出しに戻っちゃったな。また、金がいるのか……とほほ。
『また金が必要になるから、稼ぎに行こう』
「本買うの?あれも高価だよ」
だと思った。安いものなんてないのに違いない。結局たいした進展がなく、コピーが上手くいっただけの、長い一日だった。
翌朝、朝飯を食べて狩りに出掛けた。俺は身体が無いから、体力は必要ない。ミリパナにあーしろこーしろと、言ってるだけで良い。ミリパナは、それを苦にした様子もなく従ってくれる。まぁ無理なことや無駄なことを言ってるわけじゃないので、文句も言わないんだろう。
小物を狩っても、ミリパナの実入りは、精々一日に銀貨二枚程度にしかならない。食べて行くだけなら何の問題もない。目標は本の購入。恐らく金貨三枚は必要らしい。遠い、遠すぎる。こんなときに限ってインバクタも、カロミケスも出ない。俺は漢字が適度に手に入ってホクホクなんだけど、そして十日が過ぎた。
『なぁ、ダンジョンは稼げないのか?』
「無理、無理、無理むりむりむぅりぃ」
『浅い層を試すだけなら良くないか?』
「無理だってぇ」
『ミリパナの魔法だって、威力が増したんだし、俺も攻撃出来るようになったんだぞ』
「ん、それはそうだけど、自信ないし、独りなんだよ。それに中は迷路になってて、迷ったら出て来られなくなるって、冒険者達が話してた」
『大丈夫!みんな大袈裟に言ってるだけだ』
「でもぉ……」
『行かなきゃいつまでたっても、自信にならないぞ』
「……」
『経験しなきゃ始まらないじゃないか』
「ゎかった……」
ミリパナの住んでいる場所からすぐの岩場に、ポッカリ黒い穴を開けたダンジョンがあった。
『こんな近くにあったのか』
近くにあるのに、ちょっと覗いてみるとか、そんな誘惑に誘われなかったんだろうか。猫だけに、臆病なところがあるのか?地上でそんな素振りはなかったけどな。
元々が鉱山なだけに、間口も高さもある。入口から離れるとほぼ真っ暗闇だけど、猫の目はそれをものともしない。途中に枝分かれの狭い通路があったが、広い通路を選択している。ミリパナの腰が退けてるのが滑稽だ。
暗闇に光る目があった。
「ヒェェー何か向かってくる!」
悲鳴に近い声で警告を発したが、戦闘に備えて、いつでも動けるように身体をリラックスさせる。弓に矢をつがえ呼吸を整えると、狙いを定める。あんなに嫌がっていたのに、いざとなれば落ち着いて対処出来る。四つ脚の牛のような顔をしたトカゲで全身が鱗に覆われている。頭には三本の角が額から後頭部に縦に並んでいる。
こちらが弓を構えているのが分かるのか、走り出すとジグザグに動き始め、スピードに載せて一気に間を詰めてくる。ミリパナはゆっくりと弦を引く。ヴィンという音と共に矢が飛んでいく。息つく間もなく、二本目も飛んでいった。一本は魔物を掠るように外れたが、二本目は魔物の目を射抜いた。それでも怯まず突っ込んでくるのを、横に飛んで避けながら剣鉈を薙ぎ払う。しかし鱗に傷を付けたのみで、ダメージを与えられなかった。横に飛んだ時には、呪文の詠唱を開始している。
魔物はズザザザーと足を滑らせ、方向を変えると再び向かってきた。俺は『転』を使った。前脚が折り畳んで前のめりに転がると、縦に回転してひっくり返った。しかし、素早く起き上がり体勢を立て直す。その間にミリパナは魔物の後ろに移動していた。相手を見失って躊躇っている。大きな身体を廻すのに合わせるように、ミリパナは後ろを離れないで時間を稼ぎ出し、魔法を発射した。
「やったー!」
魔物は、後ろから背骨に沿って後頭部に直撃した水弾で、息絶えた。
『やったな!フィールドの魔物との違いが良く分からんのだが?』
「まだ入口付近だからね。でも魔力袋は大きいんだよ」
基本単独なので、革や肉は持ち帰らない。この魔物はナックといって、突進して来るだけなので扱い安いらしい。実は偶にフィールドに出てくるので、戦ったことはあるらしい。ただ、ミリパナの実力では倒せないので、もっぱら罠で仕留めるということだ。
傷付けないように、魔力袋を取り出したあと、角も色々使い道があるので切り取っておく。亡骸はこのまま放置しておけば、シグリ達(屍肉や腐肉を食べるネズミ)が食べてくれる。帰り道に残ったウロコを集めて帰るという段取りだ。俺の戦利品は『動20』だった。
文章が稚拙で、支離滅裂な部分があったり、説明不足だったりしているかもしれません。
申し訳ないです。でも懲りずに読んでね。
誤字脱字などありましたらお知らせください。
お読み頂きありがとうございます。