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皮を鞣す作業かなりな力仕事だし、半端ない根気と臭いが伴う。皮の裏側の脂肪と蛋白質を除去していく。除去が終わると、ザポンの実(界面活性剤)で洗い流すことで臭みを消します。皮を広げて板に固定したら、脳味噌を砕いて温めたものを塗り、しばらく放置します。塗った皮を洗い軽く絞って生乾きになるまで乾かし、先を丸めた杭に当てて引っ張り伸ばすと、柔らかい鞣し革になるわけです。脳味噌って臭いんだよ。嗅いだことないけど……。
この作業を錬金術で出来れば、ミリパナは楽になるし時間も節約できる。今は無理だけど、漢字次第でなんとかなれば良いな。
「あたしのお金ほとんど無くなったんだけど、どうにかなるんでしょうね?!」
かなりお怒りのようです。
『あはは、申し訳ない。なるようになるんじゃないかな。また、狩りに行って稼ごう。それよりさ、さっき買ってきたミスリル見せてよ』
「話を逸らそうとして……え!!何これ?」
袋に手を入れて金属板を取り出した、ミリパナの表情が固まった。
「あたし間違えて持って来ちゃった」
『間違えてないよ。それが買ったやつだからね』
ミスリル板の表面には、読めない文字が……雑貨屋のマンガナホンに見せてもらったカードと、同じ様に書かれていた。
「どうしてぇ、どゆことぉ、なんでなのぉ?」
確信はなかった。ミリパナには無駄遣いさせてしまったかもしれない。だけど検証はしたかった。実は密かにミリパナの使っている、剣鉈で試してみた。ダメだった。『写』の使い道。これは、写すってこと、所謂複写のことだと思った。オリジナルに対して同じ物を作る、ならば剣鉈を増やせる?まぁ結果は駄目だった。よく考えてみれば、無から有が生み出せるわけがない。複写機は紙に文字を写してくれる、取り敢えず文字を写すなら、カードに書いてあるという文字をコピーすれば良いかもしれない、そう思った。他に文字が書いてあるものが思いつかないんだから、ミスリルを買って写してみるしかない。羊皮紙でも可能だったかもしれないけど、それでは本当に写すだけになってしまう。どうせなら使えるようにしたいよね。
この世界にコピーという概念があれば説明も簡単だったけど、ミリパナは、説明しても分からないようだ。兎に角、同じ文字を写してくれる、魔法ということで納得してもらった。
『それじゃ、そのカードが使えるか確かめてみよう』
「分かった」
ミリパナがカードを手のひらに乗せ、そこに手を重ねて目を閉じた。
何も起こらない。こういう場合、光って発動したみたいな……くそう、やはりそんな上手く行かないわな。漫画やアニメじゃないんだ、見た目の演出なんて必要ないんだ。あくまでもこの世界では、実用的に使うのが魔法なのであって、そんな派手だったらいちいち邪魔だしな。使ったのがバレバレじゃ話にならないよな。ミリパナには、大金無駄遣いさせてしまった。頑張って魔物狩って取り戻そう。
「どうしたの?返事してよ。あたしのなかのひと」
『あ、あぁすまんかった。無駄遣いさせちゃったな……』
「何言ってんの?」
『ほら、大金使ったのに、何も分からなかったからさ、申し訳ないって思ってさ』
「えーあたしの魔力凄かったよ」
『うん、魔力はまた別の方法で、、、な、なに?魔力計れたのか?!』
「うん。ちゃんとわかった。あたしのなかのひとの魔法凄いねぇ」
『いや、俺の名前は遠山一郎なんだけど、言ってなかったか?』
「なんか、前に計った時よりたくさんあったよ。どうしてこんなに増えたんだろう?」
たくさんって、あぁそうか文字が読めないんだったな。というか、どんな風に表示されてるんだろう。具体的に数値だと分かり易いけど、ミリパナみたいに文盲な人が沢山いたら読めないわな。
恐らく元々あったミリパナの魔力に、俺の魔力が上乗せされたんだろう。それと『増』の影響もあるだろうし。水弾(水玉では余りにも弱々しいのでこちらにします。前話などの表記は元々弱々しいことを強調したいので、そのままとします。)の威力が半端ないのも、魔力が多いせいだろう。だからミリパナが新たに魔法を習得するようならば、強力なものになる可能性がある。
問題は、呪文の長さだ。推測ではあるが、この世界には玉はあっても、弾はないんだろう。要するにイメージが足りないので、説明が呪文に組み込まれているんだと思われる。なので説明を無くしてしまえば、ずっと短くなるんじゃないだろうか。イメージが出来てしまえば、無詠唱も可能性がある。その呪文を羊皮紙に書いてもらって、添削すれば出来そうな気がする。俺にその文字が読めれば、なにしろカードの件があったからね。羊皮紙も高価なんだろうかな……高価なんだと思ってたほうが良いな。
「ねぇねぇ、あたしのなかのひと」
『だから遠山一郎だよ!たぶん俺の分だけ増えた、その魔力が増えたから、魔法の威力も増したと思う』
「そうなんだ」
『でもな、呪文が長すぎて使い物には程遠いんだわな』
「そんなのあたしのせいじゃないもん」
『この世界で使ってる文字は、どこで見られる?いや、ちょっと待てよ。呪文って意味なんか関係なく、唱えりゃいいんだよな?唱えてみてくれ』
無双はその内するかもしれないという夢想。
適切な漢字が使えてるのか、はなはだ怪しいけど、読んでね。