表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねこのなかのひと  作者: ままこたれこ
4/25

4

 弦が弾けると、ヒュンと音を残して一直線に矢が飛んでゆく。パスッという音と共に、キュウという動物のらしくない断末魔の叫びで、仕留めたことがわかる。矢は見事に 巻兎ラビホップの頭を貫通していた。今日5羽目の獲物だ。首を落として、手早く腹を裂いて内臓を取り出す。後ろ脚を縄で括り木にぶら下げて、暫く休息。五羽の首なし兎がブラブラしながら揺れている。

 

 漢字は『動2』を二個ゲット。必ず出るものでもない。この漢字のお陰で、憑依した当初動けた理由が判明した。それで動けるのだが、ミリパナの意識に反しては動けないようだ。その確認で『動』は使ってしまった。


 ちなみに、巻兎ラビホップというのは、長い耳が巻いており何かの拍子にピンと立つ玩具のような耳を持った兎で、食糧になるが毛皮にするには手間暇掛かるので、剥ぎ取らないようだ。


 これまでミリパナが狩りに使っていた武器は、弓と鉈である。鉈は先の尖った刃渡り二十センチほどの剣鉈と言われるものと、小物用の解体に使うナイフである。二十センチなのは、大物の心臓に届いて息の根を止める必要からである。


 インバクタとの闘いでは、その武器がなんの役にも立たなかった。そもそも、インバクタのような大物がこのあたりに居ることが、有り得ないのであって、やけっぱちで放った魔法が思いもよらず、強力だったことに感謝するばかりであった。なぜ突然強力だったのかは深く考えないらしい。どうすれば強力な魔法になるのか、学のない庶民は考えもしない。雨が降る、川がながれている、焚き火が燃えている、風が吹く、実際に目で見たことをそのまま魔法で実践しているだけなのだ。


 魔力の多寡によって、威力の大小があっても、柔らかい綿をどんなに大きくしたところで、ダメージは与えられない。しかし沢山の綿を、押し固めてぶつければ少しは有効にはなる。


 この数日間、何度か集落にある酒場兼食堂で聞き耳を立てていたら、色んな情報を得ることができた。閑散としているもんだと思っていたら、予想外に混雑していて驚いた。


 集落の住人は多くはない、流れの冒険者らしき者たちが、立ち寄る拠点になっているらしい。だからドワーフの雑貨屋や、宿屋、酒場が成り立っているのだろう。ミリパナは周辺で食糧や薬草を採取して、店に売りながら生活していた。そして、ミリパナも地元密着型の冒険者である。


 ここの土地は岩が多いため、農耕には適していない。その代わり岩を穿って鉱物を採取して、余所から農作物の対価としている。希少金属の鉱脈が見つかると、忽ち他領地から採掘者が群がり、盛況を呈したこともあったが、雨が降らなくなって、川が干上がり地下水の利権を領主が独占してから、寂れていった。さらに、鉱物の精錬で発生するガスで病気や、森への被害も拍車をかけた。



 __________と、ここまではなんとか情報を集められた。かなり推測が含まれているが、凡そこんな感じだろう。酔っ払った冒険者の口は滑らかだ。酒より水の方が高価なので、酔っ払うなというほうが無理がある。水泥棒は首が飛ぶ。


 水魔法が使えると、飲み水に苦労はしないが、領主に見つかると投獄される。例え魔法で出したにしても、水は領主のものという理不尽な法がまかり通っている。井戸はしっかり管理されていて、常に兵隊が番をしている。飲みたければ買えということらしい。冒険者は、水を買うためにダンジョンに潜る。腕に自信があれば、かなりの利益も得られる。



 今日の収穫の兎八羽を持って、酒場へ行くと奴らがいた。魔法技師スペルエンジニアだ。全身真っ黒な出で立ちから目を背ける。心臓がバクバクしている。住処の近くの川が見つかったんだろうか……、水魔法の存在を知られたのか……。顔面が強張って歩き方もぎこちない。


「ミリパナ、兎持ってきたのか、カウンターに置いてくれ」


 酒場のマスターも顔が引きつっている。名前呼ぶなよ、奴らに知られるじゃないと、心の声が叫んだ。


 魔法技師スペルエンジニアと言われる黒装束が一人、腰に剣を佩いた兵士らしいのが二人。客の顔を見ながら誰かを探しているようだった。そして、此方へ向かってくる。


 ミリパナを一瞥すると、カウンターに片手を乗せて、


「水の密売人がいるらしい、見かけたら報せろ」


「は、はい。」


 偉そうだな。此奴の何が怖いんだ?身体がデカい訳でもないし、威圧感もそんなに感じないけどな。魔法なんちゃらで、普通の魔法とは違うんだろうけど。具体的な情報を喋ってる奴が居ないんだよな。もしかして、みんなも見たことが無いとかじゃないだろうな。噂に尾鰭がついて怯えてるだけとか?


 奴等が店を出て行くと、全員が胸を撫で下ろして溜め息を吐いた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ