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ねこのなかのひと  作者: ままこたれこ
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3

 扉を開けて躊躇いなく内に入る。薄暗いが見えないことはない。


「だれだ?!」


 カウンターらしき向こう側から誰何されたが、誰もいない。


「ミリだよ」


「なんだミリパナか、久しいな」


 彼女の声を初めて聴いた。少し高めのトーンで若々しい少女の声だ。何故会話が聞こえているかの説明をしないといけない。この集落へ来る途中、ウサギみたいな生き物を、仕留めたら『聞』という漢字が浮いていたので吸収したのだ。ただ、『聞30』と数字が付いている。そして今、数字は28になった。ゼロになったら聞こえなくなるってことか……。まぁ、それも大事なんだが、彼女はミリパナと言うことがわかった。なんだか、嬉しい。自分が名前を授かったような気持ちだ。とは言っても、俺にはちゃんと名前がある。遠山一郎だった。


 誰も居ないのではなく、カウンターに遮られて見えなかっただけだ。背が低いのだ。そのくせ横幅は背と同じはある。所謂ドワーフという種族らしい。顔が肩幅と同じなのに、顔の造りは中心に固まってある。


「何を持って来た?」


「色々」


 道具屋か雑貨屋、あるいは両方なのかもしれない。数軒しかない集落それほど需要も供給もないと思うのだが、あとで意外なことを知ることになるのだった。


 そう言って袋から収穫したものを取り出す。小動物の毛皮数枚、松の葉っぱみたいな草、濁った水晶みたいな石、その他ガラクタにしか見えないもの多数。


「めぼしい物はないな、これだとたいして金にならんぞ」


「あぁ、わかってる。今日は聞きたいことがあったのよ」


「なんだ!?」


「私を見て気付かない?」


 ドワーフはミリパナを薄暗い中じっくりと見定める。


「相変わらず毛深いな」


「うっさいな!」


「おぬし肌が綺麗になったか?もっと傷だらけだったな」


「そう!それよそれ、不思議なこともあるんだよ……」


            そう言って今日の出来事を話していく。インバクタ(倒した獣のこと)を水玉で倒したこと、吹っ飛ばされても怪我もしなかったこと、、、


「ふむ、確かに不思議じゃな、そんな強力な魔法なんぞ聞いたこともない。奴らの使う武具以外ではな」


「やっぱりないんだね?」


「じゃがな、誰にも話したりしてはいかんぞ。お前さんの水魔法だけでも、奴等には目の上のコブなんじゃからな」


「うん、十分注意してるよ、今日だって死にそうなくらいだったから、仕方無く使ったのよ。アタシの魔法如きで倒せるなんて思ってなかったし」


「治癒のことは、さっぱりわからんな」


「アタマ悪いからね治癒魔法の呪文は覚えられないのよね」


「わはは……あれは長いからの、文字が読めて本を見ながらでも無理かもしれん。魔法技師スペルエンジニアが、世間を治めるわけじゃわ」


「文字かぁ、覚えたくても教えてくれる奴居ないからなぁ」


「読み書き出来るも、、、


 その先は聞き取れなかった。『聞』は無くなっていた。どんな基準で減るのかもわからなかった。


 聞いた限りでは、謎が増えただけでイライラが募るだけだった。魔法は大したこと無さそうな感じだと思った。恐らく生活が便利になる程度なんだろう。水がどうとか言ってたけど、貴重なんだろうか?庶民が読み書きできないのは鉄板だわな。


 魔法技師スペルエンジニアってのが気になったな。あぁもどかしい!なんとかこの娘とコミュニケーション取らないと、長生き出来ないかもしれん。『伝』使えないのかよ。





 それから数日が経過して、ミリパナは忙しく精力的に過ごした。現代人としては、肉体労働に関して信じられないほどの身体能力に圧倒された。初日に倒したインバクタの革を鞣し終わると、森へ入り肉を得るための狩りと罠の設置、薬草の採取、蔓草の採取(解して縒り合わせ縄にする)、薪用の木材の切り出し等々。時間があれば、魔法の鍛錬も行う。あれ以来自分の魔法が驚異的に成長(本人はそう解釈している)したので、どこまでやれるのか確認しなければならない。今までインバクタほどの魔物からは、逃げる一手な状況から積極的に倒すことになったのだから。ただ、呪文の長さはどうにもならないようだった。正面からまともに戦うのは、流石に無理なのは理解していた。


 この数日でまた『聞』を吸収できた。連続して出るんだけど、俺としては他の文字がでてほしい。というか、『耳』とか出ないのだろうか……。


 備蓄が消費を上回れば、一旦作業を止めて、魔物を求めて森の奥へと足を延ばす。ミリパナが使える魔法は、火、水、土の三つ。そもそも魔法で魔物を狩るなど有り得なかった。火は薪に火を点けて調理につかい、水は飲むか石桶一杯に溜めるだけ、土は石や岩を削って桶を作る程度だった。木で作らないのは、木が貴重だからだ。木は薪にして消耗するが木は成長が遅く供給が追いつかない。長年こうして消耗し続けて森が無くなってきた。食糧になる動物も減る。このあたりは、岩場が多く嘗てはドワーフ達が鉱山で生活していたが、鍛治などで木を燃やすため、森が消滅の危機になって廃れて行ったのだ。森が減り動物が減り、雨が降らなくなり更に森が無くなっていった。魔物は魔素を求めて森の奥や地下深くへと移動して、はぐれた個体が浅いところで人間を襲うのだ。ミリパナはそういった魔物を狩る仕事で生計を立てている。


 この地方を治める辺境伯は、水の利権を独占した。





誤字脱字がありましたらお知らせください。

お読みいただきありがとうございます。

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