25
翌朝力無く起きて集落へ移動した。
中心にある広場に、井戸っぽいものがあった。
近寄っていくと、兵隊に遮られ金を払えといわれた。お金取るんだ。
このままじゃ確実に死ぬ。食料も買えないし水も飲めない。
なんとかならないんだろうか……
『井戸ってここだけなの?』
「大抵の集落には一つだけかな」
恐らく監視できないからなんだろう。地下には水脈があるんだわ。
あそこにある井戸は、過去川が流れていた場所じゃないだろうか。集落って川の近くにできるよね。文明もみんな川沿いに発展したし。
地形をよく観察してみると、建物が若干井戸より高い場所に建ってる。井戸のある場所は窪んでるんだ。そしてその窪みは、筋のように建物の間を抜けて西へ続いていた。
『ねぇ!少し西へ移動しましょ』
疑問に思ったのだろうけどゆっくりと歩き出した。素直で良い娘だ。
『水飲みたいよね?』
「お金ないよ」
『でもずっと飲んでないよね?』
「うーん、少しあればいいからね」
『やっぱり飲まなくても大丈夫なんだね』
「うん、そうじゃなきゃとっくに死んでる」
さすがに元の世界のうさぎでも、もう少し水は必要だと思う。この娘が特殊なのか種族的なものなのかもしれない。まぁ、うさぎを飼育したことはないからよくわからないけどね。
『穴掘るのは得意なんだよね?』
何も言わずに頷いた。
『このあたりかな』
窪みの縁、斜面に対して穴を掘ってもらう。緩やかに下降するように……
手で堀ながら足で土を掻き出していく。器用だ。
暫く掘ると石が多くなって、さすがに掘るのが辛いらしい。それでもいつもの寝床の倍ほどの深さになると、土の色が変わってきた。
これ以上掘ると落盤事故になりそうなので良しとする。
色の変わった土を両手に山盛り持ってもらい『抽出』を使った。
乾いて白っぽくなった土を両手から抽出すると、手の平に僅かな水が残った。
『できたー、良かった』
ぶっつけ本番だったけど、旨くいった。三回ほど繰り返して終えた。本当に少しの水で良いらしい。
あとは食料なんだけど、さすがに無理だよね。出来れば狩で肉を手に入れたいところだけど、この娘接近戦しかできないからな。
見付けたら向こうも気付く。逃げられるの繰り返しで、狩りにならない。いままでは運が良かったんだろうね。トカゲとか、虫食べて凌ぐだねー。
集落に戻ると広場に人が集まってる。
なにやら余所の村が魔物に襲われてるらしく、人を集めているらしい。そこまで聞こえたところで何も聞こえなくなった。
あぁ漢字が無くなったんだ……ま、彼女あんまり喋らないからいっか。でも、情報が入ってこないと不味いか。
そういえば、名前も聞いてなかったよ。
どうやら、魔物退治に参加するみたいだ。
村というか、今までみた集落の三倍規模ほどのところだった。
十五人くらいがすでに配置についていて、周辺の警戒をしている。
説明のあと、広場で煮炊きしているので自由に食べていいらしい。
裕福な村なんだね。イモみたいな煮物だった。
井戸も使っていいらしい。あとから分かったけど、魔物に囲まれた時点で兵士は逃げ出したらしい。
その日から何度も魔物の襲撃を凌いだ。この娘は武器がナイフなので、弓を潜り抜けてきた魔物と白兵戦で戦っていた。
おかげで『聞』が沢山たまった。やっと情報収集ができる。
来た当初から、北の配置についていて、両隣が負傷したり死んだりして、使う人のいなくなった弓を勝手に使った。
なかなか手ごわい魔物だけど、この娘は戦闘が上手く、数を減らす仲間を横目に生き残っている。
私は危なげなく戦う娘の心配がないので、周囲の観察をしていた。
あとからやってきて、西側の配置にいたネコの人に注目した。
最初は弓が巧いなと思って見ていたが、一発必殺なのが目を引いたんだ。みんな苦労して当てても、一発じゃ死なないんだよね。
周りもそれに気づいて、話し掛けても答えてくれないみたいだった。なんか特別な弓なのかもしれないと、思ったけど見た目は普通なんだよね。
弓だけじゃなくて、魔法も凄い威力で、詠唱もしてないらしい。
ウサギちゃんの魔法も見せてもらったけど、あきらかにしょぼいし時間が掛かる。詠唱が長すぎるわりに、威力がないって使えないじゃん。
秘密があるよね。
この村の特産品は芋なんだけど、どこにも畑がない。芋は握り拳ほどの大きさで、岩みたいなので、岩モドキというらしい。これ馬鈴薯じゃないの?
もしかしたら毒素があるかもと、生芋から抽出してみたら、かすかに毒があった。たぶん煮てしまえば問題なさそうなので、食べられてきたようだった。
何かに使えそうなので、抽出して乾かして粉にした。
それからひと月ほど魔物との戦いは続き、やっと解放された。
『聞』があるうちに、ウサギちゃんの名前を教えてもらった。
そして、バニラとともにネコちゃんの後を追うことになり、見つかって取り込まれてしまったのでした。
結果的に、目的は果たされたのでめでたし。