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ガゴーボボザーザザ……ザッザッザッ
なにこれ?雑音が聞こえてるの?どういうことなの?私は慌てて耳を塞ぐような想像をしたら、音は聞こえなくなった。
何となくだけど、経過した時間が五分くらいで、ずっと雑音だった。いや、雑音なのかすらはっきりはしていないけど……。
ただ、集中するとさっきの漢字が見えるようになることが分かった。漢字が見えるとどうなの?状態ではあるけどね。そして『聞』の他にも『目』『調合』『抽出』『伝言』という漢字があるのが分かった。『聞』だけは数字が付いていた。34と。
『目』は即座に理解した。現状見えている理由はこれだと分かった。そうなれば、『聞』は音が聞こえるということになる。あの雑音……よくよく思い出してみれば、歩く音と風の音だとするなら、たしかに誰も喋っていなかったわけだから、雑音しか聞こえないのも頷ける。
『調合』も『抽出』も何となくは意味がわかるものの、取り敢えず後回しにしよう。それよりも『伝言』が想像通りのものなら一番に試すべきだろう。私は孤独から解放されたいのだ。
さて、集中してみよう。
『こんにちは』
どう言えばいいのか分からなかったので、挨拶してみた。これだけ短い言葉でも、かなりの集中が必要だった。長くなったら神経がキーーッってなりそう(意味不明かもしれない)
うーん、反応なしか……?もう一度。
『わたしはこまつ』
お!なんかビクッと身体が硬直したね。
『きこえたらなにかいって』
おぉっ!目が泳いでるよ。眉間に皺寄せて頭を傾げてるぽい。
『ねぇ!』
周りをキョロキョロ見回してるけど、誰もいないことに頭を抱え込んだ。拳を握り締めポカポカと頭を叩き出した。
『ちょ!やめなさい』
「だ、誰だ!隠れているなら出てこい!!」
凄く怖がってる。精神だけの私にまで身体中が小刻みに震えてるのがわかる。うん、わかるよ。怖いよね。
『ごめんなさい。出て行けるなら出て行きたいわ。でも私は貴方の中から出られないの』
「え、中にいる?」
更に混乱の度合いを深め、感情が高ぶって固まって動かなくなった。思考停止したようだ。
『おーーい』
呼びかけても反応がない。
数分が経過したけど、電池の切れた玩具のように動かない。いや、これ拙いでしょ、魔物でも来たらヤバいし。
そんなことを考えていると、ギギギギ……と潤滑油の切れたロボットのように、動き出した。
「私の中に居るって、どこから入ったの?」
そ、そこ!?いっぱい考えてそこなの?どごから入ったのなんてこっちが聞きたいわ。
『どこからとか、どうやってとかは私もわからないわ。気付いたらこうなってたの』
「そうなんだ……」
なんかそんな答えで納得してもらえたのか、再び何事もなかったかのように歩き始めた。んーなんか不安。マジで何事も無かったことにされてしまいそうな予感がする。
まぁ、何か聞かれても答えられないからこのままでいいのかな。私は残りの漢字のことを考えることにした。
『抽出』?何だろう?さっぱりわかりません。どこからなにを?やってみようか……論より証拠。『抽出』という文字に対して集中すると、特に何もおこらない。集中が足りないんだろうか?意味を考えてみれば、何かを絞り出すみたいなことじゃないかと思う。濡れたタオルを搾れば水が出るみたいなことだよね。(違うかもしれない)そういえば、水が無いよね、なんか乾燥してるし、植物が無いじゃない!何この世界。
水を飲んでるのを見てないことに気付いた。いくつかの集落でもそれらしきことはしてない。飲まなくて平気なの!?
だけどさ、こんなに乾燥してるし気分的に喉を潤したい。私は飲めないんだけどね。だけどこの子が飲まないで死んだら私の存在も無くなるかもしれない、と、今更ながら思った。
水、水か……他のヒト?はどうなんだろう?んーもっと注意深く見てるべきだった。
このまま移動してれば、また集落に着くんだろうからちゃんと観察しておこう。
夕方近くに集落が見えてきた。いつものように、集落の外で穴を掘ると、その中で休んだ。穴掘るの早いんだよね。それにしても、なんで穴なんだろう?こんな穴如きで身を守るなんて初めて見た。
この穴なんだけど、かなり狭い。よくこんな所に頭から入って、中で方向転換できるもんだと感心しちゃうわ。身体が柔らかいんだろうけど、ほぼ二つ折りになる余地がないんだけどなぁ、そこから足を奥に……んー絶対無理。そして最後に背負っていたリュックのようなのを蓋にしている。閉所恐怖症になりそう。
もう食料が無いらしくて、昨日から何も食べていない。水所では無い気もする。