表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねこのなかのひと  作者: ままこたれこ
15/25

15

 眼下の涸れ谷には小ぢんまりと寄り添って人家が固まっていた。ここも緑は無く一面大きな岩石がゴロゴロした、ガレ場だ。俺たちが居る禿げ山から転がり落ちた岩石のようだ。端から見れば暮らしにくそうにしか見えない。


 転がっている岩石を退けていくと、土が露出してくる。土を掘ると地中から、丸くてゴツゴツしたものが出てくる。それがこの村の特産品である[岩もどき]という芋だ。


『ジャガイモに似てるな。名前がギャグだけどな。岩にも見えるからいいのか』


「あたしのなかのひとは、変な事ばっかり言うから意味が分からない」


 禿げ山を降りてコロリ村に近づくと、石を積んだ防護壁の陰から誰何される。


「だれだ!どこからきた?」


「……」


 ミリパナちゃんと答えないと、攻撃されても文句言えんぞ。


「グナスに頼まれて来た」


「分かった。すまんが飛び越えて入ってくれ」



 壁の中には見張りとして、三人が配置に付いていた。この他東西南にもそれぞれ三人づつ配置されていて、あと半数が用意された宿舎で待機している。ミリパナを加えて二十五人で、リーダーのグナスが帰れば更に増える予定らしい。


「良く来てくれた。俺はブッツェだ。よろしくな」


「ミリパナ」


「休んだら、西側の守りに付いてくれ。岩もどきが煮えてるから、自由に腹拵えしといてくれ」


 そう言って離れていった。岩もどきを手にとって齧る。ミリパナに食感を聞くと、ホクホクして美味しいらしい。煮てあると言ったが、お湯に入れてあるだけなので、茹でてあるということだ。砂糖や醤油がないから芋の味しかしない。せめて塩でも振り掛ければ、さらにいけるはずだ。こういった野菜類の食べ方が確立されてないんだな。塩は岩塩があって、干し肉にも利用される。岩塩は、なんとダンジョン産が九割を占める。塩に含まれるナトリウムが機能維持に不可欠で、ビタミンと同じくらい重要な栄養素なのだ。



 閑話休題。


 防御壁に背を預けて、装備の点検をしている。十メートルほどの間隔を空けて、ミリパナを含めて四人が配置に付いていた。防御壁の高さは鳩尾の辺り。壁の外側は、緩やかに下っていて、襲ってくる相手には登りになる。障害物が無いのは、予め片付けてあるためだ。遮蔽物のない敵は弓の餌食となるのだ。木が少ないということは、竹なんかもほとんどない訳で、シャフトはどんな材質なのか気になるところだったが、普通にアルミニウムみたいな金属だった。銅を混ぜた合金なのかは、俺には分からない。


 ミリパナは一番北に近い西側で、北側と連携出来る位置だ。ミリパナ以外の獣人も居るが、猫ではないようだ。尻尾は隠されているし、耳だけじゃ犬系と猫系の区別も難しい。余りジロジロ見られないし、ミリパナは判別してるだろうから見もしない。


 南側から声が挙がった。グリシが数体姿を現したらしい。町の宿舎に伝令がはしった。陽動かもしれないので、他の方面にも警戒を強めるように指示がきた。陽動出来るほどの知恵はあるんだな。そんな事を考えていると、西側にも、ウロウロしている姿を確認した。緑黒い四つ脚の魔物で、サッカーボール位の丸い球に切れ込みがあって、パカッと開くと白い牙がサメの歯のように、たくさん並んでいる。そして顔には鼻も目もない。


 ミリパナが弓を引き絞っている。隣の男も同じように何時でも放てるようだ。誰かが合図したわけでもないのに、一斉に矢が放たれた。更に二射目が放たれ、前方には三体の背中に矢が突きたっているが、倒れることもなく逃げようともしない。二体が倒れている。ミリパナの矢に合わせて、石を飛ばしたら、頭を直撃した。試しに『強』を石にくっつけたら強力になったみたい。二体からは交換に『速5』と『強10』を得た。


 隣の男がこちらを見ている。何でおまえだけ倒せる、とでも言いたそうだ。ミリパナは手負いの一体に土弾を放つ。グリシの頭を潰して倒した。隣の男も矢を番えて放つと、三本目が突き立ち倒した。三体目は、他の二人が五本突き立てた後に始末した。西側はクリアになったが、北側はまだ倒し切れてない。もたつく間に壁際まで近付かれ白兵戦になっていた。宿舎からの応援が到着して、やっと片付いた。南側に六体、北側にも六体、西側は五体で東は無しだった。南と北で軽傷者が一人づつでた。


 その後断続的に襲撃があり、三日で八十体を倒した。こうなると矢の補充が追い付かなくなり、三日目には白兵戦主体になった。ミリパナは、魔法で縦横無尽に活躍して、冒険者たちの危機を救ったが、怪我人は増える一方だった。余程の重傷者のみ『治』を使ったが、戦闘との両立は魔力切れの危険性もあって、出来なかった。襲撃の合間に可能な限り、魔物から魔力袋を回収はした。それでも魔力切れの危険性はあった。三日で二人死んだ。


「あんたの魔法?だよな。どうやったらあんなに威力が出る」


「それよりも詠唱してるの?」


「間隔が短いのはどうしてだ」



『こうなるわな……やりすぎたかな』


 ミリパナはだんまりを決め込んで躱した。普段から無口なのが幸いした。


 その翌日にはグナスが矢の補充品と、新たな冒険者十人を引き連れて来た。村の鍛冶屋も矢の増産と、刃物の整備に努め、力を取り戻した。それでも犠牲者は出た。グリシに噛まれると、何重にも歯が食い込み抜けなくなる。そうなったら噛まれた部分を失うしか方法が無くなる。腕や足を失うなら幸運かもしれない。





 結局一カ月掛かって魔物の撃退に終止符が打たれた。村は生き残ったものの、冒険者への報酬で財政の危機となってしまい、報酬の一部を現物支給で賄う他なかった。岩もどきの他、乾燥岩菜というカルシウムを多く含んだ野菜である。俺たちは収納があるから、持ち運びには問題ない。まぁ、知られると不味いので袋に入れる振りで誤魔化した。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ