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ねこのなかのひと  作者: ままこたれこ
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 一本の枝に葉が五枚並んだ絵の古びた看板が、店先に吊り下げられていた。雑貨屋とは書いてないが、恐らく此処だろうとあたりを付けた。どんな意味があるのか謎である。


 一枚板の扉は昔は木材が豊富だったことの象徴でもある。軋み音を上げて開くと、例に漏れず薄暗い。雑多な商品が所狭しと並べてある。ミリパナはゆっくりと棚を見回し、本を探した。


「いらっしゃい。何か探し物ですか」


「……」


 ここでもだんまりなのか。コミュ障め。


『本って言えよ』


「ほん」


 ……ったく、もうちょっと、言い方があるだろ。


「本を探してるんだな?ちょっと待ってくれ」


 店の人は、少しだけ不機嫌そうな顔でそう言うと、奥へ引っ込んだ。暫く待たされると、両手に本を抱えて戻ってきた。


「ウチに置いてあるのは、この五冊だ」


 革張りの装丁が如何にも高額ですと主張している。そして一冊一冊それぞれ分厚い。ミリパナは一冊を手許へ引き寄せて、表紙を捲る。


「表紙を捲るだけならいいぜ、中身は買ってからにしてくれ」


[魔術教範Ⅱ]


『最初に習う奴ならⅠだろうな』


 ミリパナは頷いて他の四冊を開いていった。


[建築の基礎] [初級魔法] [食べられる草花] [川の生き物]


『その二冊が魔法関連だな。他のは要らない。二冊は買えないよな?』


「これとこれで幾らになる?」


 俺は文字が読めたことに安堵していたが、二冊になるとは思ってもいなかった。もう少し中身を吟味したいところだが、買わないと見せてはくれないだろうな。


「二冊だと金貨六枚なんだが、お負けで五枚でいいよ」


「ペンとインク買うから羊皮紙も二枚お負けしてよ」


「ああ、わかったよ。本二冊とペンとインク、羊皮紙。まいどありー」


 ミリパナはお礼も言わずに店をでた。おまえ本当に嫌な女やな。愛想がなさ過ぎだわ。取り敢えず『庫』に収納して、宿に宿泊するのか?野営か?


「宿探そうか、負けてもらったから余裕あるし、本の確認もしたいでしょ」


 おぉ!ちゃんと考えてくれてるんだな。嫌な女とか言ってごめんな。宿屋は二軒あった。一泊晩飯付きで銀貨一枚。どちらも同じだった。


 部屋は三畳ほどの広さに、椅子とテーブルが置いてあり、ベッドではなく釣床ハンモックだった。トイレ用の桶が置いてあるくらいで殺風景極まりない。寝るだけならこれで十分なんだけどね。当然水は有料だ。ミリパナには必要ないんだけど、夕食時に怪しまれない為に一杯の飲み水を買った。必要経費だな。



 ずっしりと重みのある本を捲っていく。ミリパナには読めないが、『読』のお蔭で俺には読めてしまう。読み始めて違和感に気づいた。本当にこの世界の言語何だろうか?どうみても日本語にしか見えない。しかも英単語を日本語読みしたものが、混ざっている。要するに現代風の文章なのだ。〈火〉という日本語を〈ファイヤー〉と書いていたりするわけだ。日本語だとダサいみたいな、横文字使えばカッコイイそんな感じだ。それと略語まで入ってたら、読めたとしても意味なんか分かる訳ない。ミリパナの呪文も何度か聞いてるのに、さっぱりなのはこういうことだったのかもしれないのと、イントネーションもかなり違っている。まぁ棒読みだ。


 いくつかの書かれた呪文を、伝言で伝えて同じ物を特定する。特定した呪文を『写』を使って、羊皮紙にコピーする。内容を吟味して要らなそうな文を削りながら、詠唱してもらう。削ったり、戻したり試行錯誤しながら、新しく呪文を構築していくと、半分に短縮することができた。ミリパナにそれを覚えさせるのに時間が掛かる。いままでの呪文だと思わずに、新しい呪文として新たに覚えようとした。いつの間にか朝になっていた。結局もう一泊する事になってしまった。


 発動してみればイメージそのものが、現実として見える。その内容でミリパナがそれをイメージ出来てしまえば、もっと短く出来る。発動して結果をみれば恐らく、それもできてしまうだろう。今は宿屋の部屋なので、魔力を絞っているので、結果は見えない。


 夢中なあまりに、また朝になっていたのに気付かなかった。二徹して結局寝そびれてしまったのに、ミリパナは元気そのもので、期待にワクワクドキドキしている。ほとんど間違えずに詠唱出来るようになってきた。さすがにこれ以上宿泊は、金銭的にも依頼のためにも出来ない。


 コロリ村へ。


 移動中の食糧にはまだ余裕がある。『庫』の存在感が半端ない。コロリ村までは二日の距離。移動中も繰り返し詠唱訓練。魔物を見つけては発動を繰り返す。詠唱時間は格段に短くなっている。


『使い物になってきたな』


 だけどごれまだ取っ掛かりに過ぎないからな。たった一つの呪文を短縮出来ただけだ。それも途中なんだから、最終的には無詠唱にしないと。


 [初級魔法]には、水魔法はなかった。ミリパナとしては使用頻度の少ない土魔法と風魔法の二つで、風魔法は全く知らないのと使い勝手に慣れていなかったので、土魔法にしたのだった。これまでの使い方は、地面に穴を開けてゴミ捨て場にしたり、岩を削って瓶にして水を張り洗面に使ったりする程度だ。水魔法のように圧縮して飛ばすことで攻撃にも使える。どちらかといえば防御のほうが向いている。


 二日の移動中に、『強8』を手に入れた。




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