13
遠目でみた町は、確かに町らしかった。建物も多く、なによりも多彩な色が溢れていた。ミリパナのいた集落は、全体が枯れたような灰色だった。そして、動いている何かが町を出入りするのが見えた。
近づくにつれ更に詳細が分かってきた。町の周りには塀があった。大人の胸までの高さしかないが、内側の様子が簡単には分からないし、隠れて防御する事も出来る。日干しレンガを泥で固めてあるようだ。
塀の切れ目に門らしきものがあって、そこを荷物を満載した動物が入って行くのが見えた。動物の背には、バランスが崩れたらひっくり返りそうなほど何かがのっていた。
門を潜ろうとすると、槍を持った兵士らしきドワーフに止められた。
「待て!旅人か?どこからきた?」
「北の集落から」
ミリパナは簡潔に答える。元々口数は少なく知り合いじゃない限り素っ気ない。
「ダンジョンの村か、よくぞ来られた。ゆっくりしていかれよ」
なんかあっさりしてるな。女の一人旅とか詮索しないんだな。煩く調べられるよりはましだけど。
『荷物運びの手段は、あのトカゲみたいなのだけか?荷車とかないのか?』
魔物もそうだけど、トカゲ率が高いのな。
「アリュウのこと?大人しくて、力持ちなのよね。荷車って何?」
『荷車は荷車だよ。説明が面倒臭いわ。アリュウっていうのか、人は乗れないのか?』
「あたしのなかのひとは、不思議なこというのね。乗ってどうするの?」
『えっ!?』
乗ろうという思考にならないのか?荷物運べるんだから、人を乗せてもいいだろ。
『乗って移動すれば楽だし早いだろ?』
「……あたし歩けるし走れるよ」
いや、そういうことじゃないんだなぁ。ま、いいや。説明面倒臭いわ。どうせ俺はミリパナ任せなんだし、走れって指示すればいいわけだし。もしかしたら、あのトカゲは足がめっちゃ遅いのかもしれんし。やっぱ、小説や漫画の世界みたいな展開には、なるわけないよな。車輪作ったらお金持ちだったら、魔物狩りなんてやらなくていいんだけど。まぁ錬金術が可能になったら、趣味でミリパナに作らせよう。
『そうだな。走れるなら乗らなくていいよな……あはは……』
「干し肉じゃないもの食べよう」
こういうとこは女ぽいな。ミリパナは食べ物屋を求めて歩き出した。食べてれば幸せみたいなのは、どこの世界でも同じってことか。
町とは言え重複するほど店はない。食堂は一軒あった。旅の商人か北へ死にに行く、冒険者くらいしか客はいない。確かに魔物狩りしてりゃ、地道に働くよりは稼げる。てか、仕事の選択肢なんてあまりないっちゃーないけどな。農業が壊滅的な状況(全く無いわけではない)で、辺境泊の領地では水の確保が無理だから、余所なら多少可能性はある。現に商人が野菜類を運んでいる。あとは、薬屋とか鍛冶屋。怪我なんて日常茶飯事だし、武器防具は必須アイテム。魔術師なんかは、呪文を覚えさせるのが仕事だし。俺の知らないことも、まだまだたくさんある。そういう知らない事を知る術が限りなく少ない。ミリパナが宛てにならないからな。
鶏肉みたいな煮たやつを、むしゃむしゃ頬張っている。食べ方が汚ねーな、などと思いつつ初めて見た亀の甲羅を深皿に使った料理に感心する。ナイフやフォーク、箸なんて使わない、誰もが手掴みだ。
兎に角、ミリパナを強くして、いや、俺が強くしてやるなんて烏滸がましい、強くなって貰ってだな、死なないようにしなきゃな。一つ一つクリアしていくんだ。まずは本だな。
そろそろ食べ終わるミリパナに、雑貨屋へ行こうと促そうとしたところに、体格の良いおっさんに声を掛けられたら。
「すまねぇ、食事が終わったようなんで声を掛けさせて貰った」
見たところ冒険者らしい中年男だが、結構礼儀正しい。
「俺はこの町で冒険者をしている、グナスという」
「……」
「あんたが北のダンジョン村からやってきたって、門番のドワーフから聞いた」
ミリパナは何も言わない。コミュ障かよ。てか、あそこはダンジョン村って名前なんだな。まんまやな。
「冒険者と見込んで頼みたい。
この町の南にコロリという村がある、ひと月前辺りからグリシの群に襲われるようになったんだ。最初は村だけで撃退できてたんだが、数が増えるばかりで損害が酷くなってきた。そこで冒険者を雇って対抗してるんだが、人数が足りない。助けて貰えないだろうか」
「……」
『うおいっ!なんとか言ってやれよ』
「報酬は?」
『いきなりそれかよ』
「もちろん、一日銀貨三枚と食事も用意する」
さっき食べた飯が銅貨三枚だから、その十倍か。ミリパナ計算出来るのか?
「わかった。なるべく早く行くよ」
「有り難い、よろしく頼む。あちらで会おう。それじゃ」
そう言って離れていった。コロリ村か、病気で死にそうな名前だな。
『雑貨屋いくぞ』
「うん」