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ねこのなかのひと  作者: ままこたれこ
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 俺は思い違いをしていた。この世界の魔物が想像していたものと、かなり違っていたので、定番の奴は居ないんだと、勝手に思っていた。足元でプルプルしている、ゼリーのような生き物を見るまでは。


『これスライムだろ?』


「えっ!?これってそんな名前なの?」


『うおいっ!知らなかったんかい』


「あたし初めてみたもん」


『えっ!?マジかよ。おまえ本当にこの世界で生まれ育ったのか?』


「だって、あの岩場にはこんなの居なかったんだよ」


『お前って、相当世間知らずだな』


「ね。これ食べられるの?」


『どうなんだろう?』


 グルメ系のラノベとかは、食べてたな……戦闘系では食べられない方が多かった気がする。それに分裂して増えるみたいなのもあった。


『どっちにしても、取り敢えず殺してみよう』


 ミリパナは、剣鉈を抜いて斬りつけた。ポヨンとして、二つに割れたように見えたが、傷ついてもいなかった。すぐに元の水滴のような形に戻ってしまった。


「斬れてなーい」


『そういや、火が弱点だったわ』


 ミリパナは、火炎の呪文を唱えた。スライムは、危険を感じたのか、ポヨポヨと移動して逃げ出した。しかし足取りは遅く、長い呪文が唱え終わるまでに、視界から消えることは叶わなかった。火炎が手から伸びる瞬間、スライムの形は崩れ地面に消えてしまった。


『消えちゃったぞ』


 火炎は何もない地面を焦がしただけに終わった。やっぱ長すぎて使えんな。それにしても、スライムかぁ。てことは、ゴブリンとかオークなんてのもいるっぽいな。んーだけど、こんだけ森林がないんじゃ絶滅してるのかな。


 一日目は、この件があっただけで、特には何事もなく終わった。暗くなる前にタコツボを掘り、すっぽりと中に納まる。これで視認する事はできない。焚き火はしない。目立ちすぎる。干した肉を魔法の火で炙って食べた。持ってきた板を『庫』から出して、穴に被せるとミリパナは眠った。俺は見張り。なにしろ寝なくても何の問題もない。タコツボの周りは色々罠も仕掛けてある。危険な距離に近付かれたら『壁』で防御か『石』を投げる。これで、余程のことがないかぎり、安全は確保できたと思う。


 「うひゃう」


 ミリパナがおかしな声を挙げて目を覚ます。


「なんなの!?えっ?えっ!こ、これ……」


 丸まって寝ていた腕の中に、水滴のようなスライムがいた。ミリパナは咄嗟に、腕に力を込めて逃がさないわよ、と言わんばかりに締め上げた。


「ていっ!てい!、どうだ死ねー」


 スライムは、全く動じる様子もなくポヨポヨするだけだった。なんだか此奴には敵意が感じられなく、ミリパナが遊ばれているようにみえた。そのうちミリパナが喘ぎ声を出しはじめた。


「んーそこ、うんそこよ……あんあん、いいよ」


『おい!どうした、どうなってる?』


 最初は胸のあたりでモゾモゾしていたスライムは、力の緩んだ腕をすり抜けて、太腿の付け根あたりでモゾモゾしている。服の中にまで入り込んでいるようだ。なんだこりゃ、変態スライムじゃないか。


 すでに朝になっているらしく、板の隙間からは明るい日差しが入ってきていた。ミリパナはすっきりしたような顔で、恍惚としていた。スライムの方は、昨日見たより黒ずんだ色になっており、外に出たがっていた。ミリパナが板を退けてやると、飛び跳ねて外にとびだした。しきりにゲロゲロと吐き出していた。それは、風呂に入らないミリパナの、老廃物や抜け毛だった。エロいことしてたんじゃないんだ。変な声出すなよ!勘違いするだろ。


 本日も軽快に進んでいる。ただ、ミリパナが背負っている袋には、なぜかスライムが入ってポヨポヨしている。なんか、風呂に入ってすっきりしたような顔をしている。スライムに頬ずりまでしていた。殺そうとしてたくせに。てか、美容に目覚めたというか、キレイにしようみたいな意識が芽生えたらしい。今まで見ようともしてなかった、自分の顔や髪の毛を頻りに触って、剣鉈の刀身に映していた。


 お陰様でミリパナの素顔が見られました。髪は肩に掛からないショートの銀色で、頭の上に猫の耳がちょこんと乗っていた。顔は文句の付けようがない美少女だった。瞳の色は薄い翠で角度によって水色。大きな目に長い睫毛、、、etc。


 午前は何事もなく距離も稼げた。暫しの休憩。露出した岩の影に背を預け、スライムをモキュモキュしていると、突然プルプル小刻みに揺れ出した。震えてるのか?


 ミリパナは岩の上に飛び乗り、辺りを見回す。黒い影が数体ウロウロしている。


「オオカミぽい」


『群れだな』


「五頭位だね、仲間を呼ばれると面倒臭いね」


『んじゃ、ミリは右側からな、俺は左側から殺る』


「わかった」


 俺はミリパナが水弾を発射するのを待って、オオカミが此方に気付いて近付くのを待った。水弾のほうが有効射程が長いんだ。何が起きてるのか分からない内に、五頭全てを倒した。


 五頭の魔力袋を回収して『庫』に仕舞った。此奴等の肉は固いのでいらない。俺には漢字の報酬はなかった。がっかりだよ。


 特別ヤバイ奴と出会うことなく、道程を消化して7日間の旅程を終えた。少し迷った。町は殆ど真南にあったが、俺たちは少し東に逸れていた。『記』を使うと進んだ道筋が線で見える、本来真っすぐであるはずなのが、微妙に弧を描いており、東に逸れていたとわかった。一応あとで羊皮紙に位置関係だけでも記録しておこう。移動の度にこまめに記録しておけば、いずれ地図として使えるだろう。


 さて、町はどんな所だろう。




お読み頂きありがとうございます。

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